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魚「なっ……ちょっと、やめて……!」

口では反抗しながら、あまり暴れると力で組み敷かれることを本能でわかっているのか
魚の体はたくさんの手の中で柔らかくしなった。
羊の体は気がつくと力なくわなないている。
見たらいいのか、目を叛けたらいいのか、逃げたらいいのかまったくわからないからだ。
照明を受けてしどけなく上下左右へうねる魚の脚。
やがて群がる男たちの中から魚の激しい喘ぎ声があがり、
熱狂のなかで羊は、膝の力を失ってそれまで座っていた椅子の上へへたりこんでしまった。
声の甘さや苦さでフィニッシュの瞬間までわかった。
甘ったるい大輪の花のような、淫靡で、無残なまな板ショーだった。

ショーが終わると後ろから拍手の音が聞こえた。
羊が虚脱状態のまま振り向くと、獅子が儀礼的に拍手を送っている。

獅「(微笑を浮かべながら)まだやるかね」
羊「……おう。もちろんさ。勝負ついてねえもんな。……だがちょっと時間をくれ」
獅「いいとも。俺はこの卓かそこのバーで待っているとしよう」


叱り飛ばしてやろう。もし負けたのなら、敗因をちゃんと分析して説教してやろう。
──そう思っていたのに賭博場を出た羊の歩みはおぼつかなかった。
ひどく混乱している。大事なのは勝ち負け。誰が強く誰が弱いか。勝つ術。そういうことなのに。
ステージ裏を見ても魚はおらず、聞けば自室に戻されたということだった。
魚の部屋に行く途中で眩暈がして、缶コーヒーを一杯飲み干した。
貧血気味なのは直らなかったが、気を取り直して魚の部屋にゆき、部屋をノックする。

羊「魚。俺だけど。羊。入ってもいいか」

ドアは案外すんなりと開いた。魚はもうシャワーを浴びたあとで、
バスローブに身を包みながら濡れ髪に水をしたたらせて微笑んでいる。

魚「ああ、羊。負けちゃったね。俺頑張ったんだけど。……(急に涙ぐみながら)泣いてもいい?」

羊は手を取られて部屋の中へ引きずり込まれる。ドアがばたんと閉まり、
静かになって外からは何もわからなくなった。
部屋の中へは羊が無表情のまま魚に抱きつかれて呆然としている。
魚が床に崩れ落ちるのに合わせ、一緒に羊も膝をつく。そのまま腰を下ろす。
魚は羊にすがりついて盛大に泣いている。

羊「あー、………………泣くなよ」

叱ってやるつもりだったのに、気がつくと魚の頭に手をやって濡れ髪を梳いていた。
表情が動かせない。無性に泣きたくなった。