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「なんにもみえない」
「大丈夫だぞ。一本道だ」
 壁を触る手が、ただ前に伸ばしていればいいのにメトロノームみたいに大幅に上下へと
ふれて、なるべく大きい面積で壁を探ろうとした。見えない上に二人でいても静かずぎる。
足が思ったように進まない。自分が見えないのをいいことに、あの世の何かがすぐそばにまで
来ていたらどうしようと思った。
 冷たい風に混じって、一陣のなまあたたかい風が手先から肩までをのぼった。
 いま”にょろ”が触ったかもしれない。触ってても自分ではわからないんだ。
「おじさん、”にょろ”がさわった」
「にょろ? おじさんのとこには黒いのなんかいないよ」
「あとどれぐらい続くの」
「大丈夫だよそんなに長くないから」
 乙女おじさんの口調がなだめるような調子に変わっているのを山羊は感じ取ってしまった。
そんなに長くないと言いながら結構長いに違いない。本当に一寸先も見えないせいで、息が
あがってとても短くなっているのが音でわかった。そうこうしているうちに手の先にまた
うっすらとぬるい何かがさわった。
「出る! もどる」
「山羊、大丈夫か」
「こわい。あぶない……」
 すっかり足がすくんで動けなくなったとはいえ、一歩先にいる乙女おじさんも山羊がどこに
いるか全く見えないのだった。「よしわかった。おじさんも見えないから今度は山羊がおじ
さんの手を引っ張って戻りなさい」といわれ、山羊は闇の中で一旦両手を乙女おじさんの手に
つなぐと今度は反対側の手に繋ぎかえ、慌てて、でも思ったより遅い足で元きた道を戻って
いったのだった。


 元の入り口に戻ってきたとき、山羊は泣くに泣けず肩を落としてすっかりしょげていた。
昼間は前後間断なく観光客が入っていて廊下内ももう少し安心して歩けるのだが、それが
なかったのも大きかったなと乙女おじさんは顎をかきながらフォローしてくれた。
「こわかったか。山羊」
「……うん」
「あそこは神様の真下だから、悪い霊なんかは近寄らないし大丈夫なんだよ。……でもまあ
怖かったな。また今度にしようか」