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 話を聞きながら山羊は納得とともにさびしさを覚えた。見せたくない感情があるとつい
無口になってうつむく。水瓶は山羊の心を知ってか知らずか、構わぬ顔をして自分の手帳を
パラパラとめくってみせる。中には山羊の見た黒いにょろ以外にも異形のものたちがたくさん
書かれていた。
「君もノートにつけたらどうだ。自由研究とか」
「幽霊はノートにつけても自由研究にならないよ」
「君はあれを幽霊だと思っているのか? 僕はあれがどう見ても新種の生物に見えるんだが」
「どっちにしても学校の先生にうそっこ書いてるって思われるのは一緒だよ」
「僕は君ぐらいのころ街中の農家を訪ね歩いて片っ端からすいかを叩き割ったことがある。
農家ごとのすいかの違いを研究するためだ。大きさ・甘さ・たねの数・日照具合・水遣りの
時間・土のペーハー値・肥料と農薬の使用量まで全部調べた。ちょっとばっかし割った量が
多かったんで農家と親は激怒したが先生は大喜びで研究自体は県知事から金賞をもらった」
「……それが?」
「科学に必要なのは純粋な動機だってこと。あと、多少無茶でもそういうのは後で大化けする
可能性がある、ってこと」
 ちょっと得意げになる水瓶の鼻先が双子に似ていた。大人って何で時々軽くて大人気ない
んだろう。ふーんと露骨に棒調子で返したら水瓶はあてが外れた顔をしてぽりぽりとうなじ
を掻いた。
「夢がある話だと思ったんだが」
「夢で先生褒めてくれないよね」
「レアリストだなガキのくせに」
「あっガキって言った」
「うるさいなあ」
 余計むきになってつっかかる山羊を鼻白んだ顔であしらう水瓶だった。山羊はむくれながら
「すいかありがとうございました」とつっけんどんに言い放って即売店を後にする。神社まで
帰ると昼を過ぎてもうおやつの時間になっていた。
 乙女は台所の冷蔵庫におむすびと漬物を置いておいてくれた。山羊はこれも食べてひと
心地つけるとまた居間に横になり、あとで乙女の仕事を覗いてみようと思いながら身体を
うんと伸ばす。
 日暮れ時になって乙女が家を覗いてみると、山羊は風鈴の音を聞きながらタオルケットも
かけずに、畳の上で寝息をたててのびていた。

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前回の感想どうもありがとうございます。特にあてもなく続けてます。