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 弱りきった俺の態度はしかし、カジキの気持ちを煽ってしまったようで、苦痛が強
まっただけだった。
 けどこの苦痛のおかげで、そろそろ意識を手放せそうだ。
 そのとき、俺は、声を聞いた。
「牡羊!」
 いやな感触がすっと抜ける。俺は声の主を判断し、あせる。
 必死で叫んだ。
「来るな魚、逃げろ!」
 また俺を呼ぶ声。カジキの背後の遠くの方から、魚が走ってくる。手に傘を二本持
ってる。俺を迎えに着たのか。
 魚に戦う力は無い。俺は焦ってまた逃げろと叫ぶ。しかし魚は足を止めない。
 カジキが手のひらをむこうに向けた。
 魚の肩に太い釘が刺さり、やっと魚は足を止めた。
 息を荒く吐きながら、魚は自分の肩を見た。それから呆然と俺を見た。それからカ
ジキを見て、悲しい目をした。
「きみはなぜ、こんなことをするんだ。いったいなぜ」
 カジキは、肩をすくめた。
「不公平だからさ。こいつは俺よりずっと強い力を持っているのに、俺の大事なもん
を平気で捨てちまうから」
「同じクラブの子? 牡羊はクラブを平気で辞めたわけではないよ」
「本人はそのつもりだろうね。お気楽なやつだ。最初っから期待されてて、なにをや
っても活躍できて、みんなに慕われてて、そういう自分の立場がわかっていたなら、
辞めるなんて絶対に出来るはずがねえだろ」
「……」
「力が何だよ。おなじく力を持っててクラブ続けてる俺はなんなんだよ。俺が卑怯者
だとでも言いてえのか? 何様のつもりだよこいつ」
「きみ、牡羊のことが好きだったの?」
 俺は先輩のことが嫌いじゃなかった。熱心で、面倒見の良い、いい先輩だった。
 熱心さがしつこさに変わり、面倒見の良さが意地の悪さに変わったのは、能力のせ
いか。
 力に溺れるってのは、そういうことなのか。