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カジノ・ロワイヤル 羊vs獅子(+魚) 1/2 774チップ 2007/09/25(火)05:02

74の続きです。羊と獅子の組み合わせはやたら男臭くて楽しいです。



獅子は、空の卓で敵の帰還を待っている。
タキシードに包まれたその立派な体格からは熱気が昇り、主の微笑に合わせて、
ボードの上を揺らめいている。周りにいたいかつい男たちの一人が獅子に近づいて耳打ちする。
「獅子さん。あの男(→羊)放っておいたらまずいんじゃないですか。攫いますか」

獅「放っておけ。あの男は戻ってくる」

「はぁ。それじゃ監視だけでもつけますか」

獅「二度も同じことを言わせるな。どうしてもつけたければつければいいが、
  悟られないよう一番腕のいい奴を用意してやれ。俺との戦いが終わるまでは手を出すな」

卓に座り、手元でチップをいじりながら他の卓で戦う男たちの横顔を眺めているときが
獅子には面白くてならない。今現在賭博場に残っているプレイヤーは少ないが
また明日、この場所に集う面子の顔を想像するだけで獅子はいくらでも暇を潰していられる。

獅(業だな。男は戦うことから逃れられない。どんなに心優しい男でも、女じみた顔をした男でも
  生まれた瞬間から闘争の影がつきまとう。
  それが必要な戦いだとわかっていれば、愛を捨ててでも戻ってくる。
  それができなければ男として大切なものを失うと本能に叩き込まれている……)


魚の部屋で、羊は無表情のまま泣きじゃくる魚を抱いている。
本人すら知らぬうちに傷つきやすい少年の心を背中に滲み出させ、
無心に腕の中の相手の体温を感じている。

──戻らなければ。獅子が、戦いの場所で待っている。

羊「(乾いた声で)魚。俺、ゲームの途中で抜け出してきちゃったんだよ。
  戻らなきゃ。いつまでもここにいるわけには」
魚「……羊、行っちゃうの? ずっとここにはいてくれないの?」

羊が思わず見つめてしまった先に、魚の潤んだ瞳がある。涙をこぼしながら自分を求めている。
ぞくりと首筋に痺れを感じた。自分の手が思わず不審な動きを起こしそうになった──。

魚「わっ」
羊「(魚の目元を乱暴にぬぐいながら)──泣くな! 俺は必ず勝って帰ってくるから。
  そしたらあとはお前の側にいてやる。だから」
魚「(羊の顔をじっと見つめている)……」
羊「勝って、帰ってくるから」
魚「……(うつむいて、自らの涙を押さえ笑う)うん。わかった。引き止めてごめん」

立ち上がり、辛そうな顔をする羊の前で魚が泣きやんだ顔を上げるまで少しかかった。
顔を上げた魚は笑いながら言葉少なに黙っている。
意志を固めた羊を送り出し、羊が扉を閉めるその瞬間まで笑っている。

魚「いってらっしゃい」
羊「おう」

羊は魚に強い背中を向ける。扉が閉まる。
羊の足音が遠ざかるまで、魚は誰も居ない部屋で両手を握り締めて声を殺している。

魚(本当は俺と一緒にずっといてほしかったんだよ……)

その場に崩れ落ちて震える。理性が感情に追いつかなかった。頭に羊の歩む姿を描きながら、
さびしさに涙がだだ漏れて止まらなかった。


強くなる。ただそれだけの目的のために、
人間はどれだけたくさんの悲しみを超えていかなければならないのだろう。
これまで一匹狼で戦ってきた羊には初めて背負った魚の涙が重い。
だがここで投げ出せば自分は永久にこれ以上強くなれない。
それどころかギャンブラーとして、男として培ってきた大切なものを失ってしまうこともわかっていた。
羊は鋭く冴えわたった目つきで顔を上げると再び賭博場の賑やかな光の中へ突入する。
敵は卓で待っていた。まるで自分が離れている間、時間の流れを塞き止めていてくれたかのように。

獅「来たか」
羊「……」
獅「(微笑みながら)男が悲劇のひとつも背負わないでどうする。
  さあ、そこに座ってベット(賭け料)を出せ。男らしく俺に牙のひとつも剥いてみせろ」