「おい泣くなって」
いつの間にか隣に座っていた牡羊が、うろたえながら俺の頭にそっと手を置いた。
照れているのか、足の指をもぞもぞと動かしている。
ふう、と大きく息をついて呼吸を整えると、俺はその水色のカードを手にとってじっくりと見つめた。
「あの時以来さ、カードとか渡したことなかったじゃん。
最近あんまり会えてないから、たまにはいいかなって」
そう言って優しく笑った牡羊は、俺の肩に頭をあずけてきた。
牡羊が、覚えているわけがない。
あの時のあのカードに何が書かれていたかなんて、何度も読み返した俺しか覚えていないはずだ。
それなのに…。
「俺の、今の気持ちってやつ?すっげえ悩んで書いたわりに普通になっちゃったけど」
早口に言葉を紡ぐ牡羊の頭に自分の頭を寄せて、俺はそっと目を閉じる。
まぶたの奥で、今手にしているカードと、
一字一句同じ文章がひらがなで書かれたカードが重なった。
「ありがとう牡羊。すごく嬉しい」
あの頃とちっとも変わらない、でも、少しだけ大人になった牡羊に、俺はもう
一度恋をした。
『誕生日おめでとう
これからもずっと一緒にいてください
大好きな蟹へ 牡羊』
おわり
最終更新:2008年08月23日 19:14