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カジノ・ロワイヤル 蟹と蠍 774チップ 2007/09/20(木)04:06

63の続きです。長い章が続いたのであっさりクサめに。



賭博場での事件後、部屋への立ち入り検査を済ませた蟹は
すっかり参った様子で甲板のテラスに一人顔を出す。
落日は既に水平線へ埋もれかかっている。強い海風が黄昏ている蟹の髪を揺らす。

蟹「はぁ。遠くへ来ちまったなあ」
 (……家に残してきたみんなは元気でやっているだろうか。
  取立ての奴らに脅かされず、せめて安らかに暮らせていればいいが。

  ここには自分で飯を作れる環境もない)

牛と天秤の兄弟のことが思い出されて、一人でデッキへ突っ伏す。
しばらくそうやって落ち込んでいると、日も完全に沈んだ頃
横から紙コップに入ったコーヒーを出す手があった。蟹は手のほうへ顔をあげる。

蠍「(コーヒーを勧めながら)酒の方が良かったか?」
蟹「あ、いや……ありがとう。頂くよ」

蟹と蠍は共に暗い海を見つめながら静かにコーヒーをすする。

蟹「あんた、怖くないのか」
蠍「うん?」
蟹「こんな暗い世界を一人で泳いで……。……正直俺は怖い。怖くてたまらないよ。
  あんなに年端も行かない子が酷い目に遭っても、何にもしてやれなかった」
蠍「あんたは俺を助けてくれたじゃないか」
蟹「だけど……!」
蠍(……あんたは、俺だけを見て俺だけを愛してくれないかな。
     いや、それは贅沢ってものだな。棲む世界が違うんだから)
 「優しいなあんたは。昼の人って感じだ。船を下りてもそうやって生きていくんだろうな」
蟹「……」
蠍「馴染んじゃいけないよ。この世界には。
  ……俺はどうしても怖くなったら自分が深海の底にいるんだと思うようにしてる。
  星も見えず、一筋の陽の光も届かない。だけどそれ以上何も失うことのない真の暗闇だ。
  いつも死んでもいいと思って暮らしている」
蟹「守るものはないのか」
蠍「今のところはあんたさ。今までにもたくさん尽くしてきた相手はいたよ。
  でもみんないなくなってしまう。俺のことが重くなって」
蟹「……」
蠍「(海を見ながら)それでも、誰かに優しくせずにはいられないんだな。
  ──そうしないと自分が消えちまうような気がするんだ」

蟹「蠍さん。あんた自分が負けたら俺にあんたを抱けと言ったよな」
蠍「言った」
蟹「あんたは生き急ぎ過ぎてると思うんだ」
蠍「……(蟹を見つめる)」
蟹「俺はあんたにお日様の下で飯を食って欲しいな。
  無事に二人とも船を降りられたら、俺があんたに作ってやるよ。一緒に食べよう」

蟹は優しく蠍を見つめている。
蠍は答えない。デッキにもたれたまま蟹から目をそむけ、片手で顔を隠してじっと何かをこらえている。