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「今のはどう考えてもお前が悪い。…魚の気持ちも考えてやれ。あんな風に答えたら、居たたまれなくなって当然だろう」
「双子が迎えてくれるって話だし、いいんじゃねーの」
「本気で言ってるのか? 魚がいなかったら、お前の探偵事務所は成り立たないぞ。依頼人への説明だけじゃない。家賃を払えない言い訳とか…」
「だーからさー」
射手は苦笑いで牡牛の小言を遮った。
「いつまでも魚に…そんな虚しい仕事ばっか、させてらんないでしょーよ?」
「射手…」
「双子の新聞社なら…最初は給仕でも、頭がよくて気が利くところを見せたらさ、記者とか事務とか、もっとちゃんとした仕事に就いて、楽ができそうだろ? でも俺の助手をやってたんじゃ、絶対うだつが上がらねーし。借金の言い訳ばかりうまくなったって、役に立つかよ」
「お前…そう思ってることを、魚に言ってやったのか?」
口調をやわらげた牡牛に、射手は首を左右に振った。
「言う必要なんかあるか。あいつの将来はあいつが決めなきゃな。余計な条件は、一切付けたくねー。…いや、別に俺、魚がいなくても困らねーもん。全然。本当に。今の俺の心は、乙女さんのものでーす」
答えた射手の顔は、明るく笑っている。ただ、明るすぎて、蟹の目には作り笑いのように見えた。


射手が店を出ていったあと、皿を洗いながら蟹は呟いた。
「魚君、どうするんでしょう?」
「…射手のところへ戻るだろう。何だかんだ言っても、魚は射手が好きなんだ」
「そうですね」
微笑した蟹を、牡牛は静かに見つめた。
「お前も戻りたいんじゃないか、蟹」
「えっ…」
「若様のことが心配なんだろう? しかし今、迂闊に屋敷へ近づくとお前の身が危険になる。しばらくは我慢してここに隠れている方がいい」
蟹はうつむいた。
蠍のことは今も心配だ。何とかして助け出したい。
けれども今こうして、牡牛の家に居候して店を手伝う暮らしは、不思議なほど気持ちが安らいで、居心地がよかった。牡牛の眼差しに、時折、単なる友情を超えた熱っぽさを感じるときがあるけれど、それが決して不快ではない。
(私はどうすればいいんだろう…)
蠍を守りたい、助けたいという心と、牡牛にすがりつき頼りたいと思う心と、どちらが本心なのか。自分でもわからず、蟹は黙って溜息をついた。

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これで終わりです。投下させていただき、ありがとうございました。
射手の口調がどうしても大正風にならなかった…すみませんorz