※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

 牡牛は照れくさそうに、指で頬を掻いていた。
「料理運びは、俺の仕事だったんだ」
「牡牛はおかずを運んだ。……ん、電話の鳴る音がしている。母親が台所を出て行っ
て、いまここには誰も居ない。いや、牡牛が戻ってきた。牡牛は大皿に手を出し、両
手で持って運んでい……あ」
 山羊は沈黙する。俺は叫んだ。
「腑抜けるな! 続けろ山羊! 気になるじゃねえか!」
「小さな牡牛の手には、皿が重すぎたんだ。落とされた。割れた。まっぷたつだ」
「……」
 牡牛はたしかに災難に見舞われた男だ。両親を失っている。
 それは不吉な皿を割っちまった呪いなのか。
 青い顔をした牡牛を置いて、山羊は生真面目に語りを続ける。
「音に驚いてやってきた父親が呆然としている。牡牛は泣いている。母親が戻ってき
た。牡牛、割ったのねと言った。泣かないで、たいしたものじゃないんだから。ニセ
モノよそれ」
 なんだって!?
「ニセモノなのかあ? じゃあ牡牛の言ってた、皿の不吉ポイントはなんなんだよ」
「ええと、牡牛の母親いわく、何人もの専門家気取りが、この皿をひどい高値で買っ
て、痛い目を見てきたそうだ。こんな不吉な皿は割れたほうが良いので、牡牛は良い
ことをしたと」
 俺たちは棚から皿を取り出し、よくよく観察した。
 皿はたしかに割れたあと、接着剤その他で修復されたらしい跡があった。
 そういうわけで、この皿には、価値のかけらもないことが判明したわけだ。
 ただこの皿には、たしかに価値のかけらもないが、牡牛だけには価値がある。
 山羊の回復を待って、皿を包装し、いったん車に運んでから、ふたたび家に戻った。
 牡牛は明るい雰囲気になっていた。廊下を歩きながら、のんびりと解説をしている。
「次の品物は、鑑定の必要は無いと思う。ていうかすでに鑑定されてる。本物だ」
 がらっと襖を開く。
 大きな和室だった。奥に神棚があって、そこに、一本の日本刀が置いてあった。
 それを指しつつ牡牛は言う。
「これは買いたいという人がたくさん居たけど、俺が断った。大切なものだから。先
祖代々伝えられてきた刀で、妖刀なんだ」