12 名前: ametora(前スレ708)  投稿日: 02/02/11 16:15 ID:L27OuAd7
    前スレの708です。マツミサ見たいと云って下さる方がいらっしゃるので(>_<)
    載せます(まだ途中ですが)。ちっとも801じゃなくてすいません。

    ●マツミサほのぼのストールイー
    岬、覚えてるか?
    ―――何を?
    お前がふらのに居た頃、2人で、練習サボってさ……
    ―――覚えてるよ。2人だけの、想い出だもん……


    ふらの小学校・とある教室にて
    「ええ!岬引っ越しちゃうのかよ!」
    「え?嘘だろ!」
    「しかも明後日って本当かよ!」
    「何でもっと早く言わないんだよー!」
    「そうだよ!」
    本当は自分でも驚いていた。いつも別れるのが辛いから、黙って引っ越していくボクなのに。
    でも今回は、そんな事出来なかった。何故ならそれは……。

    松山「皆、やめろよ!!」
    「…キャプテン」
    松山の一言に、教室は静まり返った。
    松山「…一番辛いのは……岬なんだから…」
    「…………」
    松山「だから、頼むから…明るく見送ってやろうよ、皆…」

    ―――そう。何故ならそれは、君が居たから。松山、君が居たから……。


13 名前: ametora(前スレ708) 投稿日: 02/02/11 16:16 ID:L27OuAd7
    >12の続き

    ボクは初めてこの学校に来た時の事を思い出した。
    先生「……から引っ越してきた岬太郎くんだ。皆仲良くしろよ」
    何度繰り返しても、やっぱりこの瞬間だけは慣れない。
    友達のだいだいがグループになっている事が多かったけれど、このクラスは違った。
    皆仲が良くて、優しくて、すぐにボクを受け入れてくれた。

    その日の放課後…
    「岬ってサッカーやってたのか?」
    「すごい上手いなー」
    「キャプテン並みじゃないか?岬のボールさばき」
    キャプテン?キャプテンって……

    松山「岬!お前サッカー上手いんだな!」
    岬「…松山くん……」
    松山「おい、呼び捨てでいいぞ」
    岬「…え?」
    松山「だって‘松山くん’なんて呼ばれると、何か遠い感じするだろ?」
    そう云って笑った。
    ――――それが、初めて君の笑顔を見た瞬間だった……。


    「…ごめん、岬」
    「そうだよな、岬が一番辛いんだもんな」
    「引越したら、手紙くれよ」
    「残りの二日間いい想い出、作ろうな!」
    教室に居る間、松山だけは、ボクに一度も話し掛けては来なかった。
    窓際にある自分の席に座って、ずっと遠くの景色を眺めていた君。

48 名前: ametora(前スレ708)  投稿日: 02/02/12 00:27 ID:YmqCel0B
    >13のつづき

    時計の針が午後四時をさした頃…。
    「晴れたなー」
    「こんなの久しぶりだよな」
    「いつも雪雪雪…だもんな」
    「久しぶりに雪かきしないでもサッカーできるな!」
    雪が降っていないのなんて、ボクがふらのに来てから数えるほどしかなかった。
    うっすらと青く広がる空。雪で、いつもは見えない遠くの方までよく見える。

    その日、初めて松山がボクに話し掛けてきた。
    松山「…岬!ちょっといいか?」
    グラウンドの端で松山がボクを呼んだ。
    松山「…今日、練習サボらないか?」
    とても意外な言葉だった。松山からそんな言葉を聞くなんて…。
    松山「ちょっとついてきてほしい所があるんだ」
    ………?


49 名前: ametora(前スレ708) 投稿日: 02/02/12 00:28 ID:YmqCel0B
    >48のつづき

    ボクは松山の後ろ姿を見ながら、学校の裏にある小高い丘へと歩いていった。
    どれくらい登っただろうか?松山がボクの方へ振り向いた。
    松山「岬、こっちだ。見ろよ」
    誘導されるまま、ボクは松山の視線の先を追った。

    そこには、今まで一度も見た事がないくらい、美しい景色が広がっていた。
    ふらのの街をすべて見下ろせて、地平線には丁度、紅い紅い夕焼けが燃えていた。
    その美しさにボクは言葉を失ってしまった。
    松山「……すごいだろ?岬。いつも雪が降ってて見れんけど、今日は珍しく晴れたからな。」
    目の前に広がる景色に見とれているボクに、松山は云った。
    松山「…今日、ずっと考えてた。お前が引っ越しちまう前に、何か想い出作れたらなって。
    この景色、お前に見せたかったんだ…」
    岬「……すごい…」
    それしか口にする事が出来なかったボクに、松山はただ、優しく笑ってくれた。



50 名前: ametora(前スレ708) 投稿日: 02/02/12 00:29 ID:YmqCel0B
    >49のつづき

    松山「…そろそろ帰ろうか、日も暮れちまう。それにまた雪降りそうだし。…て、もう降ってきたな」
    松山は空を見上げた。
    ボクも連られて空を見上げた。
    そして、ヒラヒラと舞い下りてくる雪を、広げた掌で受け止めると、音も無く溶けて消えた。
    松山「あれ?お前、手袋は?」
    岬「あ、今日忘れちゃって」
    ボクの指先は寒さで紅く染まっていた。かじかんで、上手く動かせない。
    松山「何で早く言わないんだよっ」
    そう云って松山は、ボクの両手を自身のそれで包み込み、
    そのまま口元に持っていき、白く暖かい息を吹きかけてくれた。
    岬「松山…」
    しばらく、松山はボクの手を温めてくれていた。
    そして、ボクの手を解放すると、自分の右手にしていた手袋をボクの右手に着せた。
    岬「い、いいよ松山!ポケットに入れてれば暖かい…」
    松山「暖かくないだろ?だからこんなに冷たいんだろ?」
    今度はボクの左手を、松山の右手がそっと握り締めた。とても暖かい手で。
    松山はそのまま自分のコートのポケットの中に、繋がっているお互いの手をスッポリと収めた。
    松山「これでお互い暖かいな」
    そう云って、松山はまた優しく笑った。
    岬「松山…」
    何だか、帰りたくないよ。
    君が優しすぎるから、君を、このまま一人占めしたくなっちゃったよ。


51 名前: ametora(前スレ708) 投稿日: 02/02/12 00:30 ID:YmqCel0B
    >50のつづき

    2人並んで、登ってきた丘を下った。
    その間、ボクらは他愛もない会話を交わしていたよね。
    でもボクは一つだけ覚えている事があるよ。
    それは―――

    松山「お前の手、ホントに冷たいな。…何だっけ?手が冷たいと心が暖かいんだよな?」
    岬「そうそう。よく云うよね。何でだろうね」
    松山「あー、じゃぁ俺は心が冷たいのか…」
    岬「え?」
    松山「だって、熱いだろ?俺の手…」
    握られている左手。松山の体温が伝わってくる。暖かい。

    岬「あれは、嘘だね…」
    自分でも聞こえないくらい、小さな声で呟いた。
    だって君の心は、この手とおんなじくらい、とってもとっても暖かいんだもん。
    ―――でも、照れくさくて言えなかったよ。
    松山「岬?…どうした?」
    岬「…ううん。何でもない」


    2人の足跡が、次第に強くなる雪に、あとからあとから消されていった。END

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最終更新:2009年05月02日 11:28