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 山羊のお腹が健康に空腹を訴えたとき、山羊はメインアーケードからかなり離れた通り
まで歩いてきていた。飲み物もお金も持ってきていない。山奥には水を飲める蛇口がないん
だということを山羊は汗だくになりながらようやく知った。
 涼しいとはいえ紫外線はそれなりにあったので歩きながらくらくらしていた。戻るべきか
行くべきか。もう少し道路を行った先にトラックを改造した青果即売所が出ている。車の横で
誰かが暇そうに三脚椅子に座っているのを見つけて、山羊はそっちへと歩いていった。
 喉が渇いて吐息が熱く埃を吐いているような気がした。
 三脚椅子に座っている店員は二十代中盤とおぼしき垢抜けない男だった。無言で手帳に
書き物をしていたが、山羊が近くまで歩みよっていくとお遣いの子供とでも思ったのか
「いらっしゃい」と不思議そうな視線を山羊の顔へ向けてくる。
「すいません、お水ください」
「日射病かな。お父さんとお母さんは?」
 山羊は息を荒くして首を横に振りながら、どうにか「きてません」と告げた。
「この辺の子? それともおじいちゃんかおばあちゃんの家にでも泊まりにきたのかい」
「おじさんの家に泊まってます。お水……」
 汗を拭きながら山羊が今にも座り込みそうな様子だったので、店員の男はまず店先のひさし
の下に山羊を通した後水筒の中から麦茶を注いでくれた。山羊がもらった麦茶を一気に飲み
干す。大きく息をついてすぐに「おかわり」と大きな声を出した山羊に男は呆れながら二杯
目の麦茶を注いでくれた。
「あんまり飲むと水っ腹になるぞ」
「お茶おいしい!」
「すいかも食べるか。麦茶だけじゃ塩分がとれないだろ」
 笑いながら店先のすいかをトラックの裏へともっていく。山羊がお礼を言いながら名前を
尋ねると男は水瓶と名乗った。水瓶が切ってくれたすいかはぬるかったが、塩が十分にふら
れていてその時の渇ききった山羊にはひどく美味しく感じられた。
「あー、乙女さんとこの甥っ子か。こんな僻地によくきたね」
「水瓶さんは八百屋なの?」
「八百屋だよ」
 わざとらしく周囲の目をうかがう水瓶の姿に山羊がすいかをほおばりながら目をぱちくり
させる。水瓶は慎重に周囲の人影がないことを確認すると、身をかがめるようにして山羊に
耳打ち話をした。
「ここだけの話、僕は”にょろ”を探している」