「蠍と魚もついて行ったから、買い物そのものは楽なんじゃねえの」
「しかし食事の支度が出来ないからと、俺が頼まれていたんだった」
ベッドを降りようとする乙女を、俺は全力で押し留めた。
「なんで大人しく寝てられないんだよ!」
「病気でもないのに寝てられるか! 離せ!」
仕方が無いので、俺は能力を放った。
ベッドに固定された乙女は、俺に向かって、こんなやり方はずるいとかぬかしやが
った。
俺は言い返した。
「メシくらい誰でも作れるだろ」
「誰もが忙しくて作る暇が無いから、俺が頼まれたんだろうが。ええい、離せという
んだ」
「いやだっ」
乙女は刺すような目で俺を見た。
それから、ふっと息を吐いて、すごく落ち着いた声音でこう言った。
「牡羊。俺は大丈夫だ。いくらなんでも料理くらいはできる」
作戦を変えて、俺を説得することにしたらしい。
俺は考えた。
「けど、料理って神経使うだろ。ぼーっと休んでるのが一番いいんだって山羊が言っ
てた」
「俺の性格では、ぼーっとしているのが一番神経にさわるんだ。わかるだろう」
「うーん……」
「また倒れるようなことがあったら、そのときは交代する。取り合えず下に降りさせ
てくれ」
どうする? 大丈夫だろうか。こいつ包丁握ってて、いきなり手首切ったりしねえ
だろうか。
いや、いくらなんでも、そこまでイっている感じじゃない。が。……乙女って、神
経使わずに作業が出来るタイプじゃない。
最終更新:2008年10月02日 22:52