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獅子は、バーで休んでいる羊をじっと見上げている。
やがて羊を見上げたまま部下を呼ぶ。彼は部下が近くにくると羊の背中を見上げたまま指示を出した。

獅「おい、川田に言って干渉をやめさせろ。必要なら金を持っていけ」

「干渉……あの相手のですか? 別にギャンブラー一人、どうせ獅子さんに負ける身なんですから……」

獅「いいから早くやれと言ってるんだ!!」

突然の怒鳴り声に部下の体が凍る。
それまで余裕の笑みを浮かべていた獅子の顔が鬼のように険しくなり、
有無を言わせぬ調子で部下を圧迫した。

獅「いいか。あれはボードの上でとはいえ、俺を殺す気で戦いに臨んでいる。
  戦いを穢すやつはゆるさん」

獅子の一喝を受けて部下が弾丸のように走っていく。
獅子は椅子の上で腕を組みながら、人を使う難しさに一人溜め息をつく。
羊が体調を回復させるまでには時間がかかったが、獅子は椅子の上で伸びをしたり
傍若無人に卓の椅子を部下に全部埋めさせたかと思うと自分は食事を取ったりして
気長に羊の帰りを待った。
しばらくして部下が干渉をやめさせるためにリベートを打った旨を獅子に伝えた。
獅子はまた退屈そうにうなずくと卓の上に頬杖をつき、目を閉じて猫のように仮眠をとった。


羊「あの野郎、まだ俺の帰りを待ってんのか。気長だなぁ」

バーの一角、大きなソファのあるテーブルで身を休めながら羊は勝気に笑った。
おかげで体調はほぼ戻った。目を閉じると部屋に残してきた魚のことがなぜか浮かぶ。
洗面所で顔を洗って振り払い、顔を叩いて活を入れる。
水瓶と山羊が何も言えずに見守る中で彼は第三ラウンドの戦場へと戻っていった。
獅子が羊の帰還に気づいて身を起こす。
羊は「待たせたな」とあっさり言い渡しながら、先ほどとは違う席についてチップを並べた。

獅「同じ席に座らんのか」
羊「ゲン担ぎだよ。自分や他人の具合が悪くなった席には座らないのさ。それにこうすると、
  敵を違う角度から見られるだろ」
獅「……(笑って)ほう。いいことを聞いた」

朝から始まって夜まで続いた戦いだった。どちらも意地の張り方だけは底なしで、
獅子が豪腕でチップをもぎ取ったかと思えば羊が要所で烈しく攻めに入り巻き返す。
誰もその戦いの激しさに割って入れない。戦っている間の二人の顔は修羅そのものだった。
戦況は夜になってようやく傾いた。獅子は自らのチップが致命的な量にまで減ったことを悟っても、
なお堂々として最後まで虎視眈々と逆転の機会を狙っていた。
息の根を止める瞬間が一番難しかった。最後の一ゲームで勝ちを収めたとき、
羊の指先はちりちりと焼けついて震えていた。


「プレイヤー獅子氏は破産です。
 相手プレイヤーを撃破した牡羊氏には追加で撃破ボーナスが加算されます」


負けて獅子に恥じるところはなかった。
獅子はゲームを終えてなお、胸を張ってその場に鎮座している。
羊が周囲の賞賛の拍手を浴びながら、清々しい気持ちで握手を求めると彼は不敵な顔でそれに応じた。

羊「あんた、マジで強かったよ。またやろう」
獅「──(笑って)まあ、そのうち暇ができたらな。生憎俺は貴様よりはるかに大きいものを
  奪りにいってる途中だ。こんな余興ばかりもやってられん。
  ところでお前、本当に一人身なのかね。上に誰かついてるってことはないのか」
羊「? 何言ってるんだあんた?」
獅「……まあいい。あとで訊くさ。
  それはそうと。次にボードの上で会うときは叩きのめしてやるから、忘れるなよ」

獅子は豪奢な身体をようやく椅子から立ち上がらせたかと思うと、
まっすぐにまな板ショーのステージへ歩いてゆく。
これから起こることなど覇道への余興に過ぎないと断じるたくましい背中だった。
羊は卓の側から獅子の背中を見送りながら、あの背中が背負ってきた悲劇の数を数えようとして──
──おそらく獅子がそれを望まないとわかって、数えるのをやめた。