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蟹はライトアップされた舞台の上で、裸の蠍の前に立つ。
まだ表情を表に出せない蟹の前で蠍は静かに、幸福そうに微笑んでいた。
周りの音が何もかも消し飛んだような空気がひろがっていた。

蟹「これでよかったんだな?」
蠍「……(うなずく)」

蠍は何の芸もなく、舞台の上に仰向けになる。そこへ蟹が芸のない調子で、ぎこちなく蠍を抱く。
蠍は蟹の腕の中で生気を失っていった。口元に微かな微笑を浮かべながら、
蟹の動きに振り回されてぐらぐら揺れる。
蟹は蠍を抱くうち、苦しそうに泣き始める。

蠍(ああ、そんなに泣かないで。
  俺はとても嬉しいんだ。あんたは昼の人だから。俺みたいな夜の住人が、
  絶対に深く関わったり愛したりしちゃいけないと思っていたから。
  こうやってあんたと繋がれるのは本当に嬉しいんだ。夢みたいだ。
  俺の命をあんたにやろう。だって、もともとあんたがくれたものだ。
  俺の魂もあんたにやる。俺の魂があればあんたはきっと戦えるはずだ。
  本当に今死んであんたにやりたいくらいなんだよ。
  ああでも、あんたは俺を殺したと本気で思ってくれるんだね。嬉しいよ)

ショーが終わるころ、蠍は蟹の下で動かなくなっている。
身体から生気をすっかり失い、閉じた目の端から一滴の涙を流しながら。
観客はほとんど仮死状態に近い蠍の反応に蟹が彼を貫き殺したと錯覚した。
そのまま、蠍の身体は立つこともできずに裸のままステージ裏へ運ばれてゆく。

蟹は観客たちに背を向け、乱れた服を直すと立ち上がる。
それまで優しかった面影が嘘のように、何かを瓦解させてしまったうすら寒い背中。
ショーを見ていた羊たちはなぜかその背中に息を呑んだ。
長い沈黙の果てに蟹はこちらを振り向く。

なんと言い表したらいいのかわからない。人の道を踏み外した人でなしの顔がそこにあった。
羊などは、思わずその動物的カンから全身に寒気を感じて身をすくませる。
双子は口笛を吹きながら冷や汗をかき、水瓶は鏡のような目で平然としてそれを映しこむ。
山羊は蟹の出す異様な空気に対して反射的にどす黒い視線を返した。
蟹は黙っていた。「どうしてこんなことになった?」とは言わない。
今の彼にはもう、全てが破壊すべき対象なのだ。