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 乙女おじさんは山羊の頭を撫でると拝殿から山羊を連れて自分の家に帰る。その晩は二人で
同じ部屋に布団を並べて寝た。ひそかにいくじなしと馬鹿にされるかもしれないと思っていた
山羊だったが、乙女おじさんは”霊がかかわることはそれぐらいで別にいいんだ”と割り
切ってあっさりしたものだった。





 次の日、山羊はねのと参りの話をしようと朝から蟹のそば屋に立ち寄った。蟹は山羊の話
を聞いて眉を八の字にしながら笑っていたが、朝はどうも忙しいらしく「また遊びにおいで」
といって従業員用のそば飴を二つ山羊に持たせてくれた。
 人がたくさん居るように見える時期でも、この地方に定住している人間は少ない。
 水瓶のところにもにょろの生態を報告しにいこうと思ったが、いかんせん移動青果店なので
朝方の水瓶の居場所は杳として掴めなかった。二人の話し相手のイベントが終了すると山羊は
またしてもすることがなくなってしまった。

「……こんなところで一ヶ月もやっていけるのかなあ」

 道端で座り込んでそば飴を舐めながら、そろそろ増え始めてきた乗用車の往来をあてもなく
眺めた。きっと山に入って虫や草を観察していれば一ヶ月は早く過ぎてゆく。
 ここに居る間はおとうさんのこともおかあさんのこともなるべく忘れていようとぼんやり
決めた。まだ子どもの友達はいない。山羊はこの山奥で昼間は基本的にひとりぼっちだった。



「おじさんが言ってたほかの店もいってみよう」
 することがなかった山羊は周辺の店にあいさつ回りをしてみることにした。この辺には
他にも天秤のお土産屋と魚のお土産屋がある。観光客にまぎれて尋ね、「神社の乙女おじさん
に世話になっています。山羊です」と両方の店の店主に挨拶して回った。
 えびす顔っぽい笑顔の天秤おじさんは、「よろしくね」といいながらお土産の販売に忙し
そうだった。小さい店だし売り上げに響くような手間はかけさせまいと山羊は勝手に気を
使って店を離れる。