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 テレビの音のほかには虫の声しか聞こえない、閑散とした山の中の家だった。
「急に怖くなったのか。山羊は」
「怖いけど怖くないよ。おじさんもいるから」
「そうか」
 乙女は畳の上に寝転がっていた身体を起こすと、硬くなっていた身体をまわしてテーブル
においてあった麦茶をすすった。
「山羊のお父さんはこの辺の土地が苦手なんだよ」
「そうなの?」
「うん。山羊が今まで何回かここに来たときも、お父さんあんまり長居してなかっただろう。
ちょっとそわそわして」
「うん」
「この辺の地方にはいろいろなものが棲んでいるっていうが……おじさんもお父さんも何度
か、まれに見たことがあるが、山羊のお父さんは特にそういうのが苦手だった。中学に入った
頃にはもう山を避けるようになっていたな。あれでも小学生のころは木登りとか山遊びとか
よくやってたんだが。
 お父さんは暗闇や物の怪が怖いのかもしれんと思ったことがある。神社をどっちが継ぐか
話し合いたかったんだが、こうなってはおじさんが引き受けたほうがよさそうだなあと思って
おじさんはこの道に入ることにした」
 双子が神主や山遊びをしているという姿じたい、山羊には想像がつかなかった。口をぽかん
とあけてどんぐりまなこになっている山羊に、乙女は何を思ったか急に立ち上がって物置
から赤い玉ののったけん玉を一つ持ってきた。
「よく山羊のお父さんと競ったもんだ。山羊はけん玉できるかい」
 赤い玉が垂れ下がる。それが腕から手首へと伝わる最小限の力で再度舞い上がり、玉受け
のくぼみに乗っかる。温かみのある木の音と一緒に何度も跳ねて左右と底のくぼみを行きかう。
最後にひときわ大きく玉が上がり、けん玉の芯に刺さって止まる。
 山羊の手から自然と拍手が湧いた。乙女はにやりと笑うと、あぐらをかいて山羊を上に
座らせ、夜がなけん玉のやり方を山羊に伝授してくれた。作務衣ごしに伝わる伯父の体温が
山羊にはとても温かく、どこか懐かしく、安心できるものに感じられた。

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リアル夏は終わりそうですがこちらはまだまだ夏でよろしくおねがいします。