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「ああ?!」
 俺はヤンキーヨロシク、顔をギリギリまで近づけて睨んでやった。座布団の後ろから「ケンカを止めないと」「山羊、野暮なことしないの!」とか声が聞こえたが一応無視。そして俺はその色気の無い声で頭が一瞬冷えたせいか、あることに気が付いた。
 こいつとの距離は、いつも40センチはあった。近づいても、絶対に同じ分だけ離れようとするやつなんだ。だのにこんな近くにいる。
「……おい、今日はずいぶん近づいてもいいんだな」
「あ、そう、だね――」
 水瓶が動揺している。さっきまで平然と合わせていた筈の目が下のほうを泳いでいる。おい、もしかして本当に傷ついてるんじゃないのか。ショックすぎてオレとの距離のとり方すら間々ならないんじゃないのか。こらこら、今更離れようとするんじゃない。往生際が悪いな。俺は逃げようとする水瓶の胸倉を掴んだまま、うっすらと赤くなっていくヤツの頬を見つめていた。

「獅子いい加減に離してくれ。いいだろ、もう」
「嫌だ。お前みたいに飄々とスカしたヤツ、気に食わないんだ。だから気が済むまで飲ませてやる。それにどうして抱え込んでるんだよ。今日は振られた奴らの集まりなんだろ?」
 さっき言われたことをそのまま返してやると、小さくそうだな、と返ってきた。そしてちらりとこちらを見ながら、手を離して欲しいと示すように水瓶の手が俺の手を叩いている。よし、ここまですれば飲んで発散すれば大丈夫かもしれないな。
「じゃ、飲み比べだ。どっちが参ったするまで飲むぞ」
 掴んでいた手を離して、持って来た一升瓶を抱える。が、おいおいちょっと待て。水瓶のヤツが後ろへと後ろへと倒れていく――って!
 俺はとっさに手を伸ばしてヤツを支えようとした。したんだけど。酔いがあったせいも有る。座布団と水瓶が魚へと雪崩れ込む中、俺はその上へと倒れこんでしまった。まあ、あれだ。酔っ払いどものカッコウのえさになるポーズでいるわけだ。
「獅子、止めてくれよ……」
 俺の下に居るコイツも、まるで襲われたかのように言うわ、さっき掴んでいたせいで胸元は開いてるわで、俺は言い訳の仕様が無かった。そして俺は俺だけに聞こえるように言った囁きを聞き逃さなかった。
「まったく、君も振られて寂しいからってさ。こんな可愛い手に引っかかっちゃって、面白いったらないよ」

 その後、俺は全員の酒を配膳し、更には水瓶に良い様に小姓として使われ。散々な目にあったわけで。やっぱりアイツは気にくわねえと再確認をした。しかも俺も振られたってことになってるあたり許せねえ。が、しかし一瞬動揺した時のヤツの顔を思い出しちょっと嬉しくもあったりする。

 …まあ、いいだろう。この俺と仲間だと思うことで、あいつの気が楽になったのなら…本当に立ち直ったのか? 電話してみるか。