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 山羊は語り続ける。刀の体験した物語を。
「侍は怒っている。壷を割ったのは誰だと言っている。誰も返事をしない。侍は刀を
取り上げ、言った。どうしても言わぬというのなら、永遠に言わぬが良い。――侍が
この刀を抜く。一人の首が刎ねられた」
 本物だ。本当に本物だ。
 わくわくする俺に、山羊は物語りを続ける。
「血しぶき。絶叫。みなが混乱を起こしている。出口を求めて殺到するが、それが仇
となった。混雑し、出られない。侍がまた一人の首を刎ねた。また一人。また一人刎
ねて、今度は別の一人の腹を刺す。また腹を刺す。また腹を刺して、首を切って、手
足を切って、腹を割って、内臓を引きずり出してぶちまけ、落ちていた首をつかんで、
別の一人に投げつけて気絶させ、手も投げて気絶させ、足も投げて気絶させ、腸でだ
れかの足を引っかけて転ばし、逃げようとした別の人間に飛び蹴りをかまし、頭突き、
噛み付き、金的蹴り等の反則をかまし、勇気を出して止めに来た男の顔面に素晴らし
い右ストレートをはなち、一撃で倒し、両手を上げ、ガッツポーズをして雄叫びをあ
げ、そして背後に忍び寄った男に対して指を突き出し、目つぶしして眼球を掻き出し、
その眼球でお手玉をしつつ、胴に巻いたはらわたを振るように腰振りダンスを踊りつ
つ、足で生首をドリブルしながら庭に向かい、馬小屋に居た下男にゲロを吐きかけて
嫌がらせをし、馬を奪って逃走したが、逃げ道の途中、馬から落ちて落馬して、骨を
折る骨折をし、そのまま動けなくなったので舌を噛んで死んだ」
 言い伝えに嘘は無かった。たしかに本物だった。たしかに狂った武士の物語ではあ
ったんだが。
 なんで俺はガッカリしてるんだろう。なんで俺は、まともに怖がりたかった、なん
て思ってるんだろう。
 なんとも言えない気分で、俺と牡牛は顔を見合わせた。
 虚脱できる山羊がうらやましかった。幸せに腑抜けやがって。俺らどうすりゃいい
んだよ。
 山羊の携帯が鳴った。勝手に取り上げて表示を見ると、乙女からだった。
 俺が出た。乙女は、予定の時間になっても帰らない俺らを心配して、かけてきたら
しかった。