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放課後SS第二部(後)」(2013/11/26 (火) 15:19:51) の最新版変更点

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博麗霊夢の手記 私の知る限り、放課後のJOKERの評判は上々。宴会でも人気者だ。 これは紫の差し金だろうけど、異変が起こったときも私が動く前に解決してしまう。 彼が異変を起こしでもしたら、いかに私でも対処不可能だろうと紫は言っていた。 ただ、彼が異変を起こすとは思えない。もしそうなっても、私は私のなすべきことをするだけだ。 十六夜咲夜の手記 放課後のJOKERはしばしば紅魔館へと訪れる。 フラン様はその度に大喜びするし、最近はパチュリー様も彼と魔術知識の交換をしているようだ。 レミリアお嬢様だけは彼が来ると苦虫を噛み潰したような表情になるが、彼の方は決してレミリアお嬢様を嫌ってはいないようだ。 かつて命を狙った私にも、レミリアお嬢様同様気さくに話しかけてくる。 私としても、そんな彼のことを嫌いではない。つくづく不思議な男だと思う。 鈴仙・優曇華院・イナバの手記 放課後のJOKERはたまに永遠亭に来て、姫様と話をしたり、てゐや他の兎達と遊んで過ごす。 そして夜になると姫様と戦うこともある。何回も戦っているわけではないが、姫様は一度も勝てていない。 彼は人気者ではあるが、師匠だけは彼を恐れているようだ。蓬莱の薬の効果も吹き飛ばし、姫様を殺しかねない力がある、と。 仮にそれほどの力があるとしても、彼ならばそうならないように出来るはずだが、師匠は気が気でないようだ。 東風谷早苗の手記 最近、神奈子様の様子がおかしい。どことなく落ち着きが無いように見える。 原因は分からないが、山の妖怪達の信仰が落ちてきたことが関係しているのだろうか。 神にとっては信仰は死活問題。諏訪子様はあまり気にしていないようだが、神奈子様はどうなのだろう。 でも、本当に原因はそのことなのだろうか。守矢神社や人里で時々会うようになった彼と、何か関係があるのではないだろうか。 永江衣玖の手記 総領娘様が幻想郷で起こした異変は、博麗の巫女ではなく放課後のJOKERという男によって解決された。 傍から見てもその力量差は一目瞭然、彼は赤子の手を捻るかのように勝利を収めた。 一瞬、彼は最高位の神である総領様以上の力を持っているのではという考えが頭をよぎった。 そんなことはありえないと思いつつも、私は今でもその考えを完全に否定しきれずにいる。 古明地さとりの手記 地上からやって来た放課後のJOKERという男は、あっさりお空の暴走を阻止した。 彼と対峙した時の驚きは筆舌に尽くしがたい。彼には私の、心を読む程度の能力が通用しなかったのだ。 しかし、彼が何を考えているかはその表情や態度から何となく推測がつく。 彼はこの地底の探索に胸をときめかせており、なおかつ自分の敗北を全く予期しないという自信に満ち溢れていた。 しかし、それも無理もない。盃の酒をこぼさず戦う鬼に対抗し、片手片足を使わず勝利を収めるほどの力の持ち主なのだから。 西行寺幽々子の手記 妖夢はもちろん、私としても放課後のJOKERに関しては悪く思っていない。 それだけに紫のその提案は私にとっては辛いものだった。 度々の説得の効果もなく、紫の決意を変えることは出来なかった。 結局、私は紫に協力することにした。自分が酷いことをするというのは十分に理解している。 紫もそのはずだから、せめて紫と同じ痛みを分かち合うことが私に出来ることだ。 自分勝手な理屈だし、彼には謝罪の言葉すらも出ない。だが、私は親友に協力する。 八雲藍の手記 JOKERとの生活も一ヶ月になる。相変わらず、橙とは仲良くしている。 紫様はといえば、最近はJOKERへの敵意も薄れてきたように見える。私にとっては喜ばしいことこの上ない。 私はもう完全に自分の心に気付いている。私は、JOKERのことが好きなのだ。 明日、博麗神社で宴会がある。その後にでも、JOKERに気持ちを打ち明けるつもりだ。 断られたら、今までどおり接することが出来なくなるのではという不安もある。 だが、これ以上は我慢の限界だ。明日が待ち遠しい。 放課後のJOKERの手記 幻想郷に来てから一ヶ月。今が自分の人生において一番、そして唯一の幸せな時期だろう。 幻想郷の人々は、自分の力を知りつつも仲良く接してくれている。 永琳やレミリアとはもう少し時間がかかりそうだが、いつかは打ち解けてくれると信じている。 そして何より幸せなのは、そばに藍がいるからだ。藍と一緒にいると、それだけで幸せな気分になれる。 慧音にそのようなことを話したら、「それは恋だ」と言われた。 恋など遠い世界の話だと思っていたのだが、きっと慧音は正しいのだろう。 現に、こうしていつまでも藍と共に過ごしていきたいと思っているのだから。 八雲紫の手記 放課後のJOKER。この幻想郷の誰よりも強く、そして誰からも好かれる存在。 藍も橙も……特に藍は、彼のことをとても気に入っているようだ。 私も彼の人柄の良さは認めざるを得ない。だが、それ以上に私は彼に恐怖を感じている。 もし彼が異変を起こしでもしたら、幻想郷の有力者達が束になってかかっても敵わない。 彼は幻想郷を愛している。だが、万が一心変わりしたら、それは幻想郷への破滅へと繋がりかねない。 私は彼を裏切る決心をした。いや、最初から味方などではなかったのかもしれない。 天人や地底での異変に彼を送り込んだのも、無謀と知りつつも密かに彼が倒されることを期待していたのだから。 勝負は明日。勝算はある。それ以降は、彼とはもう二度と会うことはないだろう。 もし彼にあれほどの力がなければ、良い友人になれただろう。私は罪を背負って生きていく。 その夜、紫、幽々子、レミリア、永琳、神奈子の5人が密かに集まっていた。 紫「もう一度聞くわ。放課後のJOKERを幻想郷から追い出す計画、協力してくれるかしら?」 この日の何日か前、紫は他の4人に計画のことを話した。 もちろんこの4人は適当に選んだのではなく、有力者であり、かつ協力してくれそうな面子を選んだ。 その時は賛同の意を示したのはレミリアと永琳だけで、幽々子は反対し、神奈子は答えを保留していた。 レ「私は前に言った通り、協力しても構わない」 永「私も協力するわ。彼は姫様にとって危険な存在なのだから」 もともとこの二人は前々からJOKERのことを快く思っていない。 永琳は輝夜のことがあるし、レミリアは散々JOKERに苦汁を飲まされている。 この日もやはり賛同する方針であった。 神「……気は進まないけど、仕方ないね」 JOKERと仲の良い神奈子が反対しきれなかったのには、信仰の問題がある。 最近、山の妖怪達の信仰が落ちてきた。その原因は、神奈子達がJOKERと親しいためだ。 誤解とはいえ山の妖怪達を統べるといっていい天狗に対し、大立ち回りを演じたJOKERは彼らの間では評 判が悪い。 そんなJOKERと神奈子達は仲良くしているため、死活問題ともいえる信仰を急激に失いつつある。 もはや守矢神社でJOKERを出禁にして済ませられるレベルではなくなっていた。 紫「あとは……幽々子」 幽「……ええ、協力するわ」 幽々子は紫を再三説得するも効果がなく、ついに折れることとなった。 これで5人とも意思が一致したことになる。 神「でもJOKERを幻想郷から追い出したとしても、再び入ってくるだけじゃないのか?   そのくらいの力は当然持っているはずだろう」 紫「それに関しては、あるレベル以上の魔力の持ち主は入れないような結界を幻想郷中に施したわ。   この一ヶ月、本当に大変な仕事だったわよ」 彼から教わった技術なの、と紫は笑った。 もちろんその時に、JOKERにも通用することは本人に確認済みだ。 永「でも、私達5人だけで彼を幻想郷から追い出すなんてことできるの?」 レ「……正直、あの人間には5人がかりでも勝てるとは思えないわね」 紫「心配ないわ、あなた達はほんの3分ばかり彼の目を引きつけてくれるだけでいいの」 理解できないといった風な顔を浮かべる4人に向かい、紫は続けた。 紫「彼を幻想郷から追い出すのではなく、幻想郷を彼から追い出せばいい」 翌晩、博麗神社で宴会の後のこと。 JOKERを含む八雲一家は既に帰宅し、橙はすぐに眠ってしまった。 俺「うー……結構飲んじまったな」 藍「あの鬼のペースに付き合うからだ。酒には大して強くないんだろう」 俺「反省してるよ。そういや、これから紫に呼ばれてるんだが、何か心当たりないか?」 藍「さぁ…………」 藍は首をかしげた。 紫がJOKERと共に出かける時は大抵結界の修復作業だが、こんな夜遅くにやることはまず無い。 それに藍にも話さずに出かけることも珍しいといえば珍しい。 しかし、紫のたくらみを知らない二人はさして気に留めなかった。 俺「まぁいいか。それじゃ、行ってくるよ」 藍「…………JOKER。終わったら私の部屋へ来てくれ。話したいことがある」 真剣な表情で、まっすぐJOKERを見つめる。 雰囲気を察したJOKERも自然と真剣な表情になった。 しばしの静寂が、二人の間を流れる。 俺「……ああ、分かった」 藍「……気をつけて、な」 JOKERが背を向け、紫の下へと歩き出す。 その様子が、藍には不思議とJOKERが遠いところに行ってしまうかのように感じられた。 俺「……これは、一体……?」 紫の隙間空間を伝い移動した場所は、JOKERの全く見知らぬ荒地。 そしてそこにいたのは、レミリア、永琳、神奈子、幽々子。 4人とも宴会の場にはいなかった顔ぶれである。 紫「ここは幻想郷の最果ての地。わざわざこんな所に呼んでごめんなさいね」 俺「それはいいんだが……二次会でもやる気なのか?」 紫「実はね、彼女達がちょっと本気であなたと戦いたいって言ってるの」 JOKERはしばらく考えた後、ああ、と納得した顔を見せた。 このレベルの面々が本気で戦うとなると、周囲に多大な被害が出ることは間違いない。 それで人気のない場所へ移った、ということは理解できた。 紫「それでね、ちょっと彼女達の相手をしてくれるかしら?」 俺「うーん…………」 正直なところ、JOKERは気が乗らなかった。 やや酔い疲れてもいるし、早く帰って藍と会いたかったというのもある。 しかし、ここで帰ったら紫も困るはずだし、幽々子にもかなり世話になっている。 悩んだあげく、申し出を受けることにした。 俺「まぁ、少しなら」 紫「助かるわ。それじゃ、後は頑張ってね」 そそくさと紫はその場を離れる。 JOKERは4人の方へ向き直り、4人も身を引き締める。 少しの間をおき、まずは幽々子がスペルカードを発動させた。 幽「蝶符『鳳蝶紋の死槍』!」 死を誘う蝶と共に、鋭いレーザーがJOKER目がけて飛んだ。 その一瞬だけで、幽々子達が完全に本気だということがJOKERには理解できた。 避けている間にも、他の3人の弾幕が襲い掛かる。 全てを避けることは不可能と判断したJOKERは、咄嗟に前方に結界を張る。 弾幕は結界に弾かれ、一部は消え、一部はあらぬ方向へ飛んでいった。 俺「そっちが本気で来るなら、恨みっこなしな」 JOKERはチャキッと音を立てて贄殿遮那を抜き、4人に向けて構えた。 そして、その意識は完全に4人の方へ向いていた。 そのため、少し離れた場所で幻想郷の境界を操作している紫には、気付くことはなかった。 俺「もう満足しただろ。そろそろ帰らせてくれないかな」 レミリア、永琳、神奈子、幽々子といった幻想郷でも最強クラスの者達が全力で戦ったのだ。 その影響は地形が変わるレベルまで達しており、辺り一帯はズタズタになっていた。 だが、それでもJOKERの体に傷一つ付けることはできなかった。 永「相変わらず、出鱈目な強さね……」 神「全く、何て奴だよ……」 4人には無傷とまではいかないまでも、大したダメージはない。 だがそれもJOKERが力を主に回避に注いでいるためだということも4人は感じていた。 本格的に攻撃し始めれば、長く持たないだろう。 俺「まだ続ける気か?こんな戦い不毛だって…………ん?」 JOKERは、ふと視界に入った紫に気付いた。 4人の更に後方、紫が何やら手を動かしている。 その姿に何となくJOKERは不穏な空気を感じ取った。 俺「…………紫。何やってんだ?」 JOKERが紫を睨みつけると、紫は悲しそうな表情をした。 それでJOKERは確信した。この戦いの裏で、何かを紫は企んでいると。 そしてそれが、自分には言えないようなことでもあると。 俺「おい、紫!」 紫「……もう、終わったわ」 JOKERが一瞬にして4人の脇を通り抜け、紫の下へと迫る。 だが、それは直前にして見えない壁に阻まれた。 その感触から、それは自分がかつて紫に伝授した結界であるとJOKERは気付いた。 俺「紫!何のつもりだ!」 紫「……ごめんなさい。あなたごとこの一帯を、幻想郷から切り離したわ」 いつの間にか、紫の側に幽々子達4人もいる。 皆、JOKERを哀れむような目で見つめていた。 紫「あなたは何も悪くない……でも、あなたの力は幻想郷を壊しかねない。   JOKER、あなたは、幻想郷に来てはならない存在だった」 俺「何だよそれは!意味が分からねぇよ!」 JOKERが贄殿遮那に魔力を込め、渾身の力で斬りつける。 この世のどんな物体であろうと、一刀両断できるほどの威力。 だが、それでもその結界には傷一つ付けることはできなかった。 紫「無駄よ。あなたでもこの結界は、壊すことはできない。あなた自身が言ったことよ」 JOKERもそれは頭では分かっていても、認めることはできなかった。 刀が駄目ならと、今度は魔砲を放つ。永遠亭で放った以上の威力の一撃。 だが、それも見えない壁の前に弾かれ、掻き消えた。 他にも様々な手法を試すも、この結界の外部からはどうすることもできなかった。 JOKERが、がくりと膝をつく。 紫「あなたはいい人だし、皆からも好かれている。本当は、心苦しいわ。   でも、やっぱり私はあなたの力が怖いの……私は、幻想郷を守る義務があるから」 俺「……ずっと、騙してたんだな……」 JOKERは四肢を地面につき俯きながら、搾り出すような声で言った。 段々と、紫達の姿もおぼろげになっていく。完全に、幻想郷と切り離されようとしているのだ。 俺「紫……俺は、お前のことを誰よりも信頼していたのに……」 紫「……許してもらおうとは、思わないわ。でも……ごめんなさい」 もうJOKERは全てを理解していた。 今までの紫の笑顔は作り物であり、ずっと自分がいなくなればいいと思っていたことを。 そして、この4人が紫の協力者であり、同様のことを考えていたということを。 そして、自分が教えた結界を使い、幻想郷から自分をはじき出そうとしていたことを。 そして……藍の所へ戻ることは、もう出来ないということを。 俺「紫……最後に一つだけ、教えてくれ」 もはや声と体の輪郭でしか確認できない紫に向け言った。 俺「この計画……他に協力者は、いるのか……」 紫「……いないわ。これは私達5人だけでやったことよ」 俺「…………そうか」 境界の白が濃くなっていく。 もうどちらからも、お互いの顔を見ることはできない。 JOKERが何やら呟いた。だが、その言葉も紫の耳にはとらえることができない。 白は濃さを増していき、体の輪郭すらも見えなくなっていき。 そして、ついには何も見えなくなった。 幽「……紫。本当にこれで良かったの?」 紫「……ええ、後悔はないわ」 帰りのためのスキマが次々と開かれていく。 それぞれ紅魔館、永遠亭、守矢神社、白玉楼、そして八雲家へと繋がっている。 永「正直気の毒とは思うけど、姫様のことを思えば仕方ないことよ」 それは誰に聞かせるわけでもなく、自分に言い聞かせるようであった。 永琳は一番に永遠亭へ繋がるスキマへと消えていった。 レ「……これであの人間の顔を見なくていいと思うと、せいせいするわね」 言葉とは裏腹に、どこか釈然としない表情を残しながら、レミリアも帰っていった。 神「私は信仰を取り戻す必要があるから、このことは明日にでも公表する。   諏訪子や早苗には激怒されるだろうけどね。あんたも構わないね?」 紫「……好きになさい」 神奈子も帰り、紫と幽々子が残された。 幽「ねぇ……彼、このまま終わるかしらね」 紫「……何を言うの。彼がこの結界を抜けられないのは分かっているでしょう」 幽「ええ、そうね。でも、彼のことを思い出してみて」 JOKERの噂は、紫も毎日のように耳にしていた。 紅魔館では悪魔の妹と仲良くなり、白玉楼では庭師の意表をつく戦いを披露した。 永遠亭ではその力で蓬莱人達を驚愕させ、妖怪の山では天狗達を相手に圧倒的な強さを見せ付けた。 幽「彼はいつだって私達の想像を遥か超えていた。きっといつか、帰ってくるわ」 紫「…………考えすぎよ」 幽「そうかもしれないわね。でも彼、最後に何か言っていたでしょう」 確かに何かを呟いたのは感じた。だが、その言葉は紫の耳には届いていない。 幽「私には聞こえなかったけど、こう言った気がするわ。『覚えてろ』って。   彼は必ず幻想郷に帰ってくる。その時は……覚悟しましょう、お互いに」 最後に少し微笑んで、幽々子はスキマへと消えていった。 一人になった紫は、じっと境界の方を見つめる。 幻想郷ごと切り取ったその場所は、もはやJOKERの痕跡もない。 過去を懐かしむように、紫は目を閉じた。 紫「さようなら。放課後のJOKER」 さっきから何度も、藍は時計を見ていた。 紫と共にJOKERが発ってから、何十分も経っている。 藍「…………遅いな…………」 自分の部屋で座りながら、藍は静かにJOKERを待ち続けた。 ずっと、来るはずのない人間を待ち続けた。 翌日、神奈子により公表されたJOKERの件は天狗の号外などにより、あっという間に幻想郷中に伝わり、あらゆる所で大騒ぎとなった。 最も被害を被ったのは紅魔館だった。 怒り狂ったフランドールが大暴れした上、魔理沙まで怒鳴り込んできたため紅魔館の一部が損傷するほどであった。 咲夜こそレミリアの味方にはついたものの、レミリアの行為そのものに対しては快く思っていないというのはレミリアにも感じ取れた。 永遠亭では輝夜が、白玉楼では妖夢が、それぞれ永琳と幽々子に怒涛の剣幕で詰め寄った。 二人とも何も言い返すことはできず、しばらくの間気まずい関係となる。 妖怪の山では、萃香や文、人間を盟友とする河童など一部の者を除いてはJOKERの評判は悪かったため、神奈子は信仰を取り戻した。 だが、勝手にJOKERを追放したことに諏訪子は激怒し、萃香も交えての大喧嘩となった。 しばらくの間騒ぎは収まらず、幽々子達は近しい者からの非難を浴び続けた。 だが、レミリアとフラン、永琳と輝夜、神奈子と諏訪子、幽々子と妖夢。 皆JOKERと出会うずっと前から、お互い寄り添って生きてきた二人である。 お互い、いなくなったら困る、誰よりも大切な存在。そして時が経てば、怒りも徐々に薄れる。 少しずつだが、関係は修復し始めていった。 その後も再び怒りが湧き上がることもあった。手が出ることもあった。 だが、段々と距離は元の状態へと縮まっていった。 そして、JOKERが幻想郷から姿を消してから一年が経つ頃。 多少のぎこちなさは残っているものの、ほとんど誰もが元の関係へと戻っていた。 ただ二人だけを除いては。 八雲家の食卓では、カチャカチャと食器の音だけが響いていた。 橙にとってはそれはもはやいつものことであり、最初の頃に感じていた居心地の悪さすらも、もはや無い。 かつては笑い声の絶えなかった場所も、一年前からこの有様である。 橙はあの日以来、藍の……そして紫の笑顔も見ていない。 紫「……ごちそうさま」 既に食事を終えていた藍が、無言で紫の食器を片付け始める。 紫と藍は、もう必要最小限の事務的な会話しか交わさない。 藍は自分のことがあるから、かろうじて八雲家に留まっている状態なのだと橙は分かっていた。 今や八雲家は崩壊直前、いや、とっくに崩壊しているのかもしれない。 幸せだった頃のことを想っても、もう橙は涙も出なかった。 紫は縁側で、一人夜空を眺めていた。 JOKERが幻想郷から姿を消してからのこの一年、幻想郷では大した事件は起こっていない。 ただ以前に比べて魔理沙や萃香は元気がなくなったように思えるし、輝夜と妹紅の戦いも減った。 文は最大の取材対象がいなくなってあちこち飛び回っているし、藍に関してはこの通りだ。 改めて、放課後のJOKERという男があの一月で与えた影響力がうかがえる。 今でも紫は自分のしたことを後悔していない。だが藍同様、紫もJOKERのことを忘れた日は一日たりとも無かった。 紫「JOKER……あなたは今、何をしているの……?」 外の世界ではまたその力で伝説を残しているのか、それとも戦いの業火に身を焼かれてしまったのか。 今となっては、紫に確かめる術はない。 その夜、一人の男が妖怪の山に降り立った。 とある世界で莫大な資金を投入し一年をかけて開発した英知の結晶、魔力制御装置。 体に刺すことでその人物の魔力を吸収し、また注入することが可能となる。 一般人レベルまで魔力を吸収させたその男は、今度は注入を開始する。 あっという間に圧倒的な魔力が、体に漲ってくる。 恐ろしく冷たい目をした男は、装置をその場に捨て。 全身から殺気を漂わせながら、紅魔館へと足を向けた。 第二部 完
同上

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