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 ふざけた論に対して、獅子はまっとうなことを言った。
「ふざけるな」
「俺は真剣だ」
「真剣ならなおさらふざけるな。俺はどう考えたってMじゃない。Sだ」
 そっちが問題なのかよ。
 射手は真剣な顔で足元を見つめた。
「いいアイデアだと思ったけれど、根本的に無理があったか」
「おまえこそMになれば良いんじゃないか? 動けなくなっても落ち込まずに済む」
「それじゃ俺の問題は解決しねぇ。俺さ、手や足が動かないのも嫌だけど、いちばん
嫌なのはチンコだと思うんだ」
「……」
「好きな子のところに飛んで行って、いざ本番って時にチンコが役に立たなかったら、
俺のプライドはズタズタだ」
「たしかに、それは恐怖だな」
「だろ? だから俺はふだんから自分に言い聞かせてる。夜這いだけは歩いて行くよ
うにしようって」
 馬鹿だ。こいつら、馬鹿だ。
 大笑いしながら俺は、今まで悩んでたこととか、苦しかったこととかを忘れていた。
 誰だって、何かが出来なくなったり、とつぜん駄目になったりすることはある。
 大切なのはそのあと、何かが出来ない自分とどう付き合っていくか、そして今の自
分に出来ることは何かを、考えることなんだろう。
 やがて射手が「酔った。あつい」とつぶやいて姿を消した。
 同時に海のほうで、水しぶきがあがる音を聞いた。海上に飛んで落下して、体を冷
やすことにしたらしい。
 すると獅子がちらりと俺を見て、そばの袋に手を突っ込んだ。ビール缶を取り出し、
それを俺に放ってよこす。
「射手は口が軽い。俺はそうでもない」
 ……実は興味があったんだ。ちょっとくらい、いいよな。
 そっとビールのフタをあけて、飲んだ。苦かった。あんまり美味くはないような。
 獅子が俺の表情を見て笑う。そしてタバコを取り出し、一本を咥えて、指先から火
をつける。