※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

 牡牛は、嬉しそうだった。
「じいさんは絵が上手かったらしい」
「なるほど。ご祖父も出来に納得したような表情をしている。それからご祖父は、脇
から箱を取り出した。漆塗りの綺麗な箱だ。両手で捧げ持ち、ふたを開いた。箱の中
身は、……あ」
 あ?
 山羊は急に屏風から手を離して、虚脱した。
 牡牛が動揺している。
「なんだ。なにがあった。何事だ」
 牡牛は山羊をがくがくと揺すぶるが、山羊はボーっとしちまって答えない。
 俺たちは待った。山羊が読み取りに使った5分ほどの時間が、山羊の腑抜け時間に
なるはずだ。
 そして5分後、山羊は腑抜けモードから回復し、大きく息を吐いた。
「ああ、驚いた。あれはいったい何だったんだろう」
 牡牛が当然のことを尋ねる。
「何を見たんだ、山羊」
「いや、暗すぎてよく見えなかった。たぶん俺の勘違いだと思う」
 なんだそりゃ。
 牡牛はものすごい目で山羊を睨みつけていた。
「見てくれ。もういちど見ろ。なにがあったか確認しろ」
「なぜか気が乗らないんだ。不思議だ」
「山羊!」
「わかっている。いちど引き受けた仕事は、最後までやり遂げる。……少し待て」
 山羊は眉間を揉んだあと、片手をあげて、ぴたりと屏風に触った。
 今度はすぐに見えたようだった。
「箱の中身は、大量の人物画だ。浮世絵だな。春画……、ちょっと未成年には説明し
にくい内容の絵だ。ご祖父はその一枚一枚を取り出して、明かりに差し出しては丹念
に眺めている。いちいち納得してはうなずく。そしてこの屏風に貼り付けていく。…
…今、すべてを貼り付け終えた。ご祖父は屏風を眺めながら、決意した目をした。足
をくずし、手を……。その、こ、これは。男として当然の行為を」
 山羊は慌てたように屏風から手を離し、そのまま文字通り、魂をどこかに飛ばして
いた。