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 怖かった。ドアの向こうの人々に答えることが。
 またすぐに、気持ちがこみ上げて醜態を晒してしまいそうで。

「蟹! もしかしてさ、蟹は女の人を連れた獅子を見なかった!? 長い髪の。
 そのせいだったら絶対勘違いしてるから! 開けて」
「そ、そうだ! 俺のせいじゃないぞ」

 なにが獅子のせいじゃないって?

「どうしてうちにまで来るんだよ……」

 怒りに震えた声が思ったよりも小さくて、急に腹が立ってくる。なにが獅子のせいじゃない
って? こんなに、こんなに酷い思いで一日動けなかったのに。
 蟹は泣きながら怒りにかられてゆっくりと立ち上がった。ものものしい足取りで、玄関に
立ってドアを開ける。音だけで不穏な感情が溢れ出ているのを知らしめながら。
 来客は三人いた。一人は魚。そしてもう一人は獅子。それから長い髪でスカートを履いた男。

 なんとなくシュールな違和感があったのでもう一度凍りついた面々を凝視してみると、
三人目の所に真顔で女装した水瓶が立っていた。がに股でスネ毛を美しく除去した生足に
白いピンピールを履いていた。九十年代のボディコンみたいな衣装だと思ったがそれを口に
出すのはためらわれた。

「やあ」
「うん。なんで女装?」
「女装が通用するシチュエーションの研究をしていた。ハイヒールは歩行向きじゃないね。
 僕には歩行不能だったので途中彼の腕にしがみついて休んでいた」
「なんで獅子?」
「より女性らしさを演出するために暑苦しい比較サンプルを探しててつい」
「とりあえず土下座してもらっていい?」

 数分後、アパートの廊下に蟹の奇声とも怒声ともつかない雄叫びが響き渡るのであった。
 このとき廊下に出た二件隣の住人は獅子と水瓶を怒鳴りつける鬼のような蟹の姿に恐れ
おののき、気づいた魚にぺこぺこ頭を下げられて見て見ぬふりをしたもののしばらく近所
づきあいに支障をきたすこととなる。