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 小さなスニーカーでとことこと歩き続けて、途中で一度止まって振り返ってみる。
 それまで自分が立っていた地点がもうずっと遠くにまで離れているのを確認して、少し
その場に立ち尽くしていた。今日は誰も止めにこない。何かあっても自分ひとりでどうにか
する旅。
「もう神社がみえないや……」

 ──僕は思ったよりもいっぱい歩けるんだ。
 ──車なんかなくたって、大人なんか見ていなくたって、誰も見ていなくたって。森の木や
鳥や虫がそっと見ててくれる。僕は自分の足で、好きなところへ、どこまででも行けるんだ。
疲れてもその時は休んで、あきらめさえしなければ。

 学校で暗くうつむいていた時のことを山羊は思い出さなかった。山の景色はどこを見ても
元気いっぱいで、林の木の並び具合やその辺に生えている草の葉っぱの形すら面白くて、
そんな昔を思い出していたらもったいなかったから。
 歩いていると途中でツバメが目の前をひゅんと横切って飛んでいった。
「あ、ツバメだ」
 ツバメが低く飛ぶのは天気が悪い時なんだよなあと山羊は図鑑で読んだまめ知識を思い出
した。それから、シジミチョウや緑色のアゲハチョウがヒラヒラ車道沿いに飛ぶのを見た。
時々道路を通る車に家族連れが乗っていた時には”もったいないなあ”と思った。歩くのも
それに見合った楽しみがあるのに、車に乗っているとわからないのだ。多分。
 午前中は天気もそれ以上崩れず平和にすぎていった。汗もかきすぎるほどかいているわけ
ではないし、日射病の心配がないのは却って良かったかもしれないと思い出したぐらいだ。
たっぷり歩いて、もう一日分歩いたという気に早くもなりかけているとようやく山羊の目に
大きな墨書き文字の看板が見えてきた。
『蕎麦処 牡牛 100m先を左折』
「うしのそば屋さんだ!」