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13-15の続きです。エロなし、牡牛、蟹、射手、魚が喋ってるだけの話です。

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「捜す必要はないな。若様は屋敷に帰ってるよ。間違いなし」
あっさり言いきった客の顔を、蟹は馬鈴薯の皮をむく手を止めて、まじまじと見つめた。
店にいる客は、牡牛が探偵だと言って自分に紹介したこの男、射手と、彼の助手だという少年だけだ。黙ってハヤシライスを口に運ぶ少年が、利発そうな目をしているのとは裏腹に、探偵の態度はあっけらかんとしすぎていて、秘密を打ち明けるのがためらわれた。悪気なく、喋り散らされそうな気がした。
牡牛の「目の付け所だけはいい男だ。それなりに頼りになる」という保証がなければ、蠍の行方について相談したりはしなかっただろう。
ポークカツレツを揚げている牡牛が声をかけた。
「そう思う理由を説明しろ、射手。主人思いの蟹は、食欲もなくすほど案じているんだぞ」
蟹は身を固くした。牡牛には、あの夜、錯乱した蠍が自分の首を絞めて逃げたとしか説明していない。屋敷に戻るわけにもいかず、こうして蟹の家に居候している。
牡牛は気づいているだろうか。自分と蠍の間に起きたことを。
(だからわざわざ、『主人思い』と…? いや、牡牛さんは皮肉を言うような人じゃない)
自分で自分に言い聞かせた。なぜかわからないが、牡牛に軽蔑されるのはいやだった。
「真っ赤な襦袢だから。…なあ、それより俺のカツレツ、まだー?」
「何がそれよりだ。説明するまではこのカツは食わせん。黒焦げになっても揚げ続けるぞ」
「ひでェ。説明も何も、若様には他に行くとこなんかないって」
「…先生は、赤い襦袢姿が目立つってことを言ってるんですか?」
少年が口を挟んだ。考え考えといった様子で、牡牛や射手、蟹の顔を見比べ、言葉を紡ぐ。
「連続殺人鬼は赤い襦袢を着た絶世の美人、このことはすでに帝都中の評判ですよね? だから誰かが見かけたら官憲に知らせるはずで…でも実際には、つかまったって言う噂は流れてない。つまり屋敷に帰ったに違いない。そういうことですね、先生?」
「自分で帰ったか、見つかって連れ戻されたかだろ。今頃は元通りに監禁されてるさ」
牡牛は焦げ色が付きすぎたカツレツを引き上げ、問いかけた。
「軍の公金費消もからんでいるんだろう。蠍が闇から闇へ葬られたってことはないか?」
「ない、ない。今まで生きてたんだ。まだ何か用があるんだって」
「…闇から闇へ葬るくらいなら、とっくに殺されていたはずで、蠍という人が今まで生かされていたのは、犯人役として目眩ましに使われるためだと。つまりまだ、蠍さんが犯人に見えるという状況で、誰かが殺される。そういうことですね?」
「んーと、まあ、言葉に直すとそういう感じ?」
少年の補足を聞き、牡牛が溜息をついて切り分けたカツを皿に盛りつけた。
「射手。お前の話は結論だけか。魚の説明を聞けば、お前の推測に筋が通っているのはわかるが…結論一足飛びの説明じゃ、依頼人が納得せんだろう。商売が成り立ってるのか?」
「大赤字。つーわけで、今日もツケで頼む」
「今日は俺がお前を呼んだんだ。奢る。…納得したか、蟹?」
不意に話を振られた蟹は、慌てて頷いた。あてずっぽうに喋っているように見えるが、さすがに探偵だ。言われてみれば、屋敷以外に蠍の行く場所はない。今までにも発作を起こして屋敷を抜け出したあと、いつのまにか一人で戻ってきていたことが多かった。『生酔い本性違わず』という諺のように、薬で半分濁った頭だからこそ、かえって迷うことなく屋敷へ帰り着くのかも知れない。
蠍を逃がそうとした自分の行動は、まったく無駄に終わったことになるけれど──。