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にぎやかな音をたててカツレツを咀嚼したあと、射手が独り言のように呟いた。
「…うーん、しかしまだ誰か殺される予定なわけだよなー。危ねーな、乙女さんに単独行動をしないように注意しとかねェと。もし狙われたら…」
「一人歩きができなくて軍人が勤まるわけないでしょう。余計なことを言って、また張り倒されても僕は知りませんからね」
蟹は不思議に思った。魚の口調が、微妙に尖っているように感じられたせいだ。逆に、射手は妙に楽しそうな笑顔で答えている。
「そーだよなぁ、あのきついところも最高。あの綺麗な顔から綺麗な声で、冷たい罵倒がぽんぽん出てくるんだから、たまんねー。…ああいう人ほど、実はすげー寂しがりやの甘えんぼだったりすんの。早く、俺への素直な気持ちを表に出してくれればいいのに。いつでも受け止めるのに」
「先生なんか、だめですよ。頼りないのに」
一層尖った声で言い、魚が射手をにらんでいる。
蟹は当惑した。複雑な人間模様があるらしい。牡牛を見ると、そっと自分に目配せしている。口を挟むなという意味のようだ。黙って馬鈴薯の皮をむくことに専念したが、会話は当然耳に聞こえてきた。
「川田を尾行した僕が、逆につかまって、吊り天井の部屋に閉じこめられた時だって…先生が来てくれたのは、僕が双子さんに助け出されたあとじゃないですか。僕は先生に、ちゃんと伝言を残しておいたのに」
「俺は言ったぞ。川田は危ないから、お前一人で何とかしようなんて思うなって。注意を聞かなかったのは、魚、お前だろ?」
「でもっ…!」
適当な反論は見つからなかったらしい。魚はふくれ面で射手から顔をそむけ、呟いた。
「僕は先生の助手なんだから…助けに来てくれたっていいじゃないですか。あーあ、双子さんの言うようにしようかなぁ」
「ん? 双子がどうかしたか?」
「…僕に、新聞社で働かないかって。この前までいた給仕の子が家の事情で田舎へ帰って、代わりを捜してるそうなんです。住むところがないなら、しばらくは双子さんの部屋に置いてくれるっていうし」
横を向いたまま拗ねた口調で言いながらも、魚は時折真剣な目で、射手を盗み見ている。どうやらこの少年は、射手に恋心を抱いているらしい。
射手がどう返事をするか、他人事ながら気になって、蟹もついつい耳を澄ませた。
が、聞こえてきたのは予想外な返事だった。
「ああ、いいんじゃねーの?」
魚にも意外だったらしい。大きく目をみはり、射手を見つめている。
皮肉でも何でもない、素直で陽気な口調で射手は続けた。
「双子はあれで意外に敏腕つーか? 記者としちゃ有能らしいし。いいんじゃねーかな。あいつのところなら俺も安心だ」
「本気で言ってるんですか? 先生、僕がいなきゃ依頼人への説明とか…」
「んー…でも、お前が来る前も何とかやってたし。大丈夫だろ」
あっさりと射手は言い捨てた。魚の顔が一瞬でこわばった。投げ出すようにスプーンを置く。
「ご馳走様でした…!!」
今にも泣き出しそうに震える声を牡牛に投げて、魚は店を飛び出していった。止める暇もなかった。無言で見送った牡牛が、一つ溜息をついたあと、射手の前まで歩き、拳骨を固めて頭を殴った。
「いてっ! 何すんだ、牡牛…!!」