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 ふたたびどこへ行こうかと思案して、山羊は蟹のくれた観光チラシの湖を思い出した。
湖面が鏡のように周辺の森と、山脈と空を写しこむ神秘的な景色。
「おじさん、蟹おじさんのくれたチラシのあの湖って一人でいける?」
「御鏡池《みかがみいけ》か」
「うん」
「あれは川田山の中腹にある池だ。見に行こうとしたら車を使って、さらに一日登山になる。
山羊一人じゃちょっと行かせられないな」
「ツアーでもだめ?」
「子供は保護者がいないと参加できないよ。人様に迷惑はかけられん」
 子供にやすやすと征服されるほど川田の自然は甘くないのだった。一筋縄でいかないん
だなあ、と山羊が頬杖をついて空想の山を見上げていると、乙女おじさんは思い出したように
声を明るくして山羊にこう付け足した。
「御鏡池は無理だが、ことり池ならどうだ?」
「ことり池?」
 山羊は頬杖をついた状態から黒目がちな目を漆玉のように光らせて乙女の顔を見上げる。
「ことり池も景色がいい。一日頑張れば山羊の足でも行って帰ってこれるし、バスも通ってる
から途中で疲れたらバスに乗って帰ってきてもいい。電話をくれればおじさんが車で迎えに
行くこともできる」
「ことり池って小鳥がいるの?」
「小鳥もいるよ。植物と動物がいつも賑やかな場所なんだ」



 山羊のこれまでの散策の中でも特に長い散策(になる予定)だったので、山羊は子供がてらに
ことり池攻略のために一日準備日を作ったのだった。
 まずリュックサックに入れるものをチラシの裏に書いて準備する。水筒。大きいおむすび
一個。攻略マップ(チラシの裏)。サインペン。お財布。乙女おじさんの携帯電話。レジャー
シート。ハンカチ。ティッシュ。ビニール袋二枚。レインコート。絆創膏三つ。なんとなく
いろんなことが不安で替えの服も入れたほうがいいだろうかと乙女にたずねたが「リュックに
入らん」とあっさり一蹴された。代わりに帽子を渡される。日射病にとくに気をつけるように
とのことだった。
 朝出発してことり池に行く途中で、牡牛のそば屋に立ち寄って水筒の水を補給してもらう
ようにと乙女に言われた。順調にいけば牡牛のそば屋で早めの昼食になる。