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 話が完全にそれたことが有り難くて、俺は気軽に了解した。
 河原を歩き回った。ボールはすぐに見つかった。川の中の、流れのよどんだところ
に引っかかってる。
 俺は靴と靴下を脱いで、ズボンのすそをまくりあげて、川の中に入り、ボールに近
づいていった。
 つめてー。なんか足元ぬるぬるするし。あと一歩で手が届くと思った。そのときだ
った。
 なにかが俺の足を引っ張り、コケた。
 あわてて足元を見たけれど、なにもなかった。
 最初、俺は、ドジをやったんだと思っていた。川底の石に足をすべらせたか、つま
づいたかしたんだろうと。
 しかし違った。俺の足首に感触がある。俺は足首を掴まれている。見えない何かに。
 俺は先輩を振り返った。
 先輩は、両手でなにかを掴むポーズを取っていた。その姿のままこう言った。
「戻って来いよ牡羊。試合に使えばいいじゃねえか、力を」
 水が冷たい。そのせいか、体の血がすっと冷えた。
 この人、能力者なのか?
「……無理だ。できねぇ。わかるだろ先輩」
「わかんねーなあ。せっかくの力をなんで使わないんだ」
「ズルはいやだ」
「ズルじゃねーだろ。個性の発揮だろ。しかも自分の力を病気扱いかよ。どうかして
るぞおまえ」
 どうかしてるのは、あんただ。
 俺に必要なのは判断力。即座に俺は念じた。先輩の体を持ち上げた。
 先輩は浮きながら、笑っていた。
「すげーなおまえ、話には聞いていたけど、やっぱすげえ!」
 俺のほうは、戸惑っていた。これからどうすれば良いのかと。
 先輩を地に叩きつけるのは簡単だ。大怪我をさせるのも簡単だ。殺すのも簡単だ。
……それが、俺にはできない。