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カジノ・ロワイヤル 蠍vs水瓶vs羊vs蟹 774チップ 2007/09/29(土)04:46

87の続きです。書いているうちにだんだん地の文が長くなってきました。



蟹が一歩一歩自分を奮起させるようにして賭博場に歩いてゆく。
実際に戻って、戦って相手にとどめをさせるかどうかはわからない。うまく行く確信はなにもない。
それでも戻れるだけは戻ってみようと思った。蠍はまだ賭博場にいるだろうか。

蟹(いざとなったら逃げていいんだ。俺は自分の意志で戻るんだ)

近づく決勝戦に沸く観客たちの間を目立たないようにすりぬけて、人工的な眩しい世界の中に入る。
賭博場では他の五人のプレイヤーが戦っている。蠍の姿もまだあるのに安堵した。
──彼がほっとしていられたのは、そこまでだった。


卓に毅然と構えて勝負を続けながら、蠍は死の際にいた。
虫の息だ。卓に近づくにつれそれがわかってくる。蟹は歩きながら異変に気づいて徐々に顔色を変え、
最後には卓の横に駆け寄ってくる。水瓶と羊がそんな蟹の姿を一瞥する。
蟹を見つめる水瓶の目の光は、戦いに際し感情を排した冷たいものだった。
すぐに蟹などいなかったかのように蠍との戦いに戻る。蠍の手持ちのチップは、
今や蟹のそれよりも少ないのだ。

蟹「(青ざめながら)蠍さん」
蠍「(蟹を見上げて)……」

昨日までとは違う、生き残ることへの執念を失った目がそこにあった。
蟹への義務感だけで勝ち抜こうとしているのだ。蟹が現れた瞬間それも途切れた。
蠍は蟹に向けて柔和に微笑んだ。
卓の上でそんな顔をされることに背筋が冷たくなる。
蠍は最後の力を使ってやわらかく手招く。蟹に、”卓へ座れ”と言っていた。
蟹は何かを悟って首を横に振る。蠍は蟹が卓につくまで手招き続ける。

蟹は卓に座ってしまう。三人の戦いに割って入り、顔を真っ青にしながら。
羊がその弱さを鼻でふんとあしらい、水瓶が冷徹に彼を無視したのも見えていなかった。
ただ、こちらにやさしく微笑んでいる蠍の顔だけを見つめていた。
ベットを出すと蟹の前にも平等にカードが配られてくる。
ゲームを重ねていく間、蠍は何度も蟹の顔を見て蟹のカードが強いか確かめてくる。

蠍「そっち(の手札)はどうだ」
蟹「(動揺を隠しながら)まあまあだよ」
蠍「まあまあじゃ駄目だな」
蟹「……蠍さん、俺」
蠍「(静かに笑いながら)頼むからもう卓を立たないでくれよ。勝負のしがいがないじゃないか」

蟹にはわかる。蠍は他の二人に勝たせないようにしながら、
蟹がいい手の時を狙って蟹が勝てるよう自分の手札を弱く崩している。
最後の力で少しでも蟹にチップを送り込もうとしているのだ。
やがて蟹の手にはカードが揃ってしまう。スペードのストレートフラッシュ。
蠍の針のようなスペードのマークの羅列に蟹が言葉を失うのを蠍は見逃さなかった。

蠍「それじゃ、いこう」
蟹「(首を横に振る)蠍さん。嫌だよ」
蠍「いや、あんたはそのカードを出すために来たのさ。あんたには守るものがあるんだろ。
  蟹さん、よく覚えておくんだ。今からあんたがやらなきゃいけないのはこういうことだ。
  ──俺はこの瞬間に全てを賭ける。あんたも賭けてくれ」

蠍は躊躇わずに場に全てのチップを賭ける。もはや風前の灯火だった少ないチップに、
羊と水瓶の出したチップが上積みされてゆく。
これから出すチップに全てを賭ける。
自分の手役より強い役を誰かが、水瓶が、羊が、あるいは蠍が持っているかもしれない。
蠍以外の誰かが勝てば蠍は破産するだろう。
自分が勝てば、蠍を死地に送ったのは自分ということになるだろう。
それでもそこに自らを賭けていかなければならないのだ。

蟹はチップを押し出す。賭けが成立し、プレイヤーたちが自らの手を晒す。
羊は6から10までのストレート。水瓶はダイヤのフラッシュ。
蟹はそこへ自らのストレートフラッシュを出すと祈るような気持ちで蠍を見つめた。

蠍「(微笑みながら)あんたが戻ってきてくれて良かった」
蟹「蠍さん」
蠍「よく覚えておきなよ。この勝負のことを覚えておけば、あんたはきっともう負けない」

蠍は場に自分のカードを出す。
ブタ(役なし)だった。意図的にそうしたのだ。言葉を失って固まる蟹の前に
賭けられたチップがまとめて押しやられ、蠍は微笑しながら頭を垂れて両手を挙げた。


「プレイヤー蠍氏は破産です。
 相手プレイヤーを撃破した蟹氏・水瓶氏・牡羊氏には追加で撃破ボーナスの三分の一ずつが加算されます」