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 一人暮らしのアパートに帰ってから、玄関に濡れたビーチサンダルと傘を取り捨てて音の
ない湿った部屋に閉じこもった。笹竹を飾ろうと思っていたベランダにむなしい空きスペースが
残っていて、雨の音を聞きながらいつまでもそれを眺めていた。
 胸が冷たい。
 あれが自分の気のせいなら、獅子はここへ来てくれるはず。いや気のせいじゃなくても
弁解のために来るかもしれない。最悪のシナリオで未来を練っておいたほうが傷つかなくて
済む。

「べつに大したやつだって思われてなかったってことかな。キスぐらいで」

 また涙が溢れてきて口をつぐむ。体育座りをして俯いたせいで、畳の上に涙が落ちて染みた。



 雨は日暮れ時になってようやく止んだ。雨音がなくなっただけで誰も来ない。
 いつのまにか畳の上で横になっていた体が、壁の薄い家の前の足音を聞きつける。

「蟹ー! いるー!?」

 魚の頓狂な大声がして蟹は身をすくめた。足音は一人分ではなく、二人以上が大挙している
ように聴こえる。それはすぐに部屋のチャイムを押し鳴らしドアを叩き始める。

「蟹、どうした! 俺のせいなのか!?」

 魚の声についで獅子の声が聞こえてきたとき、蟹の身体は思わずびくりと震え上がった。