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 一人身の男が会ったばかりの他所の子どもを連れて歩くことがどれだけ警戒されるか、
射手という男は熟知していたのかもしれない。山羊が池のほかの場所に行くと言っても彼は
ついて来なかった。山羊が一人でことり池と植物園を満喫して、ふたたび池のほとりに戻って
くると射手はまた時間を忘れたようにことり池の絵を描いていた。
「絵うまいんだね」
「ありがとう。人に見せる絵でもないんだけどね。そう言ってもらえるとうれしいよ」
「射手さんは川田の街や森が好きなの?」
「好きだよ。子どもの時、ここに来てよく友達と遊んでた」
 絵筆を動かし、遠くを見つめながら射手は山羊に喋り続けた。子どもの時にこの地方で
怪我をして左目を失ったこと。それを思い出すのが嫌で、大人になるまでしばらくはこの
地方に来られなかったこと。
「なんでも、怖くて一度引き返しちゃったところって余計にそうだろ。怖いと思ってそこを
避けたりすると人間はそこがもっと怖いって思いこんじゃう。──それが嫌だったから大人
になってからもう一度来るようになったんだけどね。
 ちゃんと腰をすえて来てみると、この地方はすごく面白いところなんだよ。見れば見るほど
きれいなんだ。ほんとに。でも友達にはまだ会えてない」
「友達?」
「ここの地元の子だった。もう一度会えたら、わだかまりが全部消えるような気がしてるん
だけどな」
 遠くに思いを馳せる射手の姿を見て、山羊は複雑な気分になった。しばらくしてから射手が
黙った山羊の姿に気付く。
「射手さんはともだちがいて、いいな」
 それが年齢の近い、同年代の友達というニュアンスを含んでいるらしいことを射手は自分の
話の中から悟る。
「学校に友達いないのか」
「学校にはいるよ。でも川田に来てから、同い年くらいの子に会えてない。……みんな帰る
家が遠くにあって、車ですぐに帰っちゃうんだ」
「俺が友達になってやろうか。第一号だ」
「射手さんは第一号じゃないよ。それだったら水瓶さんとか、先に認定したい人がいるもん」
「そっか。じゃあ何番目かの列に加えてほしいね。つうか水瓶さんって誰だ。初耳だなw」