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109 :やぎの夏休み:2008/08/18(月) 01:46:38 ID:1taQMMH20
出だしだけっぽいですが山羊ネタです。書き逃げ失礼します


 駅から三十分も自家用車を飛ばすうちに外の景色はみるみる青い山間のそれへと変わって
いった。お盆時ということもあって峠道を走る車は一台だけではない。
 その中に、ある親子の車があった。

 山羊は小学校が夏休みに入るなり、父親の双子から自分が夏休みの間この川田地方に預け
られるときかされた。観光地に近い山奥の神社に伯父の乙女が生活しているのだという。
 何度も急カーブを曲がる自家用車の窓から外を見ると、遠く果てまで傾斜のきつい山々が
新緑の稜線を晒す。自分の足では歩いて都会に帰れないなというのが山羊の最初の感想だった。
こんな逃げられない山奥に自分一人預けられて、まるでこれから孤児になるような気分だ。
「いい景色だろ。窓開けてごらん。車の中より涼しいんじゃないか」
「……お父さんは乙女おじさんのところ、泊まらないの?」
「お父さんは仕事が入っちゃったからなあ。ごめんな」
 ラジオから流行の音楽を流して軽く謝る姿。父さんは不便で退屈なのが何よりも嫌いだから、
絶対に山奥でなんか暮らせやしないと山羊は思う。大人は卑怯だ。もう捨てられるんだから
どうだっていいんだけれども。
 山羊の母親が仕事で遠くへ行ってしまった後、学校でめっきり何もしゃべらなくなって
しまった山羊に双子はほとほと手を焼いた。問題児のくせに山羊はいつもうつむいて生気が
なかった。しゃべったってどうせ母親は帰ってこないし父親はまるで心配してくれないし
本気で嫌になったのだった。
 挙句、これだ。
 道路沿いにまばらに観光みやげの店が出てきて、車は大きな神社脇の駐車場に止まった。
観光客がいてもなお静けさが漂う。山羊は生い茂る杉林をうんと見上げ、草木の吐いた涼やかな息を
胸の中に吸い込んで神社の石段を登っていく。背負ったリュックサックが重くて途中で転び
そうだった。ボストンバックとみやげの紙袋を提げた双子も石段を登る途中でふうふう言っていた。
 階段を登りきると、観光客にまぎれて作務衣を着た古風な眼鏡の男が親子を出迎える。
双子は汗を拭きながら手をあげて懐かしそうな声をあげた。
「兄貴。久しぶり」