838 名前: とりあえず井沢ネタ 投稿日: 02/04/10 15:49 ID:1OtClvkr
『ねぇ、誰か井沢に何かしたの?』
部室で着替えていると岬が皆なに尋ねた。
当の井沢は週番の見回りでクラブが終わってすぐに校舎に行ってしまったのでこの場にいない。
『何かって…』
『誰かとケンカでもしたのかと思って。だって様子ヘンだったじゃない』
『ケンカー?来生、おめー何かやったんじゃねぇの?』
『来生は井沢を怒らせるのうまいからなぁー』
『オレじゃねーよ!心当たりないし。ったく誰だよ…』
みんなが口々に色々言っている。
『……それって…多分オレ…だと思う…』
みんなが一斉に滝の方を見た。
『滝とケンカなんてちょっと珍しいなー』
『いや、ケンカって訳じゃないんだけどな…実は…』
ちょっと気まずそうに話し始めた。
839 名前: とりあえず井沢ネタ 投稿日: 02/04/10 16:19 ID:u9NwBJdB
昨日の晩のこと。
宿題も終わってそろそろ風呂でも入ろうかという時に一通のメールが入った。
『ん?滝から…?……な、何だよコレ!!!!』
メールを最後までみるのももどかしく、大慌てで家を飛び出した。
(おい。ちょっと待てよ。大丈夫かよ。無事でいろよーーーー!)
井沢の家から滝の家まで走って約10分。
今までこんなに気合入れて走ったことないんじゃないだろうかという位走った。
肩で息をしながらチャイムを鳴らすとちょうど滝が出てきた。
『…滝!』
『あれ、井沢?』
『あれ?じゃねーーよ。お前事故ったんじゃ…だってメール!』
『え、あー…とにかく玄関入れよ』
とりあえず井沢を中に入れた。
『滝!一体どーなってんだ?何が何だか…』
『メール最後までちゃんと読まなかったな?きちんと読んでみろって』
滝に促されて届いたメールをもう一度読んでみる。
『なぁ、この一番最後の電話番号なんだよ?』
『かけてみろよ』
言われて素直に電話をかけてみる。すると
“はーい♪アタシりかちゃん♪ 今日校長先生に誉められちゃったの~♪……”
『…………。』
『な、結構笑えるだろ?って…い、井沢!?』
井沢は怒っている。めちゃめちゃ怒っている。
『オレは本気で心配したんだぞ!!ふざけんなー!!!』
滝が次の言葉を言う間もなく井沢は帰っていってしまった。
840 名前: とりあえず井沢ネタ 投稿日: 02/04/10 16:31 ID:nBIINZtS
『……そりゃおめーが悪ぃわ』
石崎があきれている。
『ちゃんと読まない井沢も井沢だけど、何もそんな時間にそういうメール送らなくっても…』
『あいつ意外とこの手のイタズラ楽しむタイプなんだけどなぁ』
『でも心配して駆け付けた挙句にアタシリカちゃん♪、じゃなー…怒るのも当然じゃねーの?』
他の面々も同じく呆れている。
滝は頭を抱えている。
『まぁそれだけ井沢に大事に思われてるってコトだよ。ボクたちは先に帰るからきっちり謝りなよ。分かったね?』
岬の笑顔に滝は素直に従うしかなかった。
841 名前: とりあえず井沢ネタ 投稿日: 02/04/10 16:39 ID:v2fHxu6g
部室でぼーーーっと待っていると井沢が戻ってくる気配がした。
思わずロッカーに隠れてしまった。
『さてと、さっさと帰るか~腹減ったなぁ…』
ちょうど着替えているのだろう。滝の耳にごそごそと音が聞こえてくる。
(しまった。何でオレはこんなとこに隠れたんだろう…)
後悔しながらも出る機会を伺うことにした。
850 名前: とりあえず井沢ネタ 投稿日: 02/04/11 23:39 ID:F8Yz1e+C
なかなか決心がつかないがいつまでもここで隠れているわけにもいかない。
しかしロッカーから出てくる自分の図は想像するとかなり情けない。かといってこのままでは井沢は気付かないで帰ってしまうかもしれない。
散々悩んでいるとロッカーの戸が不意に開いた。
『わっ』
『出ろよ。鍵閉めるから』
声からでは井沢がまだ怒っているのかもう大丈夫なのか全然分らない。
とりあえず一緒に部室を出る。鍵を閉める井沢の背中をじっと見ていた。
『……あのな…』
『なに?』
『…昨日の……ごめん…』
『滝……っぷっ…あはははは!!』
もうちょっと怒っていようかなと思っていたのだが、ロッカーの中でどんな顔をして待っていたのかを想像するだけでおかしくて笑いが止まらない。
滝のことだから相当マジメに悩んでいたのだろうし、もう十分だろう。
一方の滝は井沢の大笑いの意味がわからなくてきょとんとしていた。
『もう、いいって。明日の昼メシでこの件はチャラな?』
『お、おぅ!』
何がにそんなにウけたのかはさっぱり分らないが、とりあえず井沢の怒りは解けたらしい。
851 名前: とりあえず井沢ネタ 投稿日: 02/04/11 23:54 ID:F8Yz1e+C
学校を出る頃にはもうとっぷりと日が暮れていた。
『おまえってさー…良い奴だな』
わざわざ言うつもりは無かったのに何故か口をついて出たのがこの言葉。
言ってしまった後でちょっと気恥ずかしくなった。
『なんだよ、今ごろ気付いたのか?』
井沢の返事に思わず振りかえると、彼はいたずらっぽく笑っていた。
その後ろに出ている月もなんだか笑っているようだった。 (終)
最終更新:2009年05月02日 10:50