190 :超能力SS13:2008/09/25(木) 18:27:17 ID:???0

 毎日が話し合いと、作戦立てと、準備の日々になった。
 活躍したのは乙女だった。なにかについて計画を立てたい、という場合において、
乙女の能力はとても役に立つ。
 地図を広げて、どこかの状態を見たいと思えば、乙女に聞けば良かった。誰かの居
場所を知りたいと思えば、乙女に聞けばよかった。乙女に見えないものは無かった。
 だから俺たちはちょっと、乙女に頼りすぎたんだと思う。
 あるときのことだ。その日はみんなそれぞれ用事があって、外に出ている者もいれ
ば、部屋に居る者も居た。
 俺は、暇だった。力仕事が必要無く、頭を使い計略を立てる段階だったから、やる
ことが無かったのだ。
 だから居間で、牡牛と宿題をしていた。いや正確には、牡牛の宿題で俺のぶんの答
えあわせをしていた。
 そして二階の部屋から乙女が出てきて、廊下から階段へ向かおうとしている姿を、
俺は一階からなんとなく見ていた。
 階段の前に来たとき、乙女の姿が揺れた。
 喉もとを押さえ、のけぞり、身を折り、それからくず折れていく乙女の姿を、俺は
ハッキリと見た。
 俺は咄嗟に力を放った。乙女の胴体を宙に固定して、階段よりも奥に移動させて、
ゆっくりと落下させる。
 それから走った。階段を二段飛ばしに駆け上がり、乙女のもとにたどり着く。
 乙女は廊下に倒れて、体を曲げて苦しんでいた。
 俺は家に居る連中を呼ぼうとした。廊下の手すりから身を乗り出し、叫ぼうとした。
 そのとき、うしろから肩を引かれた。
 振り返ると、自分の部屋にいたはずの山羊がいた。首を横に振り、静かな声で言う。
「騒ぐほどのことじゃない。死にはしない。だいいち乙女が嫌がってる」
 乙女を見ると、たしかに片手を上げて、俺を制止するような姿勢を取っている。
 けれど息は苦しそうだし、体の震えもひどいし、顔色は悪い。俺は戸惑った。
 牡牛も二階に上がってきた。乙女の様子を見て目を丸くする。
 けれど牡牛はすぐに、何かを思いついたような顔をして、ハンカチを取り出すと、
かがみこんで乙女の口元に当てていた。

最終更新:2008年10月02日 23:03