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タイトル:人のチカラ



前編 『先生』



 少し前から子供が行方不明となっていた。
 その数は5人。
 小さな問題ではすませられないレベルへと既にこの事件は昇華していた。

 ところで子供が行方不明なる可能性が一番高い時間帯はいつだろうか?

 朝?
 いや、これはあり得ない。
 朝は人通りが多いため人知れず子供が行方不明になるということはないだろう。
 行方不明になるとしても目撃者がいなければおかしい。

 昼は?
 これも同様にありえない。
 この時間子供たちは寺子屋に通っているのだから。
 慧音が教えているその隙に行方不明というのもおかしい

 なら夜は?。
 人通りも少なく子供たちを見張る大人もいない。
 何者かが子供を誘拐しようとしても子供を迎えに来た親と勘違いするようなこともあるのではないだろうか?
 つまり子供が行方不明になったのは寺小屋から家までへの帰り道。
 行方不明となるのはそこしかありえない。

◆◆◆

 暗闇の球が中空を漂い浮遊する。
 その黒き球は人里の入り口近くで用心するように一度停止したのち、周囲を確認して人里の中に入った。
 この時、目に見える位置には誰もいない。
 目に見える位置には。

「みましたか?先生」
「あぁ。 ……ルーミアの仕業か……」

 入り口近くの空家。
 そこにつゆくさと慧音が潜み、暗闇の動向を見守っていた。
 慧音は暗闇の存在を確認した時に息を飲み。
 人里の中に入った瞬間にはくちびるをギュッとかみしめていた。
 この時点で悟ったのだ。
 もう行方不明となった子供たちは帰ってこないと。 

「先生……」
「つゆくさ君。私は大丈夫だ。それよりもルーミアを」

 人間の里入口一帯の住民には避難するように稗田家を通じ指示が出してある。
 なぜここまで段取りがうまくいっているのか、それにはきちんと理由がある。
 始めに行方不明になった子供の家を訪問しつゆくさと慧音はなにか手掛かりを得ようとした。
 訪問したことにより新たな情報を得ることはできなかったがその訪問の過程で2人はある事実に気が付いたのだ。
 被害にあった子供の家が、人里の入口に集中しているということに。
 それどころかここ最近人里から消えていた人間、その全てがこの区域に集中しているということに。
 こうなればするべきことは決まる。
 つまり危険区域から人間を退去させそこで待ち伏せるということ。
 消極的な手法であるが立て続けに行方不明者が出ているという状況と
 ある一区画に被害が集中しているという状況が重なることでこれはこの上ない有効な手段となる。
 出現するポイントが決まっているならそのポイントを押さえてやればよいのだ。

「それでは、手はず通りにいきます」
「頼む」

 つゆくさと慧音は空き家から出ると違う方向に進んだ。

◆◆◆

「ねぇ、お母さん。慧音先生大丈夫かな?」

 息子が心配そうに声を発する。
 そこ周辺は危険区域だから夜までにそこから離れてくれ――稗田家からそう連絡があったのは昼だった。
 なんでここが危険区域なのか、そう問う私に稗田家の者は答えた。

「ここ最近の失踪事件、全てがこの区域でおこっています。ですがご安心ください。慧音先生が解決してくれます」

 稗田家の者はまた別の家にその連絡を伝えるらしい。
 それだけしか言わなかったがそれだけで私にはどういうことか理解できた。
 それからすぐに私は大したものはないが貴重品などを集め息子とともに臨時に設営された避難所へと向かう。
 妖怪と激しい戦闘になった場合、私たち力無き一般人は慧音先生の足手まといになりかねない。
 確かに力が強い妖怪がいたら私たち、普通の人間ははなすすべもないだろう。
 妖怪は人間というちっぽけな存在にとって、あまりにも強大すぎる。
 霧雨家の家出娘や巫女などの一部の例外を除いて私たちは妖怪にかられるしかない。
 私たちはあまりにもちっぽけなのだ。

「ねぇ、お母さん?大丈夫だよね?」

 息子が再び声を発した。
 私はそれに対してすぐに答えることはできない。
 慧音先生は半人半獣の身で、とても親切で礼儀正しくて私よりも賢く、人の身にはない力を持っている。
 だが慧音先生もやっぱり人間の部分を持つ。
 でも、それでも普通の人間よりも強い力持っていたとしてもそこ止まりなのだ。
 人間の部分を持つとはそういうこと。
 だけど、信じよう。
 慧音先生ならいなくなった子供たちを助けてくれると。
 私たちを守ってくれると。
 だからせめて、届かないけど応援の言葉をここに。

「大丈夫ですよ、慧音先生は負けたりしません」

◆◆◆

 何度か人里に害をなす妖怪を退治したことはある。
 苦戦も何度もした。
 永夜異変の時のようにあっさりと見破られたりボコされたりもした。
 それでも私は人間が好きだし人間の味方になりたいと思っている。
 だから私は今回もいつものように里に害をなす妖怪を退治する。
 ルーミアが相手ということはもう十中八九手遅れだろう。
 ある意味ではもっともポピュラーな部類の人喰いなのだから。
 暗闇が私の目の前に現れた時に既に覚悟はできていた。
 だがこうして実際に戦闘になるとその行方不明になった子供の顔が出てきて泣きそうになる。
 人は喰われるもの、妖怪は喰らうもの。
 これは幻想郷の法則。これは幻想郷が存在する限り覆らぬであろう絶対のもの。
 風見幽香や八雲紫のような長年を生きた妖怪であればある程度人と共存できるだろう。
 だが根本的な意味では絶対に共存できないのだから。
 妖怪と人は喰う、喰われるの関係。
 妖怪と人は退治される、退治するの関係だから。

 だから私は今回の異辺に人通りの終止符を打つためルーミアを退治す――。















 暗闇がかき消えたかと思うとそこからルーミ――いや、1人の男が現れる。
 その男は暗闇がかき消えたのと同じように姿を一瞬にして消した。

「ガッ……」

 私がまだ状況を把握しきれていない間にうめき声――つゆくさの物。
 やや離れた位置から私が渡した妖怪退治の装備を投げようとしていたところを男に殴りつけられたらしい。
 気絶してしまったのかつゆくさが力なく崩れる。
 男は崩れるつゆくさから私へと視線を移す。
 笑みを浮かべながら。

「ルーミアでは……ない……?」

 私が動揺している間に殴りつけたところで姿を現していた男は、また先ほどと同じように姿を消す。
 私とつゆくさの作戦は失敗。
 私が気を引いている内につゆくさにあらかじめ渡しておいた妖怪退治用の装備による奇襲――
 この作戦はもはや実行不可能となった。
 ならばつゆくさの安全のためにも早期で決着をつけなければならない

「ククク……キキキキキ……」

 不可解な笑い声のような音とともに男が再び姿を現し私に攻撃を仕掛ける。
 私はそれをぎりぎりで男の腕をとり防御することに成功。
 腕を捻りあげ逃がさないように固定。
 これで普通の人間であれば逃げ出すことはあり得ない。
 しかしコイツはどう考えても普通の人間とは違う。

「お前は何者だ?」
「キキキキキキ……」

 男――よく見ると下半身の衣服をまとっていないのが気にかかるがそれは些細な問題だ。
 私が腕を抑え込み、尋問を始めようとすると人にはありえない動き――関節を逆方向に曲げるような動きで私の呪縛から逃れる。
 素の力が男と女だから――そういうものではないもっと複雑な動き。
 そんな動きで男は私に連続で拳打を連続で打ちこむ。
 最初は防御することに成功するが5,6打目となると防御が追い付かない。
 それはそこら辺にいるような妖怪のレベルではなく――

「キキキキキキ……」

 男の姿が変わる。
 変わった姿は今度こそルーミアのもの。

 だが私はすでに理解している。この男はルーミアではない――
 もっとルーミアなんかとは比べ物にはならない闇を背負った異質の――

 そうこう考えている内に通常のルーミアが発する闇と同じようなが一瞬で場を支配する。
 私の視界から完全に光が消え、黒の世界となる。
 黒の世界ではただかられるしかない。

 早く離脱しなければ……

 だがそんな思考よりも早く暗闇が一瞬で解除され――


 ――鈍い、音


 私の前に立つのは紅魔の門番の姿をしたナニカ。
 そのナニカから突きだされた右腕は私の胸をとらえていた。

「ガっ……ぐっ……」

 とてもではないが耐えきれるものではない。

 息苦しい圧迫感。呼吸ができない――

 それと同時に不快感が胃から昇ってくるがそれを気合いで押さえつける。

 つゆくさ君が倒れている今ここで私が倒れれば二人まとめてこの妖怪に喰われることとなるからだ。
 それにつゆくさ君がいなかったとしてもここで倒れるわけにはいかない――絶対に。

 完全に私の失策――そのせいでつゆくさ君は倒れ、人里に危険をもたらしている。

 つゆくさ君が援護射撃をして私が一気に蹴りをつければ被害は最小限で済むなどと考えたこと自体が間違い――
 妖怪相手に被害を最小限で抑えるなんて言う考えが間違っていたのだ―― 

「……キキキキキ……」

 ナニカは再び姿を男のものに変えると一瞬で姿を消した。

「つゆくさ君――」

 いま狙うならば倒れているつゆくさ君、それしかありえない。
 原理はよく分からないが姿を消す能力を持っているような存在――これは――

 刹那、また男の姿が現れる。
 完全に姿を消せるというわけではないようで数秒ごとに一瞬ではあるが姿が見える。

 その姿は現れるごとにつゆくさ君のもとに近づいてゆき――

◆◆◆

『倭符「邪馬台の国」』

 目が覚めた俺の前に見えたのは先生から放たれる無数の弾幕とレーザー光線だった。
 その弾幕は周囲の家なども巻き込み、粉砕しながら俺の元へ飛ぶ
 間違いなくこのままでは俺にあたる。先生――なにを――

「グ……キキキ……」 

 俺にその弾幕もレーザーも俺に命中することはなかった。
 俺と先生の射線上に下半身裸の男が現れたのだ。
 男は弾幕にグレイズしつつ俺から距離をとった。
 現在の状況は俺、先生、男で正三角形を描いている状態。
 男は明らかに俺に敵意を向けている。恐らくいま先生の弾幕がなければ間違いなく俺へと攻撃を仕掛けていただろう。
 武器などは見た限りでは持っていないようだが、武器なんてなくても頭を殴られたりすればそれだけで致命傷となる可能性もある。
 それに俺はつい先ほどまで気絶しており寝ていた。
 あんな状況であれば思いっきり頭を蹴り抜かれるだけで脳にダメージを受けていた可能性すらある。

「すまない、つゆくさ君。相手を甘く見過ぎていたようだ。
 弾幕も人里を破壊してしまうしあまり使いたくはなかったのだがそんなことを言っている余裕はないようだ」

 先生はそう良いながら俺のもとへ駆け寄る。
 先生の姿は夜目からはいつも通りに見えたが、近づくにつれて少しづつその異常が分かった。
 体中は傷だらけで服にはいくつも殴られた跡がある。
 先ほどまではこんな痕はなかったのだから俺が気絶している間にあの男からやられたのだろう。

「先生、大丈夫なんですか!?」
「あぁ、問題ない。私も半獣だ。普通の人間よりは丈夫さに自信がある
 そよりもつゆくさ君、君はこの場から離れてくれ」
「……え?」
「相手を甘く見過ぎていた、私がこの周囲を巻き込むような大規模な攻撃をしたとしてもこいつを倒せるかどうか分からない
 つゆくさ君と協力して里の被害を最小限で押させるというのは無理なようだ」

 先生の言葉に俺は間抜けな返事を返すしかなかった。
 その返事に対して先生は覚悟を決めた目で簡潔に事実を告げた。
 先ほどの先生のスペカは周囲の家家を破壊するほどの火力があった。
 その一撃は俺に当たれば間違いなく俺を死に追いやっていただろう。
 それだけの弾幕を喰らっていてあの男はまだ動いていて――


 ――男?


 その場にいたのは女だった。
 十六夜咲夜、その人。
 俺が硬直している間にその十六夜咲夜の姿をした存在はナイフを投げ――

「あぶないっ!!」

 ナイフは先生の腕に突き刺さった。

「せ……先生?」
「逃げるんだ、つゆくさ君。こいつは私が何とかする」

 先生は笑っていた。
 おそらく俺を励ますために。
 だが俺はその笑みを見て恐怖を抱いた。

 ナイフが腕に突き刺さっても先生は笑みを浮かべていた。

 ナイフが刺さったのは俺のせいだ。

 俺が先生の言うとおり逃げていれば。


 俺はその場から何の言葉も残さず走り去った。


◆◆◆

「これで思う存分撃ち合える」
「キキキ……」

 慧音は走り去るつゆくさを見送ると笑みを消し、十六夜咲夜の姿をしたナニカを睨み据える。
 ナニカ――いや、バグはその睨みを受けても怯むことなくナイフを構えた。

『光符「アマテラス」』
『奇術「エターナルミーク」』

 ナイフが家々に突き刺さり光線が壁に穴を穿つ。
 直線的な軌道を描くナイフを慧音はサイドステップでバグの周りを円を描くようにかわして行く。
 慧音を中心として放たれる光線はバグに連続して一発で人を殺すほどの力をもち直撃するが
 バグがダメージを受けたような気配はない。
 十六夜咲夜の姿を維持したままナイフを放ち続けるだけ。

 やがて慧音は壁に追い詰められるが壁を弾幕により粉砕して家の中に転がりこむ。
 アマテラスの発動はそこで中断、慧音は一方的な防戦に出ることとなる。
 ナイフが壁をえぐりやがて室内へ侵入する。
 だが慧音はその時既に家から離脱している。
 人里は所謂慧音のホーム、
 里の抜け道は慧音とて熟知している
 バグがいまだ誰もいない家に攻撃を仕掛けているのを確認すると
 最短経路を使ってバグの後ろに回り込む。

「くらえっ……」

 奇襲同然の弾幕。
 それはバグに直撃するがその弾幕がダメージを与えたようには見えない。
 万全の状態であればダメージは十分に通ったであろう、しかし慧音はこれまでの戦いで消耗し過ぎていた。

「キキキキ……」
「ほぼノ―ダメージか……」

 慧音の額に汗が浮かぶ。
 慧音は先ほどから何度も拳打を受け、さらにはつゆくさをかばった際にナイフを腕に受けてる。
 だが一方相手はどうだろうか?
 何度もアマテラスによる光線が直撃したのにもかかわらずほぼノーダメージ。
 出血による消耗とアマテラスによる消耗。
 このままスペルカードた弾幕の撃ち合いを続けた時に先に力尽きるのは明らかに慧音の方である。

 上位妖怪級の耐久力に姿に応じて能力を使うその対応範囲の幅広さ。
 それは純粋な力、驚異となて慧音を圧迫する。

「勝負をかけるしかないか……」
「キキ?」

 慧音はエターナルミークを未だ放ち続けるバグの元へ接近を試みる。
 バグもそれをみると同様にスペルカードの発動を解除し別の姿への変身を開始する。



 変身と接近――早いのは――



 速いのは、バグの変身。
 消耗した状態の慧音では変身が終わる前に接近を終えることができない。
 バグが変身した後の姿は紅美鈴。
 バグは紅美鈴の姿でナニカは接近する慧音にカウンターを仕掛けるべく攻撃の態勢を整える。
 慧音はそれを確認しながらも突っ込む――



 拳打が――慧音へと近づく



 近づく



 近づく



 触れる寸前へと



 そして――――――



 触れる!!




『国体「三種の神器 郷」』


 慧音の決死の喰らいボムによる零距離攻撃
 その一撃は確実にバグを取らえる――
 刹那の攻撃は初めてバグの動きを変える。
 バグの動きに初めてにじみ出る感情は――”恐怖”

「いっけえええええええええええええええええええ!!!」
「キ――――――」



 そして、静寂――



 ――否。



「キキキキキ……」
「これでも……足りないのか……」

 慧音は呆然と呟く。
 流石にこの一撃はダメージを与えることには成功した。
 だが、それどまり。あくまでダメージを与えただけにしか過ぎない。
 バグに決死の攻撃を仕掛けダメージを与えた。
 これだけである。

 バグは多少ダメージを受けたとはいえ健在。
 慧音は今の攻撃で霊力を使いきる寸前という状態。
 どちらが優勢かは火を見るより明らかである。

「足りないのならば……さらに打ち込むまで……」

 決死の攻撃すらも届かなくても慧音は引かない。
 それが教師であるが所以なのか。人間を愛するが所以なのか


 それとも――



 ―――第二ラウンド、開幕。 




中編  『生徒』




 俺は逃げた。
 先生が戦っているというのに逃げ出した。
 先生について行くなんて俺が言いだしたのに。
 先生は笑いながら俺に逃げるように言った。
 俺は笑う先生が怖かった。
 励ますために笑ってくれたのに。
 それに俺はなにも返せなかった。
 何も返さず、逃げただけ。

 確かに本格的な戦闘になれば俺は逃げるしかなかっただろう。

 ――逃げ回っていれば、死にませんよ

 朝の俺の言葉。
 たしかに逃げ回っていれば死なない。

 ……なら逃げなければ?
 逃げなかった先生は?
 傷を追って、それでも逃げない先生は?
 明らかに不利な状況でも逃げようとしない先生はどうなる?

 ――死。

 いや、先生は死なない。
 そうだ、死ぬはずがない。
 人よりも強い力を持って何とかして見せると言った先生が死ぬはずがないじゃないか。

 ――ホ ン ト ウ ニ ?

 いや……そんなことは、誰にも分からない。
 人より強い力を持っていても最強なんてありえないし、絶対なんてありえない。

 なら先生は―― 先生は――

◆◆◆

「キキキキッ」
「大妖怪クラスではないか――これだけの力を持っていながら名前が知られぬ妖怪とは――」

 幾度となくバグの攻撃が慧音をとらえる。
 現在のバグの姿は紅美鈴、接近戦に特化した能力。
 バグの一撃は既に体力を消耗した慧音を軽々とふっ飛ばし壁に叩きつける。
 慧音も全力で攻撃を仕掛けているのだがもともとバグのほうが優勢だったのに加え大規模スペルカードの連続使用による霊力の消費によりその差はさらに広がっている。
 バグはまた姿を男――きーごの物とすると慧音の元へ姿を消しながら接近する

(だが、ここまで攻撃受けて色々と分かったことがある)

「キキキキキキ」

 緩慢な動作で立ちあがった慧音を再びバグの攻撃が打つ。
 きーご本人の身体能力はあくまで一般人レベルなのもで、美鈴の姿での一撃には遠く及ばない。
 だが戦闘を開始し相当な時間がたち、慧音はなんども攻撃を受けている。
 この状況では一般人レベルの拳でも十分すぎるほどの威力を持っていた。
 慧音はその一撃で膝をつく。

(一つ、この妖怪は姿を変える。そしてその変えた姿に対応する能力を使う。
 その能力や身体能力は変えた姿に依存する)

 バグには先ほどの喰らいボム以外では有効な打撃を一回も与えられていない。
 だが先ほどの一撃が有効なダメージを与えたことは確かな事実。
 慧音は拳を受けながらも先ほどダメージを与えた個所を狙い弾幕を放つ。

(二つ、その姿を維持するのは長くて5分程度。ある一定の周期でその姿を変える)

 弾幕は空を裂く。
 バグは弾幕を回避しながら姿を再び変える。
 今度の姿は半人半霊の庭師のもの。

(これくらいか――ほかにも何か法則があれば――)

 庭師の姿をしているだけでバグには半霊も剣もないのは幸運なのか
 バグは慧音のもとへ再び通常のインファイトを仕掛ける。
 既に満身創痍の状態である慧音もそれに対応しようとはする物のその動作は緩慢である。
 立ちつくしているのとほとんど同じ状態でバグの攻撃を受けることとなる。

「が……ぐ……はっ……」

 疲労に息を切らし倒れようとする体を慧音は根性だけ、気合いだけで持ちこたえる。
 既にいつ気絶してもおかしくないほどのダメージを受けているのだ。
 既に何度も立ち上がっているのが不自然なほどである。

「キキッ……ソレデ オワリ……?」
「しゃべ……れるのか……」

 バグが初めて言葉を発する。
 片言で単語を発しただけなようなとぎれとぎれの言葉だ。
 だがその言葉には余裕が明らかに感じられた。
 慧音の心にあるものは絶望。
 バグが言葉を発しなかったが故に絶対的な余裕を感じられなかった。
 しかしバグがはっきりを言葉を発したがためにバグにはまだまだ余裕があるということが慧音には分かってしまった。

 だが。慧音はそれでも諦めない。
 いや、諦めることができない。

「まだ……まだぁ!!」

 体中に重くのしかかる疲労を無視して――無視できるものではとてもないが。
 バグから距離を取るために弾幕を張る。
 既に数度繰り返した光景。そしてそのたびに慧音は弾幕を突破され攻撃を受けている。
 なんども繰り返した以上この戦法が通用しないことは慧音にも十分すぎるほど分かっている。
 だからこの弾幕はあくまでも次の攻撃への布石。

(今っ……)

 弾幕がバグを包み込むのを確認すると力を振り絞りバグの元へと肉薄する。
 弾幕はあくまで目隠し。本命はさきほどダメージを与えたのと同じ零距離でのスペカぶっぱ。
 弾幕がバグに着弾する中、慧音もバグへと近づく。


 ――当てるっ


 その決意も一瞬。
 弾幕が消えた刹那に現れたバグの拳が慧音の腹部にヒットする。
 バグも学習はする、さきほどダメージを与えられたのと同じ零距離攻撃をそう簡単に許すはずがない。

「キキキ……アキタ……クウ……」

 地に伏す慧音にそう告げるとバグは慧音に止めを刺すべく動く。
 姿を星熊勇儀のものへと変えると構えを取る。


 構え――三歩必殺。


 よろよろと立ちあがる慧音はその構えに気が付き防御の体制を取ろうとするがその動作は緩慢で
 とても防御をしようとしているようにしか見えない。

 それでも慧音は戦い続ける。
 純粋な力比べでも勝てない。
 弾幕の打ち合いでも勝てない。
 しかしそれでも、諦めるということだけはしない。
 既に霊力が無くスペカを放てないとしてもそれでも諦めない。


「まだ……まだ……」


 既に焦点はあっておらず本当に気合いだけで立っている状況。
 そんな慧音の元にバグの攻撃が―――



「くらええええええええええええええええええええ!」


 命中するほんの少し前、素人でも妖怪に対抗できるように。
 訓練されたものなら妖怪が退治できるように。
 そのために作られた武器がバグに命中した。
 だが命中してもその効果は勢いを弱めるだけでにとどまり、バグの攻撃も慧音に命中する。



 ――何で戻ってきた……馬鹿者め……



 ――私は逃げろと言ったはずだ……


 ――外来人の君には、危険すぎる



 ――つゆくさ君



 そこで慧音の意識は途切れた。


◆◆◆


 それはゲームのような光景。

 満身創痍の英雄が魔王に止めを刺される瞬間。

 その瞬間を止めるために仲間が必至に魔王に攻撃するような――


 本当にゲームのような光景。
 周囲の家々はぼろぼろで完全に崩壊しているものさえある。
 地面も焦げ付き、木々は燃えているものある。
 人の身にはありえぬ力を持つ者同士の全力の戦いの結果である。

「キキキッ……」
「く……くそう……」

 つゆくさの一撃が有効打を与えたのは最初の奇襲である一度だけ。
 それ以降の呪符、お札による攻撃はバグに一切のダメージを与えられていない。
 姿をきーごのものとしたバグはいたぶるようにして攻撃をつゆくさに与える。
 既にバグの関心は慧音からつゆくさへと移っていた。

(この程度先生が受けていた痛みに比べれば――先生、大丈夫なんですか――)

 今現在慧音は生きている。
 良く見れば胸が上下しているのもわかるし近づけば呼吸をしているということも確認ができるだろう。

 だが、それは生きているというだけ。
 大丈夫かと聞かれれば絶対にNO。
 美鈴に力による攻撃
 軽減されたとは言え星熊勇儀の力による必殺の技を受けたのだ。
 ダメージが骨を折り、内臓にまで達しているのは明らかだった。

「い……っ……」

 バグの攻撃がつゆくさをとらえ続ける。
 荒事には慣れていないつゆくさがこの攻撃をさばけるはずもなく全てがモロに入る

 さらにバグは態勢を立て直そうとするつゆくさを尻目に姿を消し、背後に現れ蹴りを放つ。

 当然その蹴りをつゆくさは回避することもままならず慧音の近くへふっ飛ばされる。
 漫画の主人公ならばここから一気に立ち上がるということができるのだろうがつゆくさはあくまで一般人。
 とてもではないがそういうことができる技量も力も持ってはいなかった。

(このままじゃ俺も先生も死――)

 慧音の元へとふっとばされたつゆくさは生存の確認には成功する。
 しかし今生きているというだけでいつ死んでもおかしくない状況である。

「キキッ……ソロソロ オワリ」
「まだ……先生はもっと痛かったんだ……俺は……」

 亡霊嬢へと姿を変えるバグを見ながらつゆくさは妖怪退治用の最後の装備を取り出す。
 その装備は本来一般人の使用が禁止されているもの。
 つゆくさも慧音からこれだけは中途半端な覚悟で使わないようにと念を押されている。
 本当に危ない時。 
 その時だけに使える武器。
 バグのもとから無数の弾幕が飛来する、それに対して対抗するのは――
 つゆくさの持つミニ八卦炉(偽)
 しかしこれはマリサが持つやたら危険なミニ八卦炉ではない。
 本来製薬に使うはずの八卦炉を武器としてあつかうという点は似ているが。

 当然これはミニ八卦炉を模しただけの道具ではない。勿論使用用途がある。
 これは霊力を扱えぬ人間が霊力を擬似的に扱うための道具
 使用者の体力や精神力を媒体とし偽八卦炉から魔砲が打ち放たれる――
 一般人が魔法を使えるものに対抗するための道具。

 説明だけ聴くとかなり使い勝手の良い道具に思える。
 だが当然そんなうまい話があるはずがない。
 本来扱えぬ力を扱うのだ。
 制御がきくだろうか?
 当然効かない。
 使っている間ずっと凄まじい勢いで使用者の体力を消耗させるのだ
 使い続ければ命を脅かすほどに。
 一般人に使うことのできる正真正銘のラストウェポン――

『華霊「ゴーストバタフライ」』
「まけるものかああああああああああああああ」

 つゆくさの持つ偽八卦炉から放たれるのはマスタースパークには及ばないと言えかなりの太さの光線。
 バグから放たれるのは無数の弾幕。
 形だけみればつゆくさの光線が一気に押し切りそうではあるが実際に押しているのはバグの弾幕の方――
 凄まじい圧力につゆくさの顔が焦燥に歪む。

「……キキキキ」
「く……くそぅ……」

 そんな道具を使ってもバグには届かないのだ。
 当然である、本来弾幕を扱うことに長けている慧音がバグに届かなかったのだ。
 道具の力を借りて霊力を擬似的に扱っているだけにすぎないつゆくさがバグに届くはずはない。
 偽八卦炉から打ち出される光線はバグから打ち出された弾幕と激しくぶつかり合い続けている。
 最初こそ釣り合いを保ったが次の瞬間からは押され始めている。
 つゆくさが急速に体力を消耗しているのだ。
 光線と弾幕の釣り合いがどんどんとつゆくさの方へと寄る。
 それを押し返すためにはさらなる火力が必要となるのだがその火力が盛り返すことはあり得ないのだ。
 つゆくさの視界が光で焼ける。
 バグから放たれた弾幕はつゆくさと慧音の数メートル前まで迫っていた。

 すでにこれは戦いではなく一方的な蹂躙に変わっている。
 それほどまでの、絶望的な戦力差が2人の間にはあるのだ。

「キキキッ オワリ」
「まける……ものか……」

 自分を叱咤するようにつゆくさは呟くがそれだけで大規模な弾幕を返せるはずがない。
 光線はどんどんと細くなり弾幕がつゆくさの元へと近づく。
 未だに全力全開で光線を放ち続けるがその視界が光で完全に染まる。 

「まだ……まだぁっ!!」

 光線が一時的に力を盛り返し弾幕を僅かに押し返す。
 窮鼠猫を噛む、そういうことなのかつゆくさが魅せる刹那の輝き。

 つゆくさの背後には慧音がいる。
 いまつゆくさがここで諦めるということはつゆくさもろとも慧音も死ぬということ。
 だからつゆくさは諦めない。


 しかしつゆくさの体力は限界に達していた。

 一時は盛り返した光線も既にその勢いを失い再び押され始めている。

 この光景を見れば誰もが助けたいと思うだろう。

 だがそれを助ける力を持つものもいなければ
 助けられるものもいない。

 ヒーローはいない。



 ――否。



『不死「火の鳥 -鳳翼天翔-」』
『妬符「グリーンアイドモンスター」』


 現れるのヒーローは”友”
 そして橋姫。
 居酒屋の店主。

 慧音とつゆくさを助けるために放たれた2つのスペルカードは
 完全に死角から2人に止めを刺そうとしていたバグを吹き飛ばした。