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216 :超能力SS14:2008/10/02(木) 21:06:04 ID:GD1y3wxs0

 眼鏡を外した乙女は、壁の時計を見つめている。
 そして時計のあらわす時刻を読んでると同時に、見ているのは、この家のある山の
ふもと。
 山道の入り口で、戦いを始めようとしている天秤の姿だ。
「天秤は閉店した売店に潜り込んでいる。手を胸に当てている。いまシャツのボタン
を開き始め」
「説明しなくていいよ、そんなこと」
「……俺だけ覗きなんて不公平だ」
「仕方が無いだろ」
 乙女はしばらく微妙な表情をしつつ、天秤のストリップを遠視していた。
 やがて口を開く。
「……時間通り。いま車が山道に到着。道路を走り、いま急なカーブを曲がっている。
減速した車に、山の斜面に待機していた天秤が飛び込んだ」
 乙女は目を閉じて、視点の位置を変更しているみたいだった。
「車内の様子。運転手がひとり。助手席にひとり。後部座席にふたり。すべて天秤が
あっさりと始末し終えた。制御を失った車内から、天秤はすみやかに脱出」
 乙女の表情が歪む。そりゃそうだろう。言葉では表しきれない残酷な風景を、乙女
は見ているはずだ。
 すかさず蠍が、乙女に声をかける。
「よくやった。助かったよ乙女。おまえの能力がなければ、俺たちはなにもわからな
いところだった。おまえは俺たちを助けた。おかげで俺たちは安堵できる。だからお
まえも安堵できるはずだ。そうだろう?」
 それは蠍による、乙女の心に添わせるための、複雑な催眠の言葉だった。
 乙女は、ほっとしたように息を吐いた。
「すまない蠍。もう大丈夫だ」
 それで、みんなから緊張が抜けた。
 穏やかになった空気の中、蟹がコーヒーをくばりつつ、乙女に尋ねる。
「天秤の様子に、おかしなところは無いんだね」
「怪我はない。様子も落ち着いている」
「よかった。彼は無茶をする人ではないけど、受けてしまった傷を隠すようなところ
があるから……」