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社会人になって、俺たちは学生の時のように頻繁には会えなくなった。
お互いに忙しく、なかなか会う時間が取れない。
さらに、会社に近いところで一人暮らしを始めた牡羊のこの部屋は、俺たちの実家からは少し遠い。
たまにここを訪れては、家事を手伝ったり日保ちする料理を作りおきしたりしてはいるけれど、
眠い目をこすりながら夜遅くまで海外ドラマのDVDを一気に見ることや、
おいしいと評判のラーメンを食べるためだけに遠くまでドライブすることは、もうないのかもしれない。

 こうしてお互いの誕生日を祝うのだって、いつまで続けられるかわからない。
新しい生活はもちろん、それはそれでとても大事なんだけれど、会いたいときに会えて、
いつまでも一緒にいられたあの時間はもう戻らない。
それが大人になるということなのかもしれない。けれども、やっぱり寂しい。
変わらないものなんてないと頭ではわかっていても、
しばしば俺の感情は、理性や常識を少しだけ踏み越えてしまいたい衝動にかられる。

「なぁ、蟹覚えてる?小学校1年の時の、お前の誕生日」
 牡羊が鍋の火を弱めながら俺に話しかける。俺は笑いながら答えた。
「ああ。あの時は悪かったな。でも、いきなりどうした?」
「いや、なんか懐かしくなってさ。俺、蟹の誕生日になると絶対あの日のこと思い出すんだよ」