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 俺は、いたたまれない気持ちで牡牛の背中を見つめた。
 なにが悲しくて、自分のじいさんのオナニーのオカズを、その孫が知らされなきゃ
ならないんだ。
 牡牛は悲惨な顔をして屏風を見つめている。表面の天女の絵を。そして、その裏側
に貼り付けられているらしい何かを。
 やがて山羊は回復し、真剣なまなざしを牡牛にそそいだ。
「牡牛、大丈夫だ。浮世絵の美術的価値はたいしたものだと聞く」
 なにがどう大丈夫なんだ。
 牡牛は目を泳がせながら、「次の場所に行こう」と言った。
 俺たちは蔵を脱出し、牡牛の家の台所に向かった。
 台所には比較的、ものが残っていた。大きな棚に沢山の食器がある。そして棚の中
央には、大きな皿が飾られていた。
 牡牛はダメージから回復したらしく、ふつうの調子で説明しだした。
「この皿。母さんは陶芸の趣味があったんだが、この皿は母さんが、師匠にあたる人
から貰ったものなんだ。高価なものだが、持ち主には災難がつきまとうらしい」
 俺は山羊を見た。
 山羊は頷き、片手をあげた。
 そうして山羊は語り始めた。大皿の記憶を。
「髪をひとつにまとめた女性。流しに向かって作業をしている。包丁の鳴る音。作業
台に置かれた葱の束」
 牡牛が、おふくろ、とつぶやいた。
 それから山羊は、牡牛の母親が食事を作る様子を、淡々と解説していった。
 牡牛の母親は味噌汁を作り、あえものを混ぜる。魚をさばき、刺身を作り、その刺
身を乗せるために、師匠から貰ったばかりの大皿を使ってみようと思ったのだった。
理由は、きっと白い身が映えるから。
「相談された父親のほうも、それは楽しみだと言っている。母親はまた作業に戻る。
……完成したようだ。母親が牡牛の名前を呼んでいる。出来上がった料理を運んでち
ょうだいと言っている。右側から高い返事の声。小さな子供があらわれた。これは牡
牛か」