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飲み会 天乙編(乙女バージョン) ななし 2007/02/10(土)18:53

本スレ>116以降の飲み会で、「天秤⇔乙女」編を考えてみました。

◆◆◆◆◆
乙女サイド
◆◆◆◆◆

 先程からどうしても隣のテーブルの惨状が気にかかる。お前ら吸殻と生ゴミを一緒くたにするな。
て言うか、煙草を吸う時は、向こう3人両隣に断ってから吸え!!大体、獅子の家に上がらせて貰って
いるんだぞ、いくら何でももう少しその辺わきまえろ。まあこの家の主自体が傍若無人の権化みたいな
ものだからな。しかし、あいつも人を入れるんだったら、もう少し片付けというものを・・・。
苛立って立ち上がりかけ、乙女は軽く頭を振って座り直した。全く、これだから俺は嫌われるんだ。
もう少し空気を読め、俺。今夜はとにかくこの場の雰囲気を悪くするような言動は慎め、俺。俺が何故
あの人に疎ましがられたのか反省した筈だろう。乙女はそう自分に言い聞かせ、今夜何度目かの溜息を
吐いた。

あの男との溝が次第に深まっていく日々の中で、極めつけとも言える出来事があった。
休日の美術館。有名な画家の展覧会で、その画家や作品に関する知識を得意げにひけらかすあの男に対して、
素直に感心した顔で聞気上手に徹していればよかったものを
『このモデルの女性は肺を患っているのか?』と、乙女としては素直に感じた疑問を、だが相手にとっては
的外れで興醒めな発言をしてしまって、完全に呆れられてしまった。
乙女の“肺病発言”は、あの男と別れて後、彼の口から(若干の悪意と共に)あっと言う間に社内に広まり、
“乙女=面白みのない奴”伝説が成立してしまったのだ。
 ・・・やはり、ここへ来るのはやめた方が良かったかな。
嫌な事を思い出し、一層憂鬱になった乙女は、自分をこの場に引っ張って来た同僚を軽く睨んだ。
『今日、獅子んとこで、フラれた奴らで飲み会やるんだけどさ、面白いから乙女も来いよ』
その同僚・射手は、例の“肺病発言”を聞いた途端、『お前、すげえ面白えええ!!!』と、一体何が気に
入ったのか、以後妙に乙女に構うようになり、今夜のこの席にも誘ったのだ。
 ・・・何が面白いんだ、馬鹿。大体お前、本当に振られて落ち込んでいるのか?
当の射手はと言うと、1人で飲むわ騒ぐわ勝手にゲームは始めるわ、大人しい蠍や山羊に絡んで鬱陶しがられる
わと、やりたい放題である。
「まあ、射手だって、射手なりに色々辛い思いはしているんだろうな。だが・・・」つくづく羨ましいと思う。
乙女にとって、射手の態度や言動は決して不快なものではない。
どうすれば、自分はあんな風に他人と上手く付き合えるんだろう。射手といい、あいつ・・・
ふと、もう1人の同僚の顔を思い浮かべて、また溜息が出た。四角四面で真面目と言えば聞こえは良いが、単に
融通のきかない、気の利いた冗談のひとつも言えない、常に周囲からは一歩引いた距離をとられてしまう自分
とは全く対照的な同僚。常にスマートで嫌味のない物腰と、寛容な態度。すんなりと相手の心に溶け込み、虜に
してしまう対話能力と社交性。
 ・・・あいつみたいな性格だったら、あの人も・・・。

『お前、そうやって、いちいち人の揚げ足取りばかりしていて何が楽しいんだ?』
『冗談の通じない奴だな。お前といても楽しくないよ。機械相手にしているみたいだ』
『お前本当に人間としての感性とか持ち合わせてないだろ?いくら頭良くても仕事できても、正論馬鹿の
情緒欠落人間とは付き合いきれないね』
今まで何度となく言われ続けて来た台詞だった。その度に少しだけ傷つきながらも、それでもこれが俺だ、
それが嫌だと言うなら嫌ってくれて結構だと虚勢を張って来た筈だった。だが、あの男に言われただけで
何故これ程まで脆くなってしまうのか、乙女は自分自身の感情が理解できないまま、あの男から告げられた
別れ言葉に、それでも表面上は冷静に「ああそうですか。」としか答えられず、それがあの男に最後まで
自分を侮蔑させるいい口実になったのだ
「別に、俺だって人並の感情は持っているさ。ただそれを伝える言葉の選び方が下手なだけだったのに。」
乙女は小声で呟いた。
あの絵の事にしてもそうだ。あの画家は、乙女自身も好きな画家であった。だが、乙女が惹かれている彼の
画風から漂うある種の陰鬱さや、描かれた女性達の底のない湖のような瞳に、観ている自分の胸が切なくなり
そうな“何か”、そういったものを咄嗟に言い表せる一言が見つからなかったのだ。
「俺だって、良い物は良い。綺麗なものは綺麗だって事ぐらいは分かる感性は持っているさ。」
綺麗なもの、例えば・・・
「ごめん、隣、座ってもいいかな?」
そう、例えば、俺の羨ましくてたまらないこいつのこんな笑顔・・・・・・・・・・・・え?
思わず現実に引き戻されて、顔を上げた乙女の前で、少しだけばつの悪そうに微笑んでいるのは
「・・・天秤?き・・・君も・・・」
振られたのか、とは流石に言いかねて、絶句しながらも、乙女は、先程からずっと頭に浮かんでいた同僚の問いに
赤べこ人形のようにこくこくと頷き続けていた。