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カジノ・ロワイヤル 乙女と天秤と牡牛 1/2 774チップ 2007/09/22(土)04:31

66の続きです。第四ターンに突入します。長々スレをお借りしてすみません。



──長い夜の中で、乙女は強度の不眠に苛まれている。
すこしドアから物音が鳴ると心臓が跳ね上がり、うつらうつらしたらしたで
起きた瞬間にあの男が側にいるのではないかと鳥肌が立つのだ。

テーブルランプ以外の明かりを消した環境で、
もう闇があの男──山羊自身ではないかと錯覚してしまうほどだ。
「あの」と横から少年の声がして、そのときも乙女は心臓が恐怖に痛むのを感じた。
見返すと、そこには目にくまを作った天秤が立っていた。

天「(侘しげに微笑みながら)……ミルクティー、如何ですか。缶ですけど」

テーブルに座り、乙女と一緒にミルクティーを飲む天秤の目はやはり乙女と同じように、震えている。
社交向けの微笑が骨にしみついているのだろう。乙女は少年の気丈さがわかって何も言えなかった。

天「ロンドンの事故のこと、ご存知だったんですね」
乙「お前も知っていたのか」
天「(うなずきながら)……兄抜きで家族会議がありました。とにかく治療費と慰謝料は出したから、
  これ以上不必要に会いに行ったり謝罪しに行ってはいけないと。
  あんまり会いに行ってまたお金を請求されたら厄介だからと……」
乙「……(不快の表情を表に出す)」
天「あのときばかりは、もう少しで何かが変わる気がしたんですが。だめでした。
  僕は中身の美しさなんかなくても外身だけに適応して生きてゆけますが、
  兄は笑いながら絶望したみたいです。荒れて荒れて。でも誰も止めなくて、
  何年も経ってしまいました。
  その間僕は家でお茶を飲みながらまるでお客さんのように壊れていく兄を見ていた」

天秤はミルクティーを飲み終えると缶を置いて席を立ち、部屋の隅で寝ている牡牛の側に座り込む。

天「何年も、周りに流されて兄を殺してきたのです」

兄の横で乙女の方に向き直ると、彼は乙女に向けてぺこりと頭を下げた。

天「すみませんでした。怪我をされた方のところには必ず兄を連れて謝罪に伺いますから、
  どうか、兄を許してください」
乙「……」


数時間しても乙女は眠れなかった。
天秤は長いこと謝罪の姿勢を続け、乙女によってひとまず頭を上げるよう言われると
兄の横に寄り添ってすやすやと眠ってしまう。
仲のよい二人の姿に、それでも裁きを下さねばならないような気がして
乙女は静かに席を立つ。ひとりバッグから”最悪のときのためのナイフ”を取り出して、
牡牛の頭のすぐ側に立つとテーブルランプの薄明かりの中
暗い瞳をして二人の姿をずっと見下ろしていた。
何時間そうしていたかもわからぬほど時間がたったかと思うと、
今度は牡牛のほうが目を醒ましてぽっかりと部屋の中の虚空を仰いだ。
彼は、乙女の姿に気づいたかと思うと震える腕を動かして横の弟を庇うしぐさをした。

牛「ひといきにいけ」
乙「……」
牛「弟は、刺さないでくれ」