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「古いなあ。雨降ったらかびそう。雨漏りしそうだなあ」


 みっしりしたかやぶき屋根の萱《かや》の隙間に、何か黒いものが”にょろり”とうごめいた。
 山羊はびっくりしたのを声に出すことができなかった。目を丸くして、喉をこわばらせて
じっとその場に棒立ちになっていると、黒い蛇のようなものが萱の隙間から出てきてまた隙間
へと戻る。
「………。」
 汗が垂れる。こめかみが冷えた。”それ”が今にも何かを喋りそうな気がして、山羊は
辺りが静かになるとそっと後じさりした。数メートル離れてから一気に走りだして夢中で
双子と乙女のいる居間まで戻っていた。
 双子と乙女はまだ揃ってしみじみと話をしていた。たぶん山羊のことを。肝心の山羊は、
そんな話題だとはちっとも思っていなかったが。息を弾ませて転がり込んできた山羊を双子が
何事かと見やった。
「どうした? なんかいたか?」
「……!」
 山羊はしばらく身振り手振りで伝えようと両手をわたわたさせた揚句、急に大声で叫んだ。
「なんかいたーーー!!」
 軽く眉をひそめるだけで大事に受け取りそうにもない双子の後ろで、乙女が口をつけていた
湯呑をテーブルに置いた。
「いろんなものがいるぞ。都会っ子には面白いのかな。まあゆっくりしていきなさい」

 明朗で穏やかな声とともに乙女が山羊の頭を撫でる。
 山羊はもう一度乙女おじさんの顔を見つめる。作務衣のおじさんは、これまで山羊が胸に
ためこんできた混乱をひといきに受け流すような優しい目をしていた。
 山羊の夏休みはこうして始まったのだった。