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 だいいち、考え方の違いはあるみたいだけど、ハッキリと悪意をぶつけられたわけ
でもない。
 俺は祈るような気持ちになった。敵であってくれるなと。
「足から手ぇ離してくれ先輩。怖いんだ」
 俺の祈りは届かなかった。
 俺は、引きずられた。俺のからだは川底に擦れつつ移動した。足首を掴んでいた手
の感触は、そのまま俺を、川の深みに引きずりこんだ。
 水の中で俺は、手を動かした。しかし俺が水をかいて浮こうとする力よりも、先輩
の引っ張る力のほうが強いらしく、俺の足は川底に固定されてしまった。
 足元を見る。能力を使って脱出できるか? しかし俺を引っ張る力は目に見えない
もので、能力をぶつけることができない。
 パニックの感覚が来る。少し水を飲んだ。
 俺には判断できない。どうすればいい。このままコンクリ漬けの拷問死体みたいに
なっちまうのか。どうやって脱出すればいい。
 苦しい。酸素不足が俺から冷静さを奪う。逃げたい、逃げたいという思いだけが俺
を支配する。
 その思いと苦しみのすべてを、自分の足元に向けた。
 俺は急速に浮上した。俺は川底の石を広く持ち上げ、それに乗る自分ごと上方へ移
動させたのだ。
 水面に岩を並べ、その上に立ったまま、俺は水を吐いて咳き込んだ。
 辺りを見回す。先輩の姿は見えない。足首の拘束も消えている。
 飛び石を並べて移動する。河原にたどりついて、俺はひざを折った。
 疲労が来てる。制限のぶんと、水中での窒息のぶんと。
 動けるうちに逃げたほうがいいと思い、立ち上がったところで、後頭部に衝撃が来
た。
 倒れながら身をひねり、振り返って、うしろを見た。
 俺を殴ったのはバット。ただのバット。握っている人間が居ないバットだった。
 俺はそのバットに念を込め、粉々に砕いてやった。
 あたま痛ぇ。濡れた髪をかきあげるついでに、後頭部を押さえた。
 先輩。いや、カジキ。カジキはどこだ!?
 ゆるさねえ。もう躊躇しねえ。地面に叩きつけてやる。大怪我しようが知ったこと
か。どこかに隠れて俺を見ているはずだ。どこだ。