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 ただし俺は、大切なものにラインなんて引かねえし、書き込みなんてしねえし、折
り目も、手垢もつけねえけどな。
 明け方に読み終えて、目をこすりながらロビーに降りた。
 台所でコーヒー飲んでると、魚が寝ぼけ顔で入ってきた。
「あれ……、牡羊おはよう。早いね」
「おう、本読んでた。魚もはえーな」
「僕は昨日が早寝だったから。……あっ!」
 魚は、俺のかかえてた本を見て、ぱっと顔を輝かせた。
「それ、蠍の新刊だね。読んだの?」
「ああ。魚も読んだのか」
「うん。良い話だよねえそれ。ロマンティックで」
「ろ……、ろまんてぃっく?」
「そう思わない? 二人ともすごく愛し合ってるんだ。最後が悲恋になってしまった
のが悲しいよ。でも天使の出てくるシーンは美しかったなあ」
 その美しい天使は、あんたのことだと思うんだが。
「魚ってさ、蠍、好き?」
「好きだよ。なんで?」
「蠍を家族に誘ったのって、魚なんだよな?」
 魚は困ったように眉を寄せて、指先をこめかみに当てた。
「それがねえ、よく覚えて無いんだよ。蠍を誘ったときの僕は、例のあれで子供にな
ってたんだ」
「そうだろうなあ」
「うん。なんか、こんなことを言ったらしいよ。はやく病気を治さないと、って」
 相性の良すぎる二人は、互いの病を、永遠に感染し合わせながら生きていこうとし
たんだろう。
 魚の放ったシンプルな言葉が、その関係を崩しちまったんだ。
 俺は魚に言った。
「魚ってわりと凄いよな」
「えっ、いきなりどうしたの」
「どうもしねえ。言葉どおりの意味だ」
「わかんないけど、嬉しいなあ。でも僕から見たら、本当に凄いのは牡羊だよ」