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**一章
    ;<背景:黒,独白モード>
    ;<BGM:01店内>

――誰もいらない
たいていのコトは一人でできたし、誰にも頼らずに生きてきた
他人の助けなんて…同情なんていらない

『さみしいですか?』

どんなに分かりあおうとしても
わかりあえたと思えても
他人は所詮、他人…そう思ってる

『かなしいですか?』

だから、ずっとひとりだったし…
これからも、ひとりでいい
寂しさなんて

『ひとりは…』

寂しさなんて感じない 



『ひとりは、さみしいですよね』;<画面中央に配置>



A Fairy Tale in the Small Bar;<画面中央に配置>
序章『―Prelude―』;<画面中央に配置>


    ;<背景:黒><ウィンドウモード>

この世はわりと不思議なことであふれているらしい。

しばしば目撃される幽霊やオバQなど怪奇現象のたぐい。
ときどき届く『ひさしぶりーミキだよー』と件名のついた見知らぬ人からのメール。
働いても働いても貯まらないお金。

そして、目の前のテーブルクロスに広がる…茶色いシミ。
まるでミステリーサークルのように幾何学的な模様を描いている。

…ま、こういうことは超常現象じゃなくて、あっさりした答えや理由があるもんで…
例えば、怪奇現象は枯れ尾花だったり寝ぼけたオジサンの見間違えだったり、
メールは出会い系や広告だったりする。
……お金に関してはあまり考えたくないので考えないようにしよう。うん。

というわけで、このシミもきっとUFOが作ったものとかじゃないはずで…

かすかに香るしょうゆのニオイ。

…俺じゃない。今日、しょうゆ使ってないし。
たぶん目玉焼きにしょうゆをかけて食べるひとが犯人だろうなぁ…
あの人か…。

こぼした時に拭けよな…ったく………とは言えない自分が悲しい。

ま、掃除嫌いじゃないし………楽しいからいいか。

    ;<背景:店内>

さて、と…開店準備は、ほとんど終わってるし…
あとは、このシミを何とかして、着替えて
それから…えっと、そう看板を………

とりあえず、このシミを…なんか洗剤とか薬品とか…

えと…シミ・ソバカスには…メンソレータ

ガスっ
    ;<画面振動?>

【主人公】
「ぐはっ!?」

背後からの衝撃!!

――刺された!?
背中、肝臓のあたりに先鋭なモノの感触があった…
…急所じゃないか。背中からとはいえそんなところを刺されているとしたら
………死んでしまうんじゃっ…

突然の出来事に混乱する思考!!
…そこまで混乱してないな、俺。うん。

くそっ…せめて最期に犯人の顔だけでも………

ふりかえるとそこには

    ;<立ち絵:オーナー;店服;怒>

凶器と思しきモノ(ハイヒール付き脚)を折りたたむ犯人の姿が!?
あぁ…うん。あなただと思いましたよ。
…ヒールは痛いんです。ほんとうに。

【主人公】
「っ…つぅ………なにか?」
【オーナー】
「この私が呼んでるにもかかわらず、無視しまくった罰よっ!」
【主人公】
「は?」
【オーナー】
「何回呼んだと思ってるの?
…おそらく3あるいは4回は呼んだわっ!
私は無視されるの嫌いって言ってるでしょっ!!呼んだらすぐ返事しなさいっ!!」
【主人公】
「(………返事してもらえないからって…寂しがり屋さんか、あんたは)」
【オーナー】
「…あ?なに?言いたいことがあるならハッキリ言いなさいっ!」
【主人公】
「…いいえっ、その…仕事に集中しててですね」
【オーナー】
「それと何の関係があるのよっ!仕事は仕事でしょうが!!」


…このジャ○アンのような(発言をしている)女性。
この居酒屋『早月』(さつき)のオーナー&店長&厨房全般をやってる…俺の雇い主。

あ、ちなみに俺はウェイター&その他雑用をやってます。………って、誰に語ってるんだ?

【主人公】
「………あの、蹴り入れられるほどのミスですか?」
【オーナー】
「もっちろんっ!むしろ、か弱い私の蹴りで済むなんて、軽い方よっ!!」

…かよわい?誰が?どこの誰が?
厨房の壁の一角がヒールの跡でボコボコにされているのを俺は知ってる。

お願いします…みなさん、酔ってもこの人にセクハラしないでください…。
セクハラされるたびに、壁の補修をしなきゃならない俺の仕事を増やさないでください…。

【オーナー】
「だいたいねぇ、普段から言ってるでしょっ?
背中に目つけるくらいの気持ちで仕事に望みなさいって」
【主人公】
「そりゃ、ウェイターのときでしょう…」
【オーナー】
「今だって仕事中でしょ?注意力が足んないのよ!」
【主人公】
「…注意力って、あんたな」

    ;<立ち絵:オーナー;店服;笑い>

【オーナー】
「…ふふっ……あらぁ…反省がないのかしら?しかたないわねぇ…」

サディスティックな笑みを浮かべながら、回し蹴り(必殺ワザ)の姿勢に入るオーナー。
…ヤバイ…これは…殺られるっ……

    ;<暗転>

【主人公】
「スイマセン見てませんでしたごめんなさい
これからこんなことが無いように精一杯努力します」

謝罪しつつ頭を下げる。平伏。降伏。降参。
これまでの経験上、とりあえず謝っておけ…というのが最良の対応である。
この人と争いになって、得をすることはなく…それはもう、いろんな意味で。

    ;<立ち絵:オーナー;店服;普通>

【オーナー】
「…よろしい。“とりあえず謝っとけばいいじゃん”みたいな感じだけど
まぁ、いいわ。時間無いし」

    ;<立ち絵戻す>

…見透かされている。あっさりと。

【オーナー】
「でね、ちょっと買出しに行って来て欲しいんだ~。開店まで時間あるし」
【主人公】
「…なんですか、そのネコかぶっちゃいました~みたいな声」

    ;<立ち絵:オーナー;店服;不機嫌>

【オーナー】
「あ?なんか言ったか?」
【主人公】
「…か、開店準備がまだ」

    ;<立ち絵:オーナー;店服;普通>

【オーナー】
「でも料理ができなかったら、準備しても仕方ないわよねぇ?
だってタマゴが無いのよー?
それなのに今日のおススメはプレーンオムレツなのよっ!?」
【主人公】
「(…この無計画女)」
【オーナー】
「従業員、なにか言ったかな?」
【主人公】
「…今日のおススメを変更とか?」
【オーナー】
「やよ。だって、今日オムレツの気分だし」
【主人公】
「………」
【オーナー】
「なにか問題でも?」
【主人公】
「いえ、何も。ぜんぜん。全く。…30分ほどで戻ります」

    ;<立ち絵:オーナー;店服;笑い>

【オーナー】
「お願いねー」

    ;<暗転>
    ;<BGM:fadeout>

………

    ;<独白モード>
    ;<背景:商店街みたいな?MEIKOが近づいてくる効果を入れてもおもしろいかも>
    ;<BGM:04おそと>

スーパーで卵を購入。
いやぁ…今日がお一人様2パックな日ではなくてよかったよかった。

オーナーの突発的なワガママにつき合わされるのに慣れてきている昨今。
…自分でもどうかと思うけど。ま、楽しいしな。………楽しいのか、俺。

にしても…あの店の経営はどうなっているのか。
無計画、無秩序に、そして費用対効果おかまいなく
生産されていく料理、料理、料理。

雰囲気は洋風のこじんまりしたバー。
でも出される料理は居酒屋か定食屋風。
そして、ワインやカクテルとともに日本酒、焼酎が消費されていく。

ちぐはぐな店だ。
そんなに客の入る店じゃない。はっきりいって狭い。
しかも来る客はほとんど固定メンバー…。
酒も珍しいものがあるわけでなく料理も普通。しかも料金は割安。

ううむ…いったいどこから金が降ってきているのか…。
ま、毎月給料が払われてるし…どうでもいいか。

って、そろそろ、時間がやばいかな…ていうか今何時か

    ;<画面振動?>
    ;<ウィンドウモード>
    ;<立ち絵、MEIKO;私服;慌てる>

――な!?

【??】
「…!」
【主人公】
「わっ!」

    ;<暗転>

…歩きながら考え事なんてするもんじゃないな。うん。
思いっきり人にぶつかってしまった。…女の子か?
とりあえず謝らんと…

【主人公】
「…すいません」
【??】
「………」
【主人公】
「大丈夫ですか?」
【??】
「………」
【主人公】
「ケガとか」
【??】
「………」

言葉がない…。悲しくなるくらいの無言。
人にぶつかっといて挨拶もなしですか…これだから今どきの若者は…。
いや、俺もかなり若者だけど。ていうか、ぶつかったの俺だけど。
…とりあえず、立ち上がる。

    ;<背景戻す>
    ;<立ち絵:MEIKO;私服;普通>

【主人公】
「えっとな」
【??】
「…(ぺこっ)」

    ;<MEIKO去る>

感じ悪い。終始、無言で走り去っていった。ちょっと不快感。
…コミュニケーション能力って、やっぱり大事だよな。
俺がいうのもなんだけど。

………もしかして不審者と思われたとか?通報?自白?冤罪?
ま、まさかねぇ?

…あ、やば、開店時間過ぎてるし。
やっぱり考え事しながら歩くのはよくないな。うん。


    ;<暗転>
    ;<BGM:fadeout>

………

    ;<背景:店の中>
    ;<立ち絵:オーナー;店服;不機嫌>
    ;<BGM:01店内>

【オーナー】
「遅い!おそいっ!おっそぉーいっ!!」
【主人公】
「すいませんっ!ご心配をおかけしましたっ!」

    ;<立ち絵:オーナー;店服;不機嫌(恥ずい?)>

【オーナー】
「………ゃ…その…べ、別に心配してたわけじゃない、けどさ」
【主人公】
「は?」
【オーナー】
「な、なんでもないっ!」
【主人公】
「はぁ」

急いで店に戻ると、予想通りオーナーは不機嫌そうだった。
ちなみにオーナーは、他人に待たされるのが大嫌いな人だったりする。

    ;<立ち絵:オーナー;店服;普通>

【オーナー】
「…ま、いいんだけどね。お客入ってないし」

つまり、現在この店の人口は2人ということだ。
ということは人口密度は、面積でわるから………複素数ってなんだっけ?
ちなみに俺は、数学が大嫌いな人だったりする。

この時間、普段なら2、3人の客が入ってるもんだけど。
ついに廃れたか、居酒屋『早月』。

【主人公】
「そろそろ、店たたんだ方がいいんじゃないですか?」

    ;<立ち絵:オーナー;店服;不機嫌>

【オーナー】
「む…。き、きっと今日はみんな、お給料日前なのよっ!!」
【主人公】
「…そうですか」

ちなみに今日は15日。
客がみんな給料日前かというには微妙なとこじゃないだろうか。

…店の空気が動く。少しひんやりした風が店内に入ってくる。
ドアを見ると馴染みの客が一人。

【佐々木】
「お、やっぱ開いてんじゃねーか」

    ;<立ち絵:オーナー;店服;笑い>

【オーナー】
「あ、佐々木さんっ!!いらっしゃーい!!」
【佐々木】
「なんでぇ、今日はやけに元気がいいなぁ」
【オーナー】
「ううんっ!なんでもないのっ!!佐々木さんっ芋焼酎お湯割りよねっ?」
【佐々木】
「あ、ああ」
【オーナー】
「まーかしてっ!!」

    ;<立ち絵:オーナー去る>

【佐々木】
「………おい」
【主人公】
「はい?」
【佐々木】
「なんかあったのか?」
【主人公】
「佐々木さんが来たから嬉しいんですよ」
【佐々木】
「そ、そうか?そ、そんなこといわれても、俺にゃカカァとガキが…」

佐々木さん…恐妻家。年齢不詳。今年小学校に入学するお子さんがいるらしい。
俺が働き始めるより前から、この店に通っている常連客である。
ビールのプリン体が気になり始めるお年頃らしい。どんなだ?

    ;<立ち絵:オーナー;店服;笑い>

【オーナー】
「おまたせーっ」
【佐々木】
「お、わりぃね………あぁ、そうだ。開いてんなら看板だしといた方がいいぜ?」
【オーナー】
「へ?」
【佐々木】
「てっきり、休みかと思ったしな………って、熱ぅっ!!」
【オーナー】
「…おい」
【主人公】
「………はい」

    ;<立ち絵:オーナー;店服;怒り>

【オーナー】
「…看板出して来い、今スグだ」
【主人公】
「はひ…」

目が据わっていた…。
いや、俺のせいじゃないでしょう?ねぇ?

    ;<暗転>



    ;<背景:店の外>

看板を出し、照明をつける。
元はといえば、オーナーが開店準備の邪魔を…
などという不満は心の奥底に沈めておく。
…こうやって現代人はストレスを溜めていくんだなぁ。………俺将来はげるかも。

今夜も、まだ冷えるな。ん…?

    ;<立ち絵:MEIKO;私服;普通>

さっき商店街でぶつかった子…。
…まさかさっきぶつかったことを根に持って?…ないない、それはない。
………あ、目が合った。てか、俺がじっと見つめてたんだけど。

【??】
「………」

お互い目をそらさない…威嚇か?………それとも客か?
じっと見つめられると恥ずかしくなる日本人なので、こっちから目をそらす。
危ないところだった…もう少しで恋に落ちるところだった……なんてな。

ま…客なら勝手に入ってくるだろうということで。

ここで「いらっしゃいませー!一名様ごあんなーい!」とか言うほど
俺はノリの良い店員じゃない。うん。

    ;<背景:店の中>
    ;<立ち絵:MEIKO;私服;普通>

数分もしないうちに、さっきの子が店に入ってくる。
店内をキョロキョロ見回している。…挙動不審だ。不審者だ。
他店のスパイ…なわけないか、こんな店に。

しかし、こんな店に来るような年齢には見えないけど…
ま、入ってきたからにはお客様だし…。

【主人公】
「いらっしゃいませ」

    ;<立ち絵:MEIKO;私服;慌てる>

【??】
「………」

声をかけるが、また無視され…てはない…というかハタハタしている。
慌てて何かを探している。いや…お前、ポケット二つしかついてないじゃん?
いや、なんでそんなに慌てるよ?

    ;<立ち絵:MEIKO;私服;困り笑>

“お水を1はいください”

そう書いたメモ帳を差し出される。…なんだこいつ?メモ魔か?

メモ帳の違うページを見せられる。

“耳はきこえますが、声が出せないんです。すいません”

あぁ、なるほど。
だからさっきも無言だったのか。
…ま、声が出ようが出まいが俺には関係ないけどさ。

【主人公】「かしこまりました。そちらの席でしばらくお待ちください」

そう言って立ち去る俺に、壊れたメトロノームみたいに何度も頭を下げる。
変な客だ。

    ;<暗転>



    ;<独白モード>
    ;<背景:黒>

今日も『早月』の客は少ない。ただでさえ少ないテーブルが半分も埋まっていない。
ま、いつも通りか。うん。

オーダーが緩やかになってきたところで、ウェイターの仕事を切り上げて客席の奥に向かう。
こっちが俺のメインの仕事…だと思う。 たぶん。

    ;<背景:ピアノ?なければ店の中>

狭い店にもかかわらず、こんなモノを置いている。
使い古された…もう何年も調律されていないらしいグランドピアノ。

ホコリまみれにならないように掃除してはいるけど…
どんな音が出るかもわからない。

…どんな音が出てもわからない俺には、お似合いの楽器。

今日も、誰も耳を傾けることのない、喧騒に満ちた最低のステージで
それなりの演奏を酒の値段につりあった客の前でかなでる。

…最低だけど嫌いじゃない。
少なくとも、今の俺には心地いいステージ。

    ;<BGM:fadeout>

鍵盤を叩く。
    ;<BGM:08ピアノ曲>
頭の中で響いているのは、ずっと昔の音。


    ;<暗転>

ずっと昔…そんな風に思えるくらい過去に書いた曲。

曲を書くとき
この感情を込めて曲にしようとか
この感情を聴衆に伝える曲を作ろうとか

そんなことを思ったことはなかった。

ただなんとなく…そのときどきで曲を書いた。

完成した曲は、周りの人間に言わせれば
単調で、深みのない…ただの音の羅列に聞こえるらしい

曰く「お前の曲ってなにもないよね」…とのことだった。

理解されるなんて思ってなかった。

理解して欲しいとも思わなかった。

理解されても仕方がないと思った。



    ;<ウィンドウモード>
    ;<背景:店の中>

曲の最中…ふと、さっきの変な客のことが気になって
カウンター席を見る。

    ;<立ち絵:MEIKO;私服;普通>

いた。テーブルの上に水の入ったコップ。
そういえば、水以外の注文がない。困った客だ。
しかし、そんな客さえ追い返せない我らが居酒屋『早月』なのだった…。

ぼんやりとこっちを見ている。な、なんだよ…照れるだろ…。
ピアノをひくウェイターが珍しいのか…
じっと目をそらさずこっちを見て………

    ;<立ち絵:MEIKO;私服;歌唱>

え――?

歌っている?
声だせないんじゃ…

いや、他の客は…飲んだり、くっちゃべってる。
あの子を気にする人いないし………
口パク?

あたかも聞きなれた曲であるかのように
彼女は詞を紡ぐ。

………おかしい。この曲には詞なんてない。
俺は作曲しかしてない。

この曲を聞くのは初めてのはず…あんな客が来たら忘れるわけないし…
…なのに、なんであんなに自然に迷いもなく“歌える”?

どんな詞を?…彼女の唇を“読む”。

【??】
『…ひとりで過ごした、君がいない………誰でもよかった…そばに…』

――なんで、こんな歌詞になる?
わからない。どうして“わかる”?
あのときの俺の…どうして?

【??】
『…言葉なんて、いらなかった………ただ、ぬくもりをくれる誰かに…』

    ;<暗転>
    ;<BGM:fadeout>

………

30分ほどの演奏を終えて、またウェイターに戻る。

    ;<背景:店内,立ち絵:オーナー;店服;普通>

【オーナー】
「相変わらず下手ね~」
【主人公】
「…ピアノが悪いんです」
【オーナー】
「…そ。はい、仕事。これ運んで。カウンター席のあの子」
【主人公】
「了解」

    ;<立ち絵消える>

オーナーのいつもどおりの批評。下手。
別に誰かに聞いてほしいわけじゃないけれど…
自分の技量というかそういうのわかってるし。

でも店の中でまともに俺の演奏を聞いてくれる存在は素直に嬉しいと思うわけで。

    ;<BGM:05MEIKO>

だから…というわけじゃないけど
今日、カウンター席で下手な演奏を聞いて、“歌っていた”あの客は…変わってる。

    ;<立ち絵:MEIKO;私服;普通>

【主人公】
「お待たせしました。ジンジャーエールです」
【??】
「…(ぺこり)」
【主人公】
「以上でご注文はおそろいでしょうか?」
【??】
「…(ぺこり)」

酒を飲んでいいのか悪いのか微妙な年齢に見える。
肌はニキビも産毛もなくて白い…服と合わせて全体的にモノトーン
…って俺は何をじろじろ見てるんだと。

    ;<立ち絵:MEIKO;私服;困り笑>

こっち見てるし…笑ってるし…いや、これは困ってるのか?
えっと…か、軽く会話をしてみよう。うん。さっきの気になるしな。うん。

【主人公】
「あ、あのさ」
【??】
「…?」
【主人公】
「さっきの歌のことなんだけど」

    ;<立ち絵:MEIKO;私服;普通or疑問>

【??】
『えっ?』
【主人公】
「演奏中に歌ってたろ?」
【??】
『す、すいませんっ!わ、わたしっ!じゃなかった…えっとメモメモ』

    ;<立ち絵:MEIKO;私服;慌てる>

【主人公】
「いや、メモいらないから」
【??】
『で、でも、わたししゃべれないから、書くものがないと』
【主人公】
「あー…あのさ」
【??】
『えっと…あれ?どこに?…すいません。ちょっと待ってて下さい』
【主人公】
「…会話できてるだろ?」

    ;<立ち絵:MEIKO;私服;普通>

【??】
『………ほんとです』
【主人公】
「………」
【??】
『あれ?どうして?………も、もしかして、わたし声が出て』
【主人公】
「ないけど?」

    ;<立ち絵:MEIKO;私服;困り笑>

【??】
『…そうですよね。バカだなぁ、わたしったら』
【主人公】
「そうみたいだな」

    ;<立ち絵:MEIKO;私服;不満>

【??】
『………うぅ…フォローとかって』

ちょっと不満そうだった。
最初見たときは無表情&無言で感じ悪かったけど
意外とコロコロ表情が変わるな、こいつ。おもしろい。

話を円滑に進めるためにも種明かしをしておこう。

【主人公】
「唇が読めるんだ。耳、聞こえないから」

    ;<立ち絵:MEIKO;私服;普通or疑問>

【??】
『…え?
でも、耳が聞こえないなら、ピアノどうやって』
【主人公】
「聞こえなくなったのが5年くらい前で、それまでは聞こえてたから」

    ;<立ち絵:MEIKO;私服;謝罪>

【??】
『え…、あ、すいません』
【主人公】
「…なにがすまないのかわからない」
【??】
『あ、そうですね…すいません』
【主人公】
「………」
【??】
『あっ!えっと…そのですね…す、すいま』
【主人公】
「で、歌のことなんだけど」

    ;<立ち絵:MEIKO;私服;普通>

【??】
『あ、はい』

本題に戻す。このままではいつまで経っても謝り続けそうな気がした。
…この自信なさげな感じというか…腰が低いというか…
オーナーの対極にいるようなやつだな…

【主人公】
「どうやって歌った?
あの曲、歌詞なんてないし…メロディも作曲したの俺だし
聞いたのも初めてだろ?」

    ;<立ち絵:MEIKO;私服;楽しい>

【??】
『…なんとなく、です』
【主人公】
「なんとなく?
なんとなくで、初めて聞く曲で、即興で?…無駄にフィットしてたんだけど」
【??】
『はい。こんな歌かなって…。
せんりつはおだやかだけど…ちょっとさみしいかんじ』
【主人公】
「………さみしい?」

    ;<立ち絵:MEIKO;私服;慌てる>

【??】
『はい。…す、すいませんっ!もしかしたら、ぜんぜんイメージが違ったり』
【主人公】
「いや…そうじゃな」

    ;<立ち絵、オーナー;店服;不機嫌>

【オーナー】
「ほぅ…サボりか、従業員。………オーダーたまってるんだけどなぁ?
ナンパかぁ…いいわねぇ…青春よねぇ」

    ;<立ち絵:MEIKO;私服;普通>

【??】
『………』
【主人公】
「いや…そうじゃな」
【オーナー】
「ちょっと、厨房まで来い」

    ;<暗転>
    ;<BGM:fadeout>


今日の仕事運は全体的に低いようだった…。



    ;<背景:店内>
    ;<立ち絵:MEIKO;私服;困り笑>
    ;<立ち絵:オーナー;店服;普通>
    ;<BGM:01店内>

【オーナー】
「ふーん…
つまり、彼女が演奏中に歌ってて、それが気になったから、声をかけてみたと」
【??】
「…(こくこく)」

彼女の協力をえて、どうにかオーナーの説得を試みる。
…厨房に連れて行かれたら最期だ。どうにかここで…

【オーナー】
「それって、ナンパじゃん」
【主人公】
「ち、違いますっ」
【オーナー】
「…暗い道では背後に気をつけたほうがいいわ。
あなた、今日家に帰る途中、突然こいつが」
【主人公】
「俺は、どんな危険人物ですか…」

    ;<立ち絵:MEIKO;私服;怖い>

【??】
「…(がくがくぶるぶる)」

そこまでおびえなくても…
俺、わりと傷つきやすいんだけど…
ガラスのように繊細なハート………うあ、発想が昭和じゃん…

【主人公】
「………」
【オーナー】
「あーゴメンゴメン。冗談よ。ウチの従業員に悪い人はいないから」
【主人公】
「(ま…確かに、オーナーは従業員には入らな)」

    ;<立ち絵:オーナー;店服;笑顔>

【オーナー】
「なにか言ったかしら?」
【主人公】
「いえ。なにも」

思わず、口に出していたらしい。
反省。口は災いの元。

    ;<立ち絵:MEIKO;私服;困り笑>

【??】
『あはは…まぁ…わたしは』

    ;<立ち絵:オーナー;店服;普通>

【オーナー】
「ん?なに?」
【??】
『あ…』

“わたしはボーカロイドなので、おそわれても大丈夫です”

【オーナー】
「ぼーかろいど?」

…一般常識のない人だ。
きっとニュースさえ見ないんだろうなぁ。

    ;<立ち絵:オーナー;店服;不機嫌>

【オーナー】
「あんたさ、わりと考えてることが顔に出やすいほうだって知ってる?」
【主人公】
「…ボーカロイドっていうのは、歌唱用機械人形のことです」
【オーナー】
「………わざと、難しく言ってない?」

“ようするに、歌っておどれるロボットです”

    ;<立ち絵:オーナー;店服;普通>

【オーナー】
「ふーん…今、流行のロボットなんだ?………こんなに柔らかいのに?」

    ;<立ち絵:MEIKO;私服;恥ずい>

【??】
『ひゃぅっ』

今、スゴイとこをさわってた気が…。普通さわるか?太ももの…
見なかった。俺は何も見てない。うん。

【主人公】
「…ええ。ま、高級品なので一般にはあんまり出回ってないですが」
【オーナー】
「じゃあ、なんでここにいるの?」
【主人公】
「…さあ?」

    ;<立ち絵:MEIKO;私服;困り笑>

“歌えなくなったので、元いたところにいられなくなって”

【オーナー】
「………ふむん」

“だから、これからどうしようかなって”

【オーナー】
「なるほどね。…行くところが無いってわけね」
【??】
「………(こくり)」
【主人公】
「…オーナー?」

    ;<立ち絵:オーナー;店服;笑い>

【オーナー】
「あなた…ウチで働きなさいっ!!」
【主人公】
「なっ」

    ;<立ち絵:MEIKO;私服;普通>

【??】
「!」
【オーナー】
「いいじゃないの~。あんただって似たようなもんだし。気の毒な話だし。
素直でいい子っぽいし。ね?」
【主人公】
「ね…って、あんたなぁ」
【オーナー】
「………いいでしょ?ほっとけないんだからっ!
…なに?私の判断にケチつけようっていうの?」

オーナーの言いたいことはわかる。こいつも一人ぼっちだから。
だからほっとけない。…このひとも俺も。

【主人公】
「反対はしませんけど…。
しゃべれないってことはウェイトレスとかできませんよ?」

“いいんですか?”

【オーナー】
「うん。ま、皿洗いくらいできるでしょ」

    ;<立ち絵:MEIKO;私服;笑い>

“とくいです”

【オーナー】
「じゃ、決定っ!」
【主人公】
「…この店にそんな余裕が」
【オーナー】
「………あ、あるわよぉ。
ていうか、そんなこと従業員の気にすることじゃないべさ」
【主人公】
「べさ?」

“ありがとうございます。せいいっぱいがんばります”

    ;<立ち絵:オーナー;店服;笑い>

【オーナー】
「うんうん。いいわねぇ」

    ;<立ち絵:MEIKO;私服;楽しい>

これって法律的にどうなるんだっけ?
人権?ロボットみたいなもんだし…?
………めんどくさいので考えないことにしよう。
オーナーもきっと考えてない。

【主人公】
「ま、いいですけどね。知りませんよ、俺は」

    ;<立ち絵:オーナー;店服;普通>

【オーナー】
「なに言ってんの?」
【主人公】
「へ?」
【オーナー】
「あんたが面倒見なさいよ」
【主人公】
「な」
【オーナー】
「まともに会話できるのあんたしかいないんだから」
【主人公】
「…んな、めんどくさ」
【オーナー】
「なんか文句あんのか?」
【主人公】
「…ありませんとも」
【オーナー】
「いいじゃない。きっと楽しいわよ?」
【主人公】
「…はぁ」

    ;<立ち絵:オーナー;店服;笑い>

【オーナー】
「というわけで…困ったことがあったら、なんでもこいつに言ってね」

    ;<立ち絵:MEIKO;私服;困り笑>

【主人公】
「………はぁっ」
【??】
『あ、あの』
【主人公】
「………なんだよ?」
【??】
『よろしくお願いしますね』
【主人公】
「…ああ、お前の名前は?」
【??】
『わたしは――

    ;<暗転>
    ;<BGM:fadeout>

………

ボーカロイド――MEIKO
出会ったのは、春に手が届きそうな少し寒い夜だった。





//################################################
//################################################
**二章
&bold(){MEIKO シナリオ:二章 前編}

    ;モノローグ
    ;<背景:黒,独白モード>
――埋まりようのない孤独感
ひとり、一人、独り
さみしい、寂しい、淋しい

それでも良かった
ひとりじゃなくなるってことは
そばに誰かが居てくれてるってことで

一度、傍らにいる誰かを失くしてしまった自分には

きっと耐えられない

捨てられる不安に
失うことの恐怖に
孤独に戻ることの痛みに

…耐えられるはずがない

だから、ずっとひとりでいよう
さみしくてもひとりでいよう
そうすれば…ずっと笑っていられる


A Fairy Tale in the Small Bar;<画面中央に配置>
二章『―Aria―』;<画面中央に配置>

    ;<ウィンドウモード>
    ;<背景:店内>
    ;<立ち絵:MEIKO;店服;慌てる>
    ;<立ち絵:オーナー;店服;怒り>

【オーナー】
「ちょっと!!お皿足りないわよっ!!
大皿二枚至急っ!!可及的速やかにっ!!」
【MEIKO】
『は、はいぃぃ』

近年まれにみるシュラバだった。

【主人公】
「オーダー、とりあえずココ置いとく!」
【オーナー】
「りょーかいっ!…ちょっと!大皿っ!!まだ洗い終わんないのっ!!」
【MEIKO】
『い、いまずぐにぃー』
【オーナー】
「これはカレー皿でしょうがぁぁっ!!!」
【MEIKO】
『ふぇぇぇぇぇっ!!!す、すすすすいませぇぇぇぇん!!』

    ;<立ち絵:消える>

シュラバである。今晩は客が多い。
席が埋まっている…という非常に珍しい状況に置かれている居酒屋『早月』。
これが珍しいっていうのが、この店の普段のありようを端的にあらわしてるよなぁ…

【客】
「にーちゃんっ!!ビールまだー!!聞いてんのー!?」
【客】
「ちょっとー!ぞうきん貸してー!!」
【佐々木】
「がんばれよぉっ!…あ、厚焼きタマゴ頼むわ」

そして矢継ぎ早に出される注文、要求、激励。

【主人公】
「申し訳ございません、しばらくお待ちくださいっ」

今日、数十回目になるであろう
「申し訳ございません」
この状況でウェイター一人ってどうなんだ…。限界こえないかコレ?ねぇ?
ま、いいけどさ…こういうのも楽しいし。

    ;<暗転>

………

    ;<背景:店内
    ;<立ち絵:オーナー;店服;笑い>
    ;<立ち絵:MEIKO;店服;困り笑>

【オーナー】
「ふぅ、やれやれ…ようやく片付いたわね」
【主人公】
「…それって、お客様が帰ったあとに言うセリフじゃありませんよ」
【オーナー】
「いやまぁ、言葉のアヤってやつよ?」
【主人公】
「………」

それ、用法違いますよね?
などとは決して言わない。言えない。うん。

【MEIKO】
『………』
【主人公】
「おつかれさん」
【MEIKO】
『…つかれ、ました』
【オーナー】
「いやー、うんうん。メーコちゃんもよく頑張ったわ」

    ;<立ち絵:MEIKO;店服;怖い>

【MEIKO】
『ひぅっ!』
【主人公】
「…おびえられてますよ」

    ;<立ち絵:オーナー;店服;普通>

【オーナー】
「いや、だってさぁ…
初日からあんなにシュラバるとは思ってなかったし」
【主人公】
「シュラバる…って、なんですかその現代語の乱れ」
【オーナー】
「さっきはごめんねーこわくないのよー?」
【MEIKO】
『…はひ』
【オーナー】
「でも、もうちょっと早くお皿くらい洗えないのかしら…」

    ;<立ち絵:MEIKO;店服;謝罪>

【MEIKO】
『すっす、すいませ』

    ;<立ち絵:オーナー;店服;笑い>

【オーナー】
「冗談よ」

いや、今のは冗談の目じゃなかっ

【オーナー】
「なにか?」
【主人公】
「なんでもありません…」
【オーナー】
「そう」
【主人公】
「でもまぁ、皿洗いが得意というわりには…」

    ;<立ち絵:MEIKO;店服;困り笑>

【MEIKO】
『あんなにたくさんのお皿洗ったことないですよぅ』

    ;<立ち絵:オーナー;店服;普通>

【オーナー】
「え?なに?」
【MEIKO】
『あっ…えとえと』

“あんなにたくさんのお皿洗ったことがなくって”

【オーナー】
「あーなるほど…まぁ、ウチじゃ今日みたいな状況はあんまりないけどねぇ」
【主人公】
「そうですね。そんなに混むほど人気の店じゃないですし」
【オーナー】
「………おい」

    ;<立ち絵:オーナー;店服;笑>

しまった…墓穴を掘った!?えっと、とりあえずフォローを…言い訳を…ヨイショして…

【主人公】
「つ、つい本音が口をすべって…」

………ダメじゃん…本音出てんじゃん…

【オーナー】
「…ふふふふふ」
【主人公】
「あ!…あー今夜はまだ演奏してなかったーピアノも弾かないとなー」
    ;<暗転>

【オーナー】
「待てっ!」



    ;<背景:店内>
    ;<立ち絵:MEIKO;店服;困り笑>
    ;<立ち絵:オーナー;店服;普通>


【オーナー】
「ちっ…逃げやがった」
【MEIKO】
『あはは…』
【オーナー】
「まぁ…いいけどね」

    ;<立ち絵:MEIKO;店服;普通or疑問>

“ピアノ、いくつか音があってないような気がしたのですが”

【オーナー】
「あ、うん。5年くらい?調律してないし」

“そんなにですか?”

【オーナー】
「そうね…普通は年1回くらいした方がいいらしいけど
あいつ、自分の曲しか弾かないから…音のズレなんて誰にもわかんないし
ピアノ自体もボロっちいしねぇ」

    ;<立ち絵:MEIKO;店服;普通>

【MEIKO】
『………』
【オーナー】
「それにね…ピアニスト本人が調律、嫌がるから」

“なぜでしょう?”

【オーナー】
「さあ…ね」

    ;<暗転>



    ;<背景:店内>
もう客は…佐々木さんくらいか。
その方が気楽でいいな。うん。さて、お仕事お仕事っと…

    ;<独白モード>

小さかった頃から、ピアノを弾くのは好きだった。
指の強弱、リズムで自由にいろんな音を無限に奏でられる。
子どもの頃は、本当に魔法の箱だと思っていた。

でも…そのしくみが魔法なんかじゃなく、ただの物理法則で、
そして世の中には俺以上にいろんな音を奏でられる人がいるんだって
背がピアノの高さを追い越して知った。…思い知った。

…どんなに頑張っても、俺じゃ出せない音の連なりを簡単に奏でる人間がいる。
才能というもの。努力の向こう側にいる奴ら。有限な自分。

それでもピアノが好きだった。
ピアノを好きなことだけは変わらなかった。

だから、今でもここから逃げ出せないんだと思う。
ここにいれば、鍵盤を叩いていられる。
ピアノに触れていられる。

誰にも批判されることなく
誰にも聞かれることなく

ずっと、あの頃の音を奏で続けることができる。


いま奏でている音が…俺の耳に届くことはないけれど。

    ;<暗転>



    ;<背景:店内,ウィンドウモード>
【佐々木】
「おう!兄ちゃんっ!」
【主人公】
「まだ帰ってなかったんですか?奥さん怒ってますよ?」
【佐々木】
「………今、実家なんだ…ガキ連れて」

軽いジョークのつもりが今度は地雷を踏んだ…
佐々木さん…だからあれほどパチンコ貯金はやめろって言ったじゃないですか…
…そんな追い討ちをかけるようなことは言わない。常連客には優しく。
じゃないとこの店つぶれるしな。うん。

ちなみに、パチンコで負けて帰ることを『パチンコ屋さんに貯金した』と言うらしいです。
ちょっと引き出すのがめんどうなだけで、銀行より高い利子で返ってくるそうです。
そんなバカな………ねぇ?

【主人公】
「………えっと、すいません」
【佐々木】
「…いいってことよっ!ほら、飲みねぇ」
【主人公】
「勤務中ですから」
【佐々木】
「ちっ…相変わらずピアノ弾いてるとき以外は無愛想だな…」
【主人公】
「…そうですか?変わりませんよ」

    ;<立ち絵:MEIKO;店服;楽しい>
    ;<立ち絵:オーナー;店服;普通>

【オーナー】
「そうでもないわよ?…あんた楽しそうに弾いてるじゃない」
【MEIKO】
「…(こくこく)」
【主人公】
「ま、どっちかっていえば楽しいですけど………別に、気のせいですよ」

    ;<立ち絵:MEIKO;店服;困り笑>

先ほどの怒りなどなかったかのようにオーナーがあらわれる。
この人は基本的に感情の移り変わりが激しいので(良い意味で)
怒りが持続することがないらしい。…基本的には。

【オーナー】
「む…」
【MEIKO】
『………』
【佐々木】
「ま、まぁ兄ちゃんもあんなオンボロピアノでよく弾けてんじゃ」

    ;<立ち絵:オーナー;店服;不機嫌>

【オーナー】
「おんぼろ?
…ウチのおじいちゃんのピアノをけなすなんていい度胸じゃない」
【佐々木】
「!!…ちがっ…
いや、そうじゃなくてだな…そりゃマスターは立派な人だったよ。
今言いたかったのは…」

    ;<立ち絵:オーナー;店服;笑い>
    ;<立ち絵:MEIKO;店服;怖い>

【オーナー】
「ふふっ……うふふふふ」
【佐々木】
「…に、兄ちゃん…た助け」
【主人公】
「あきらめてください。逆鱗にふれた佐々木さんが悪いです」
【佐々木】
「そ、そんな…」
【オーナー】
「………佐々木さんっ
…他のお客様のご迷惑にならないところに移動しましょう?」
【佐々木】
「ちょ、ちょっと…なぁっ…話せばわかるって、な?な?………うぁ…」
【MEIKO】
『………』

    ;<暗転>

…マスターというのは、オーナーの『敬愛する祖父』でこの居酒屋『早月』の以前の店主である。
オーナーの前で、彼のことを少しでも悪く言おうものなら…
従業員はもちろん常連客でさえ………

それから、佐々木さんがどうなったか誰も知らない………いや、普通に帰ってったけどさ…



    ;<背景:店内>
    ;<立ち絵:MEIKO;店服;普通>

【MEIKO】
『あの、せんぱい』
【主人公】
「どうした?」

こいつは、なぜか俺のことを先輩と呼ぶ。
まぁ、間違ってはないんだろうけど。なんかなぁ…ねぇ?
ちょいこそばゆい感じ?…なんだそりゃ。

【MEIKO】
『調律しないんですか?えと、ピアノ』
【主人公】
「しない」
【MEIKO】
『どうして…って聞いてもいいですか?』
【主人公】
「…しても仕方ないだろ?」
【MEIKO】
『…そんなこと』
【主人公】
「どっちにしろ、ここに来てる連中にはわからんし」
【MEIKO】
『………』
【主人公】
「…厨房の片付け、オーナーを手伝ってやれ」
【MEIKO】
『はい…』

    ;<立ち絵:消える>
    ;<暗転>

本当はわかってる。

調律されてないピアノのせいにできるから。
この耳で、まともな演奏なんてできるわけがないことくらい
自分でもわかってる。元々そんなに上手いわけじゃないし。

リズムも強弱も勘まかせ。
これで誰もが知ってるクリスマスソングなんて弾こうものなら
大ヒンシュクじゃないか…。

調律なんてしないで、誰も知らない自分の曲を奏でているのがいい。
楽しいし、誰にも否定されない。

だから、このままでいるのが一番心地いいんだ。

…否定される?だれに?
誰も俺の演奏なんて聞いていないのに?
誰かに聞いて欲しい?…今さら?

………ううむ。混沌としているな。うん。
しかも考えてること暗いし…ダメだダメだ…明るく、上向きに、楽しく………よしっ!
まったく、あいつが調律なんて言うからー………調律かぁ…



たいして役に立たない新戦力が加わった居酒屋『早月』の夜が終わった。
明日は店休日かぁ…ひさびさにゆっくり…

………

    ;<背景:白?>

まぶしい?

あれ、昨日カーテンしめたはず…なんで…まぁいいか眠いし…

ゴス
    ;<画面振動>
【主人公】
「げふぅっ」

    ;<背景:主人公部屋>
    ;<立ち絵:オーナー;私服;笑い>

【オーナー】
「ようやく起きたようね…おはよう、今日もいい天気よ」

顔を上げるとそこにはオーナー…
そっか…今の衝撃はおーなーの腹パンチだったんだー
………こうやってDV(?)に慣れてきている自分がイヤだなぁ…

それにしてもねむい…

【主人公】
「………あんたな」
【オーナー】
「お・は・よ・う」
【主人公】
「…おはようございます」
【オーナー】
「よし。朝ごはんできてるから」
【主人公】
「…あんたな、もう少しやさしく起こしてくれてもいいんじゃないですか」

    ;<立ち絵:オーナー;私服;普通>

【オーナー】
「………優しくって…キスでもして起こせばよかった?」
【主人公】
「………」
【オーナー】
「………」
【主人公】
「っ!!………おはようございます」

    ;<立ち絵:オーナー;私服;笑い>

【オーナー】
「よろしい」

目が覚めた。主に恐怖で。…恐怖だな、うん。それ以外のなにものでもないな、うん。
時刻は朝8時………おいおい、4時間も寝てないじゃんよ…

    ;<暗転>

………

    ;<背景:商店街>
    ;<立ち絵:MEIKO;私服;普通>

【MEIKO】
『あ、あの、せんぱい』
【主人公】
「なんだ?」
【MEIKO】
『その…すいません』
【主人公】
「別にいい。こうやって外歩くのも楽しいしな。…眠いけど」
【MEIKO】
『………』
【主人公】
「………」

せっかくの店休日…どうしてこんな状況になってるかというと

    ;<暗転>

    ;<背景:店内>
    ;<立ち絵:MEIKO;私服;普通>
    ;<立ち絵:オーナー;私服;笑い>
    ;<回想っぽくセピアな感じ?>

【オーナー】
「せっかくのお休みだし、あんたどうせヒマでしょ?
あんた、メーコちゃんのお買い物に付き合いなさいっ!!」

という理不尽な鶴の一声(?)のお達しがあったからで…

    ;<暗転>
    ;<背景:商店街>
    ;<立ち絵:MEIKO;私服;普通>


【MEIKO】
『あ、あのあの』
【主人公】
「どうした?」
【MEIKO】
『すいません』
【主人公】
「…ま、いいって」
【MEIKO】
『………』
【主人公】
「………」

そこで「いや、あんたが行けよ」とか言える立場でもなく
しかたなく、こいつの日用品その他を買いに商店街までやってきたという…。
まぁ、たまに街をぶらつくのも楽しいからいいんだけどさ。

    ;<立ち絵:MEIKO;私服;慌てる>

【MEIKO】
『あのあのっ!』
【主人公】
「だから、別にいいってっ!」
【MEIKO】
『えっと…すいません…その…お店………通り過ぎてて
あのごめんなさい…違うお店でもいいかもなんですけど
オーナーさんのメモによると』
【主人公】
「…悪い」
【MEIKO】
『い、いえ、こちらこそっ』
【主人公】
「…で、どこの店だって?」
【MEIKO】
『そこの“セクスィーランジェリー☆キムラ”だそうです』
【主人公】
「………一人で入れ」
【MEIKO】
『えぇっ!?ムリですっ!!
お買い物なんて、ほとんどしたことないのにっ!!』
【主人公】
「俺だって無理だっ!!こんなとこに男が入れるかっ!!」
【MEIKO】
『お願いしますよぅ…せんぱいぃ…だってほら、メモに~』
【主人公】
「………なんだよ、このメモ」

        ;<暗転>

手の上で弄ばれている気がしていたが
メモを確認するとそれは確信に変わった。とりあえず見なかったことにしよう。
これって、セクハラか?職場内イジメ?

店休日…週に一度の自由な時間…
確かに俺は無趣味だけど、これはひどくないですか?

ていうか、昨日から思っていたけど、こいつ本当にロボットか?
ポンコツにしても程がないか?ロボット三等兵?…なんだそれ?
一人で買い物したことないって…22世紀の某ネコミミロボットでも自分でドラヤキ買ってたぞ…

………

買い物も一通り終わって、精神的・肉体的に打ちのめされていた。
さりとて…どんな絶望的な状況でも腹は減る。いや、絶望的な状況だからこそ、空腹になるのか。
深遠な問題だ………そこまで深くもないけど。“さりとて”って使ってみたかっただけだけど。

ていうか、もう昼過ぎてるし。
ってわけで、ファーストフードなハンバーガーショップに行ったのだが…

    ;<背景:商店街>
    ;<立ち絵:MEIKO;私服;恥ずい>

【主人公】
「…おまえはヤギかと」
【MEIKO】
『だって、知らなかったんですもん…』
【主人公】
「いや…周りの人間を見て、だれが紙ごとバーガー食ってたよ…」
【MEIKO】
『は、初めてだったんですよぉ!』
【主人公】
「ていうか、おまえ、ロボットのくせにメシ食うの?」
【MEIKO】
『ぼ、ボーカロイドです…』
【主人公】
「ん?」
【MEIKO】
『ロボットじゃなくって…』
【主人公】
「前に、自分で“歌って踊れるロボットだ”って」
【MEIKO】
『あ、あれは、説明をかんたんにするためにぃ…』
【主人公】
「うるさいヤギロボット」
【MEIKO】
『うぅ…ひどいです…』

        ;<暗転>

なかなか楽しい昼食だった。
どうも、このロボットは一般常識が欠けているらしい。
このまま野に放つとロクなことにならない気がするので
この際、いろいろ教えておくことにしよう。

    ;<背景:商店街>
    ;<立ち絵:MEIKO;私服;不満>

【主人公】
「とりあえず、あれが信号だ。青になったらこの横断歩道を渡れる」
【MEIKO】
『…そ、それくらい知ってますよぅ』

        ;<暗転>

………

『歌』が聞こえたような気がした。ひさしぶり…
やさしい、やわらかい声。穏やかな旋律。…子守唄?

暖かな日差し…心地よい風…透き通る歌声。
声?…そんなもの聞こえるわけない…ああ、なんだこれ夢か…

目が覚める…ってか、寝てたのか俺。

    ;<背景:CG01(膝枕MEIKO)>

【MEIKO】
『あ、起きちゃいました?うるさかったですか?
…って、そんなわけないですよね』
【主人公】
「………ああ、そんなわけないな」
【MEIKO】
『あはは…』

やっぱり、あの歌は夢だったか……きれいな歌声だったけどなぁ…
…ていうか、この状況………ひざまくら?
やわらかいな、すべすべだし…じゃない!違うだろ?そうじゃないだろ?

ええっと、こういうのって材質なにを使ってこんなにすべすべやわらか

………起きぬけで頭が混乱しているのかもしれない
いや、これはふつーに混乱している。
状況を整理してみよう。うん。

えーっと、商店街の案内とか終わって…そういえば、公園で休んでいくことになったんだっけ?
天気もいいし。ぽかぽかだし。
で…なんで俺は寝てるんだ?やわらかい膝枕で?
…って、そうじゃなくて、とりあえず退かないと

【主人公】
「………悪い、重いだろ?」
【MEIKO】
『いいえ、ぜんぜんですよ~』
【主人公】
「…おまえなぁ」
【MEIKO】
『はい?』
【主人公】
「そこで、『そうですね、足がしびれてきました』とか言えば
俺も『あー悪かったなぁ…今どくから』っていう感じでこの状況から難なく離脱できるだろ?」
【MEIKO】
『え?あの、でもわたし足しびれませんし………もしかして迷惑でしたか?
その…せんぱい、芝生でねててマクラなかったから…』
【主人公】
「いや迷惑とかそういうことじゃなくて、どちらかといえば心地よいっていうか
べ、別に初めてひざまくらしてもらって浮かれてるわけじゃなくてだな」
【MEIKO】
『えっと…じゃあどうすれば』
【主人公】
「…と、とりあえず、もうちょいこのまま…いいか?」
【MEIKO】
『…はい。だいじょぶです』
【主人公】
「………」
【MEIKO】
『………』
【主人公】
「お、おまえさ…」
【MEIKO】
『ゅ?』
【主人公】
「…いや、間が持たなくなったとかじゃないぞ?」
【MEIKO】
『え?はぁ』
【主人公】
「さっき、俺が起きる前…歌ってたのか?」
【MEIKO】
『……はい、歌って、ました』
【主人公】
「好きなんだな。歌うの」
【MEIKO】
『…はい、たぶん』
【主人公】
「…たぶん、なのか?
…声が出せなくても歌ってるって、かなり好きなんじゃないか?」
【MEIKO】
『…どうなんでしょう?』
【主人公】
「は?」
【MEIKO】
『ふつうボーカロイドって、こんなに笑ったり、困ったりしないんです。
…ただ歌うだけの人の形をしたキカイ。それがボーカロイドなんです』
【主人公】
「そうなのか?
俺は、おまえ以外のは見たことないから知らないけど」
【MEIKO】
『はい。これって、ジッケンでついてるキノウなんです。
できるだけ、にんげんに近づけるように…って』
【主人公】
「…ふむ」
【MEIKO】
『それで、そんなキノウつけちゃったらプログラムがゴチャゴチャで
歌えなくなっちゃったらしいんです。ジッケン、失敗しちゃったんですね』

…よくわからないようなわかるような。
とにかく特殊なボーカロイドということらしい。

【MEIKO】
『だから、わたし、歌えてたころって、
好きとかそういう感情なかったんです』
【主人公】
「…そう、か」
【MEIKO】
『でもですねっ!』
【主人公】
「?」
【MEIKO】
『……好きだったと、思うんです。
昔の…感情とかなかったころの自分も』
【主人公】
「………」
【MEIKO】
『だから、きっと歌えない今も、歌が好きなんじゃないかなって』
【主人公】
「…そうかもな」
【MEIKO】
『はいっ!
…せんぱいも好きですよね?ピアノ』
【主人公】
「………たぶん、な」

好きかどうか…面と向かって聞かれるのは気恥ずかしい。
昔はこいつみたいに、ためらいなく言えてたはずなのに。

【MEIKO】
『…たぶん、ですか?』
【主人公】
「ああ…」
【MEIKO】
『ふふっ』
【主人公】
「………」
【MEIKO】
『あれ?どうしました?』
【主人公】
「…なんでもない」

    ;<背景:黒>
初めて笑っているMEIKOを見た気がした。
いつもの困ったような笑みじゃない、本当の笑顔。

なんのためらいもなく、歌を好きだといって笑う“女の子”。

………見とれてたなんて言えるわけがない。
………
    ;<背景:黒>

それから、店での何気ない毎日が続いた。

    ;<背景:店内,>
いつもどおりの店内。混むこともなく。暇でもなく。
オーダーが止まったので皿洗い係の様子を見に行くことにする。

    ;<立ち絵:MEIKO>
【主人公】
「…?」
【MEIKO】
「!!」
【主人公】
「おい」
【MEIKO】
『す、すいませんっ!ごめんなさい!!』
【主人公】
「………いや、なにが?」
【MEIKO】
『…え?』
【主人公】
「いや…今、なんか、すっごく挙動不審な動きを」
【MEIKO】
『わ、わってません!』
【主人公】
「は?」
【MEIKO】
『いやその、わっちゃったんですけど…そのお皿』
【主人公】
「ああ」
【MEIKO】
『えっと、これってやっぱり…
わたし、クビですか?クビですよね?そうですよね?』
【主人公】
「いや…それはないだろう」
【MEIKO】
『ほ、ほんとですか?』
【主人公】
「…ああ、オーナーの割ってる数に比べれば」
【MEIKO】
『…そんなに?』
【主人公】
「………ああ」
【MEIKO】
『…あ』
【主人公】
「だからこれも、今のうちに片付けてしまえば気づかれない」
【MEIKO】
『えぇっ!でもでも』
【主人公】
「…大丈夫だ。
どうせ、あの人は、自分が今まで割ってきた皿の枚数なんて覚えて」

ぽんっと肩に手を乗せられる。
あぁ…これってあれだな…よくコントとかで…

【オーナー】
「今週は昨日までの時点で、9枚よ」
    ;<立ち絵:オーナー>
【MEIKO】
『後ろに』
【主人公】
「………」
【オーナー】
「さあて、覚悟はできてるわね~」
【MEIKO】
『………』
【主人公】
「………」
…俺、何も悪いことしてないんだけどなぁ

    ;<暗転>
………
閉店後…

    ;<背景:店内,立ち絵:MEIKO,オーナー>
【オーナー】
「ちょっとメーコちゃんっ!ビールっ!注いでっ!」
【MEIKO】
『え?え?え?』
【オーナー】
「早くっ!!」
【MEIKO】
『えっと…こんなかんじ?』
【オーナー】
「………ちっがーうっ!!
このボケロボットっ!!お酌すらできないの!?
こんな泡だらけ…あんたビールの神様に失礼だと思わないのっ?!」
【MEIKO】
『び、びーるの?…って、あのロボットじゃなくて』
【オーナー】
「うるさいっ!!…そうね、教えてあげるわ。手取り足取り…ふふっ」
【MEIKO】
『はいっ!そ、そのっよろしくお願いしますっ』
【オーナー】
「まず…ビール瓶の持ち方がなっとらんっ!!なんだその持ち方はっ!!
そこらのぺーぺーの学生でもラベルくらいは上にするぞっ!!
メーカーの方々に謝罪しなさいっ!!」
【MEIKO】
『すっすいませんー!!』
【オーナー】
「声が小さいっ!!」
【MEIKO】
『声でないんですよぅ…』
【主人公】
「とりあえず仕事しろあんたら。してくれ…」
    ;<暗転>

オーナーの理不尽さに耐える…そんな日常。
………
また、ある日…

;<背景:店内,立ち絵:MEIKO,オーナー>
【佐々木】
「ようメイコちゃんっ」
【MEIKO】
『きゃぁっ!!』
【オーナー】
「佐々木さん、踊り子にさわるのはダ・メ・よ~」
【MEIKO】
『お、おどり子っ!?おどり子ってわたしのことですか…?』
【佐々木】
「そういや、メイコちゃん歌って踊れるロボットだったなぁ」

“ボーカロイド です!!”

【オーナー】
「いや、そんなことはどうでもいいんだけど」
【MEIKO】
『そんなこと、ですよね…そうですね…
さいしょにゆったわたしがわるいんです…』
【オーナー】
「なんで踊らないの?
…いや、よくあいつのピアノに合わせて歌ってるのは見るんだけど」
【MEIKO】
『それはピアノの曲調が踊りにくい…』
【主人公】
「…ま、まぁ、俺の曲なんて…
どうせ、暗い曲だろうし、踊るようなもんじゃ」
【MEIKO】
『ち、ちがうんです、せんぱいが悪いんじゃなくて
わたしのキノウのもんだいでっ』
【佐々木】
「…んーこうなっちゃうと、俺らにはわからんなぁ」
【オーナー】
「二人の世界ってヤツよねぇ
…私も多少は唇読めるけど、あそこまでは…」
【MEIKO】
『そ、そんなんじゃ』
【主人公】
「いや、そういうつもりじゃ」
【オーナー】
「はいはい、ごちそうさまごちそうさま」
    ;<暗転>

常連客に絡まれたり…そんな日常。
………
そして…

    ;<背景:店内,立ち絵:MEIKO>
【MEIKO】
『え?せんぱいっ!
ここに、おさとう100グラムだって書いてありますよ?!』
【主人公】
「いや、こういうのは勘でなんとか」
【MEIKO】
『ぜったい、それ130グラムくらいありますよぅ』
【主人公】
「…おまえ、その30グラムで何が変わると」
【MEIKO】
『…あ、甘くなりますよ?』
【主人公】
「ホットケーキは甘くてもいいだろ…」
【MEIKO】
『…おさとうをたくさんとるとトーニュー病になるんですよ?!
わたし、知ってます!』

某経営側から要求があったため、こうしてホットケーキを作っているわけだが
…相変わらずロボっぽくないやつ。

【主人公】
「………糖尿病だろ」
【MEIKO】
『そ、そうです!それ!だから、ちゃんと計って』

閉店後、オーナーが突然「ホットケーキが食べたい」とのたまった…
まぁ、それはいつものこと。しかし、今回こいつが手伝うなどと言い出した。

【主人公】
「………」
【MEIKO】
『あぁっ!!』
【主人公】
「あとは、混ぜて…」
【MEIKO】
『せんぱい…ひどいです…』
【主人公】
「いや、おまえは糖尿病とか大丈夫だろう…」

こいつが手伝ったところで作業が楽になるわけはなく…
ホットケーキの作り方を教えつつ、もたもたと作っているわけで
俺の睡眠時間は順調に削られていくのだった…

【MEIKO】
『こういうのって、パワハラとかになるんじゃないですか?』
【主人公】
「ならないだろ…パワハラっていうのは」

【オーナー】
「ねーまだぁ?ホットケーキ。おなかペコペコなんだけど」
    ;<立ち絵:オーナー>

【主人公】
「………こういう人のコトだ」
【MEIKO】
『………』
【オーナー】
「え?なに?何の話?」
【主人公】
「あと、少しで焼きあがりますから、テレビでも見ててください」
【オーナー】
「通販見ててもつまんないしー…って
もしかしてっ!私には聞かせられない話っ!?
Y談もしかしてY談でしょっ!!」
【主人公】
「…セクハラも追加しときます」
【オーナー】
「なによー!!もーっ!!」
【主人公】
「いたいっ!!ちょっとオーナー?
それって折れる方向………ぎゃーーーっ」
【MEIKO】
『あははは…』

そして、もちろんオーナー御自らの妨害行為も…


    ;<背景:店内,立ち絵:MEIKO,オーナー>
サブミッションを数種類かけられた後、解放された。
どうやら本気で空腹らしい。とっとと焼いて食って寝てもらうことにする。

フライパンの上でホットケーキをひっくり返す。

【MEIKO】
『うわ…じょうずです』
【主人公】
「…これくらい普通だ」
【MEIKO】
『せんぱい、なんでお店でつくらないんですか?』
【主人公】
「それは…」
【オーナー】
「なになに?何の話?」
【MEIKO】
『えと』

“せんぱいは どうしてお店で おりょうり つくらないのかな? って”

【オーナー】
「あたりまえでしょ?
なんでこの私があくせく料理はこばなきゃなのよ?」
【MEIKO】
『…はぁ』
【オーナー】
「私は優雅に…そう優雅にキッチンで料理を作り続けるのっ!」
【主人公】
「………」

昔はオムレツすら満足に作れなかったくせによく言う…

【オーナー】
「…なによ?」
【主人公】
「………さ、できましたよー。冷めないうちに早く食べましょう。
ホットケーキは冷えたらふつうのケーキになっちゃいますし」
【MEIKO】
『そっそうなんですか!?』
【オーナー】
「………」
【主人公】
「………」
    ;<暗転>

みんなで夜食をつくったり…そんな日常。
………

    ;<背景:店内,立ち絵:MEIKO>
ピアノのそばにMEIKOが立つ。
もう閉店間際、二人ともほとんど仕事はない。

【MEIKO】
『じゃあ歌いますね』
【主人公】
「…勝手にすればいい。どうせ客には聞こえない」
【MEIKO】
『あはは…そうですね』
【主人公】
「ああ」
【MEIKO】
『でも、せんぱいは』
【主人公】
「ん?」
【MEIKO】
『…せんぱいは、“聞いて”くれるんですよね?』
【主人公】
「………視界に入ったらな」
【MEIKO】
『えへへへ…』
【主人公】
「…はじめるぞ」
【MEIKO】
『はいっ』

    ;<暗転>
そして、俺のピアノとともに“歌う”…そんな日常。

オーナーと二人きりだった生活に
MEIKOが入ってきた日常…
穏やかでにぎやかな日常。

それがだんだん当たり前になってきていた。
まるで、最初から三人で生活していたように。

………
――次の店休日がやってきた。







//################################################
//################################################

**二章 後編

        ;<背景:店内,立ち絵:MEIKO,オーナー>
【オーナー】
「動物園ね!」
【主人公】
「…は?」
【MEIKO】
『??』
【オーナー】
「明日は動物園に行くしかないわっ!!
それはもう動物園日和よ!!
朝からおべんと作って動物園に行くわよっ!!」
【主人公】
「…すいません。
今週こそ寝休日でありたいので、こいつだけを連れて行って」
【MEIKO】
『えぇっ!せんぱいっ!!あんまりですよぅ』
【オーナー】
「あんたたち…従業員がオーナーに逆らっていいと思ってるの?」
【主人公】
「………」
【MEIKO】
『………』

        ;<背景:黒,立ち絵:消える>
うちの経営者は相変わらず横暴だった。
組合とか作ったほうがいいかもしれない。…組合員二人だけど。

        ;<背景:動物園,立ち絵:MEIKO,オーナー>
【オーナー】
「ふぅ…やっぱり、動物園はいいわぁ…心洗われるわねぇ」
【主人公】
「…眠いです」
【MEIKO】
『どーぶつえんってはじめてだから、たのしみです』
【オーナー】
「うんうん。メーコちゃんはいい反応っぽいわねぇ」
【主人公】
「…雰囲気で会話できるオーナーはすごいと思います」
【オーナー】
「さあて、やっぱり動物園といえばキリンよねっ!!」
【主人公】
「いや、あんた…なんでそんなにテンション高いんですか…」

…ちなみに、店長は動物園マニアだ。
月に数回突発的に動物園めぐりを敢行する。
店休日かんけいなく…。
そして当然のように従業員を巻き込む。

【MEIKO】
『パンダ…見てみたいです』
【オーナー】
「そうねっ!!わかってるわねぇ、メーコちゃんは、やっぱりキリンよねっ!!」
【MEIKO】
『いえ、そのパンダ』
【オーナー】
「うんうんっ…あのツノの謎は永遠のクエッションよね~」

会話が成立していなかった。

【主人公】
「オーナー」
【オーナー】
「なに?」
【主人公】
「俺たち、パンダ見てくるから」
【オーナー】
「…なにそれ、別行動?
でも残念ねっ!メーコちゃんはキリン派よっ!!」
【MEIKO】
『あ、あの』


“パンダみたいです”
【主人公】
「…というわけで」
【オーナー】
「うぅ………なによっ!!ふんっだ!!
勝手にデートでも何でもすればいいじゃないっ!!」
【主人公】
「…小学生か、あんたは」

            ;<立ち絵:オーナー去る>
捨て台詞を吐いて、行ってしまった。
ちょっと泣きそうに見えたような気もするけど、そんなはずないわけだから
そういう可能性を考えるべきじゃない…って俺も何考えてるんだか。

【MEIKO】
『いいんでしょうか?』
【主人公】
「…とりあえず、パンダ見て、昼メシどきくらいに合流すればいいだろ」
【MEIKO】
『はぁ…』
【主人公】
「こっちが弁当持ってるんだし、腹が減ったらメールで連絡してくるだろ」
【MEIKO】
『…そうですか?』
【主人公】
「ああ」
        ;<暗転>


        ;<背景:動物園(檻前),立ち絵:MEIKO>
【MEIKO】
『これが…パンダ』
【主人公】
「ああ…」
【MEIKO】
『………せなかしか見せてくれないです』
【主人公】
「ああ…」
【MEIKO】
『えっと』
【主人公】
「これが、パンダだ」
【MEIKO】
『…笹とかもってくるべきでしたか?』
【主人公】
「いや、あいつらは餌に釣られるようなケモノじゃない」
【MEIKO】
『そうなんですか?』
【主人公】
「ああ、気高い生き物だからな」
【MEIKO】
『へぇ~』

    ;<暗転>


    ;<背景:動物園,立ち絵:MEIKO>
さっきから、他の客がみんな一方向に駆け出している。
なんだろう?

【主人公】
「妙に人があわただしいな…」
【MEIKO】
『あ、さっきアナウンスでイベントがあるって言ってましたから
みなさんそれに行ってるんじゃないでしょうか?』
【主人公】
「…何のイベントだ?」
【MEIKO】
『えっとたしか、
“ライオンのトーマスくんとカピバラのジェラルドくんとの仲良くケンカしまショー”
っていう』
【主人公】
「…行くぞ」
【MEIKO】
『え?でも、あと5分くらいで始まっちゃいますよ?』
【主人公】
「走るぞ?」
【MEIKO】
『え、待ってくださ…きゃっ』
【主人公】
「ん?」
【MEIKO】
『…走るのニガテなんです』

…なぜか走り出してもないのに転んでいた。
運動性能も低いらしい…。このロボットって…。

【MEIKO】
『…うぅ、どうせ、どうせどうせ…わたしは』
【主人公】
「…ほら、つかまれ」
【MEIKO】
『え?』
【主人公】
「いいから、早く!時間が無いっ!!」
【MEIKO】
『はいっ!!』

MEIKOの手をとって走り出す。
やばい…今から行ってもポジションが…
しかし、行かないわけにはいかないっ!

    ;<暗転>


    ;<背景:動物園(檻前),立ち絵:オーナー>
【オーナー】
「遅いわよーふたりともー」
【主人公】
「あ、オーナー」
【MEIKO】
『………』
【オーナー】
「ちゃあんと席とっておいたから」

さすがオーナーだ…。
動物園でのオーナーの動きには感心させられる。

【オーナー】
「って…ふぅん、仲のよろしいことで」
【主人公】
「は?…なにが」
【MEIKO】
『………』
【主人公】
「………」

走ってきたまま…手をつないだままだった。

【MEIKO】
『…えと』
【主人公】
「…悪い」

手を離す。

    ;<立ち絵:MEIKO>
【オーナー】
「手ぇ、つないだまま見ててもいいわよぉ?
…バカップル」
【主人公】
「ち、ちがいま…」
【MEIKO】
『あ、あの、すいません』
【オーナー】
「さ、始まるわよ、バカップル」
【主人公】
「………」
【MEIKO】
『………』


なぜかオーナーの視線が冷ややかだった。

    ;<暗転>


    ;<背景:動物園,立ち絵:MEIKO,オーナー>
【MEIKO】
『かわいかったですね~』
【オーナー】
「うん、血沸き肉踊る感じだったわね~」
【主人公】
「あのショーにそんな感想を抱けるのはあんたらだけです」

ショーの内容はとっても赤かった…
しかし、また見たいと思わせるあのショーを考案者はもはや人間じゃない気がした。

【オーナー】
「そろそろ、お昼にしましょう」
【MEIKO】
『はい』

    ;<暗転>


    ;<背景,立ち絵戻す>
持ってきた弁当を広げていく。

【主人公】
「…わりと、マジメに作ってたんですね」
【オーナー】
「お前、食うな」

褒めたつもりだったのに…

【MEIKO】
『おいしそうですねぇ』
【オーナー】
「メーコちゃんは素直でかわいいわねぇ」
【主人公】
「すいません…ごめんなさい…」
【MEIKO】
『あ…』
【主人公】
「ん?どうした?」
【オーナー】
「あ、私のケータイよ………先に、食べてて」
    ;<立ち絵:オーナー去る>

【MEIKO】
『どうしたんでしょう?』
【主人公】
「…先に食ってよう」
【MEIKO】
『え?でもでも』
【主人公】
「………」
【MEIKO】
『はい…』

…オーナーの携帯が鳴ることは少ない。
単純にかけてくる人間が限られるからである。
おそらく…オーナーの様子から
発信者はオーナーの身内の誰かなんだろうなと思う。

    ;<暗転>


    ;<背景:動物園,立ち絵:MEIKO,オーナー>
【オーナー】
「え?今?………わかったわ。たぶん50分くらいで着くから。
着かなかったら事故に遭って死んだとでも思って…はいはい、切るわよ」

【主人公】
「…オーナー?」
【オーナー】
「ごめんね。ちょっとヤボな用事が入っちゃった」
【主人公】
「…そうですか。じゃあ今日はお開きってことで」
【オーナー】
「せっかくだから、まだ全部見回ってないでしょ?
…二人で楽しんでらっしゃい」
【MEIKO】
『え…でも』
【主人公】
「…でも、オーナー、今の電話」
【オーナー】
「うるさいわねぇ…従業員の気にする話じゃないわよ」
【MEIKO】
『………ぅ』

電話の内容は、楽しいものではなかったのだろう。
そう親しくない者からの連絡だったのかもしれない。
オーナーにもいろいろあるんだと思う。

【主人公】
「…夕飯までには戻ります」
【オーナー】
「そ、私もそれくらいには帰ってるから
先に着いた方がゴハン作っとくってことで」
【主人公】
「わかりました」

    ;<立ち絵:オーナー去る>
身内からの連絡か…そういうものには少し憧れがあった。
でも、オーナーにとっては不快極まりないものなのかもしれない。

そして、ここから先は関われない。
俺とオーナーの関係は労働者と使用者であり、それ以上は踏み込まない。
それが適切な距離。
この3年間で俺とオーナーが落ち着いた心地の良い距離だから…

    ;<暗転>


    ;<背景:動物園,立ち絵:MEIKO>
【MEIKO】
『いいんですか?』
【主人公】
「さあて、オーナーおススメのキリンでも見にいくか」
【MEIKO】
『あの』
【主人公】
「…いいんだと思う。たぶん、関わってほしくないんだ。オーナーも」
【MEIKO】
『オーナーさん、も?』

なんとなく、そんな気がする。
俺と同じような…違うのかもしれないけど。

【主人公】
「…だから、暇つぶしだ。今日中に全部まわるぞ」
【MEIKO】
『…はい………って全部ですかっ!?』
【主人公】
「走れっ!!」
【MEIKO】
『あっ………はいっ…』

そう言って、彼女の手をとる。
時間から言ったら、走る必要なんて無いかもしれないけど。
もしかしたら、自分以外の誰かに触れたかっただけなのかもしれない。

    ;<暗転>
………

有言実行…とカッコよくいっても仕方ないが
その日のうちに、全動物を制覇した。

    ;<背景,立ち絵戻す>
【MEIKO】
『日がくれそうです』
【主人公】
「そろそろ帰るか…」

二人とも疲れきっていた…。

【MEIKO】
『?………あの、あれって、人が乗れるんですか?』
【主人公】
「あ、ああ」
【MEIKO】
『…乗ってみたいって、言ってもいいですか?』
【主人公】
「………まぁ、いいけど」

    ;<背景:黒>

彼女が指をさした先には、動物園の池のほとり
周りのビルと比べても小さい
本当に小さい観覧車があった。

    ;<暗転>


    ;<背景:CG02(観覧車内,夕陽色に染まるMEIKO)>
【MEIKO】
『うわっうわわわわっ』
【主人公】
「…いや、おい」
【MEIKO】
『すごいですっ!!高いです!!』
【主人公】
「隣のビルの方が高い…」
【MEIKO】
『ゾウさんがあんなにも小さく!!』
【主人公】
「そりゃ、人間もあんなに小さくなってるし」
【MEIKO】
『夕陽がきれいですよ!!』
【主人公】
「いつだって夕陽はきれいだ」
【MEIKO】
『ぅ』
【主人公】
「?」
【MEIKO】
『…ちょっと、いやなかんじです』
【主人公】
「そうか?…少しは静かにしてもいいと思うぞ」
【MEIKO】
『うぅ…』

静かになった。まぁ…最初から静かなんだろうけど。

さっきはああ言ったが、確かに夕陽なんて、ここしばらく眺めてない。
そういえば、こういう暖かい色だったなと思う。

ふと横を見ると、MEIKOも同じように夕陽に見入っていた。
短くそろえた髪、大きな瞳、すこし薄い唇、
夕陽を浴びてオレンジがかったその顔は、素直に…

【主人公】
「…きれい、だな」
【MEIKO】
『そうですね…きれいです』

ここで、「おまえのことだ」とかいうような男でなくて良かった
ほんとうによかった…
と我ながら思う。

【MEIKO】
『あの、せんぱい』
【主人公】
「…なんだ」
【MEIKO】
『楽しい…ですよね?』
【主人公】
「…そうだな」

いろいろあったけど…全部ひっくるめて
楽しい一日だったと思う。

【MEIKO】
『よかったぁ…』
【主人公】
「なにが?」
【MEIKO】
『…楽しいって言ってもらえて』
【主人公】
「…お前は?楽しかった?」
【MEIKO】
『…ずっと、ずっとこんな日がつづくといいなぁっておもいます』
【主人公】
「…そうだな」

観覧車を降りたとき、もうほとんど日が暮れていた。

    ;<暗転>
………

    ;<背景:店内,立ち絵:オーナー>
その晩、俺たちが帰ったときにオーナーの姿はなく、
メールを送っても返信がなかった。

【オーナー】
「あれ?明かりつけっぱな~?…ういっく…」
【主人公】
「…遅かったですね…って飲んでます?」
【オーナー】
「…あんたか。ただいま。
ちょっとね~ほろ酔い気分~」
【主人公】
「おかえりなさい。
こんな時間まで帰ってこないと思ったら」
【オーナー】
「もしかして、待っててくれたとか?心配して?」
【主人公】
「………んなわけないでしょう?」

待っていたわけじゃない。
午前2時をまわったところだけど、いつもの感覚で寝られなかっただけだ。
決して、夕飯までに帰ってこなかったオーナーが心配だったわけじゃない。

…誰にいいわけしてるんだか。

【オーナー】
「あははっ…そだよねそんなわけないよねぇ………ね?ちょっと飲まない?」
【主人公】
「は?」
【オーナー】
「いいじゃん。ね?飲もうよ~」
【主人公】
「いやです。あんたの酒癖の悪さは身にしみてますから」
【オーナー】
「だって、メーコちゃん寝ちゃってるでしょ?」
【主人公】
「俺だってもう寝ます」
【オーナー】
「ひとりで飲むのつまんないし~」
【主人公】
「じゃあ、飲まなきゃいいでしょ」
【オーナー】
「酔っておしり触ってもいいから~」
【主人公】
「…けっこうです」
【オーナー】
「…じゃあ、ムネ?おっぱいがいいの?」
【主人公】
「おやすみなさい、オーナー。
早く寝ないと、明日きついですよ」
【オーナー】
「む…店長命令よっ!つきいあなさいっ!!」
【主人公】
「今は勤務時間外ですから」
【オーナー】
「…うぅ」
【主人公】
「………まだ何か?」
【オーナー】
「…ふ、ふんっ………いいもんっ!
…ひとりでさみしくちびちびのむから…ひとりで…」

…この人は、わかっててこういうことを言うんだろうか。
そういう言いかたされたら、俺が断れるわけないのに。

【主人公】
「………はぁっ」
【オーナー】
「さっさと寝てきたら?明日つらいわよ?…うぃっく…」
【主人公】
「…3時までですよ?」
【オーナー】
「…いいの?」
【主人公】
「あと1時間ないですけど」
【オーナー】
「………無理してつきあってくれなくても、
さっき店長命令って言ったの冗談だし」

だからそういう弱いとこ見せるなって…

【主人公】
「…俺もちょっと飲みたくなったんです」
【オーナー】
「でも」
【主人公】
「…ひとの厚意は素直に受けとってください」
【オーナー】
「コウイ?」
【主人公】
「厚意です」
【オーナー】
「………コウイねぇ…ふーん」
【主人公】
「な、なんです?」
【オーナー】
「よっしゃー、駆けつけ三杯っ!!」
【主人公】
「…どこの体育会系だ、あんたは…
ってウィスキーをその濃度で飲めるわけないでしょっ!!」
【オーナー】
「駆けつけ三杯~。飲めないんなら…口移しで飲ませちゃうぞ~」
【主人公】
「この酔っ払いっ!!」


    ;<暗転>


    ;<背景:店内,立ち絵:MEIKO>
【MEIKO】
『?…おはようござい………ま゛?!』
【オーナー】
「………う゛~」
【主人公】
「………あ゛~」

なんだかんだで朝まで付き合わされた…
二日酔い…やばい…

    ;<暗転>
………
こうして、休日が…俺たちの日常が終わった。

    ;<独白モード>
その夜のことだった。

いつものようにピアノを弾いていた。
違ったのは、仕事がほとんどなくなり暇になったMEIKOが
ピアノのそばにいたことくらい。

ピアノを弾くといつものようにMEIKOは“歌った”。
この日は、本当に何となく、ピアノを彼女に合わせてみた。
俺の耳は聞こえないし、あいつは声だって出せない。

だから、ほんの自己満足だった。

彼女の声を想像して、彼女のために音を奏でてみた。

そして、今晩、最後の曲を弾き始めたとき…

俺はいつもどおりだったと思う。
ただ、客の反応が違った。
そして…目の前にいるMEIKOが明らかに違った。


    ;<背景:(CG03,歌うMEIKO)or 背景:店内,立ち絵:MEIKO>
声が響いていた。
圧倒的な声量が、音ではなく振動として、俺に『歌』を伝えた。
ああ、これが、ボーカロイドか。

カウンターに座ってる客は振り返り、
テーブルで毎晩酔って管を巻いている連中も大人しく耳を傾けた。

歌っていた。
感じられた。この距離ならば。
…本当に楽しそうに歌っていた。

演奏が終わって、静けさが残った。

天使が通り過ぎたあとなのだとしたら、
きっとマラソン大会でもやっていたんじゃないかっていうほど
店は静まり返っていた。


    ;<ウィンドウモード>
    ;<背景:店内,立ち絵:MEIKO,オーナー>
が、そんな静けさが支配し続ける店であるわけでもなく

【佐々木】
「アンコールっ!!」
【オーナー】
「アンコールっ!!」

そして、客達からアンコールの合唱…たぶんそうだろう。

【MEIKO】
「せ、せんぱいっ!ど、どうしましょうっどうしましょうっ!?」
【主人公】
「…アンコールには答えないとな」
【MEIKO】
「あ、…はいっ!!」
【主人公】
「あと2曲だけですよっ!!」

【客】「「「「おーーう!!」」」」

結果、さらなるアンコールとオーナー命令によって
その後30分弾き続け、歌い続けた。

    ;<暗転>


彼女の歌は店に響き渡り、彼女は声を取り戻した。
オーナーと客達は彼女の歌を褒めちぎった。

でも、彼女の歌声は、俺にだけは絶対に届かない。

それが、なぜか心に刺さった。

なぜ?
聞きたいから?
歌を?彼女の声を?

…わからなかった。


………

   
そして、朝の空気が寒さを忘れたころ
MEIKOは歌姫として、
この界隈でちょっとした人気者になっていた。





//################################################
//################################################
**三章
    ;モノローグ
    ;<背景:黒,独白モード>
わかっていた

ここになにもないことくらい
自分がなにも持っていないことくらい

わかっていた

どんなに求めても、それはもう手に入らない
手に入ったとしても、それは消えてしまう

わかっていた

手に入らないのならあきらめればいい
必要じゃなかったと思えばいい

わからない

自分はどうしてそれを求めるのか
なにが欲しいのか


A Fairy Tale in the Small Bar
三章『―Songs without Words―』





    ;重なる手
    ;<ウィンドウモード>
むかしのことを思い出すときがある。

街で子どもと手をつなぐ夫婦を見かけたとき
公園で戯れる親子連れを見かけたとき

幸せな親子のテンプレートに沿った日常

そういう憧れだった情景を目にしたとき
意識せず思い出した――

………


    ;<背景:CG03(歌うMEIKO)もしくは背景:店内,立ち絵:MEIKO>
彼女の歌声が響いている。

客達は飲食の手を止め、こちらに目を向ける。
店内は静まり返り、彼女の歌に耳を傾ける。

俺には聞こえないけれど、
聴客の姿を見れば、その歌声の価値もわかる。

オーナーによると、ここのところ売り上げが伸びているらしい。
大したものだと思う。

そんな彼女の歌を聞けないのは残念なことだ。

でも、まぁ…ピアノが弾ければそれでいいかと思う。
ピアノを弾くことができれば満足だし、聞けないものはしょうがない。
鍵盤に触れて、音を奏でる…真似ができれば、それでいいと思っていた。





    ;<背景:店内,立ち絵:MEIKO>
【MEIKO】
「あ、あの」
【主人公】
「ん?どうした?」
【MEIKO】
「調律、しませんか?…ピアノ、その」

演奏が終わってしばらくして、彼女はそんなことを言い出した。

【主人公】
「必要ない」
【MEIKO】
「で、でもでもっ」
【主人公】
「こないだ話したろ?必要ないんだ」
【MEIKO】
「で、でもですね、せっかくなんだから」
【主人公】
「だいたい調律すんのにいくらかかると」

    ;<立ち絵:オーナー>
【オーナー】
「そんなにしないわよ?
それに、最近売り上げ伸びてきたし。先行投資とでも思えば」
【主人公】
「…それでも必要ないだろう。客が聞いてるのはおまえの歌声だ」
【MEIKO】
「そ、そんなこと」
【オーナー】
「いいのよ~拗ねてるだけなんだから。
それにね、嫌がるのは調律して自分がホントに下手だってバレるのが怖いからよ」
【主人公】
「………」
【MEIKO】
「…そうなんですか?」
【主人公】
「…そうだ。だから、勘弁してやってくれ」
【オーナー】
「あら、素直」
【MEIKO】
「………」
【主人公】
「さて、とっとと片づけを」
【MEIKO】
「…ぃやです」
【オーナー】
「え?メーコちゃん?」
【MEIKO】
「…かんべん、してあげません。
あんなに、キレイな音なのにもったいないです」
【主人公】
「………」
【MEIKO】
「いいじゃないですか、へたでも。
それにオリジナルの曲しかひかないんだったら
調律してもしなくてもいっしょですよね?」
【主人公】
「…おまえ」
【MEIKO】
「あ…え…あ、あの、すいませんっ!!ごめんなさいっ!!
わたしなんかが…えらそうなこと…すいませんっ!!」
【主人公】
「いや…」
【オーナー】
「そうよねぇ…お客さんも“どうせ”メーコちゃんの歌しか聴いてないんだし~。
調律してもしなくても一緒よね?」
【主人公】
「………」
【MEIKO】
「あ、あの」
【主人公】
「…わかった」
【オーナー】
「あら、素直」
【主人公】
「………」
【MEIKO】
「あ、あはははは…」


調律か…。
まぁ、いいか…。
    ;<暗転>
………


    ;<背景:黒>
次の日、MEIKOとピアノを調律することにした。

今まで、何度となくピアノの調律を見ていたし、ピアノの構造は理解してるし。
耳は、MEIKOがいるし。
できそうな“気”がした。

簡単そうだし…と思ったのが、間違いだった。

    ;<背景:店内(ピアノ?),立ち絵:MEIKO>
まず…低音域から。弦一本だし。
チューニングピンを回して弦を引っぱる。鍵盤を叩く。

【MEIKO】
「…そうです。あともうちょっと高くです」

さらにピンを回す。鍵盤を叩く。

【主人公】
「…これくらい?」
【MEIKO】
「…もうすこし高く」

さらにさらにピンを回す。鍵盤を叩く。

【主人公】
「…こんなもん?」
【MEIKO】
「…もうすこし、です」
【主人公】
「………」

もうちょっと、思い切って回してもいいのかも…
よし、ぐいっといくか!ぐいっと!!

【主人公】
「あ」
【MEIKO】
「え?きゃっ!!」

妙に軽くなったと思ったら、弦が切れたらしい。
はねるピアノ線にMEIKOが驚いて…


    ;<背景:CG04(重なった手①)>


【MEIKO】
「あ、すいません…」
【主人公】
「いや…」

どういう状況なのか…その手が俺の手に重ねられていた。
相変わらず、人間みたいな手だと思う。本物の女性の手と変わらない。

        ;<暗転>


白鍵みたいな指…



【MEIKO】
「あ、あの」
【主人公】
「ん?」
【MEIKO】
「その、手、なんですけど」
【主人公】
「…ああ」

いつのまにか握ってしまっていたらしい。
白くて、ちょっと冷たい手。

【主人公】
「…悪い」
【MEIKO】
「…い、いえいえっ、とんでもないっ」

手を離す。

    ;<背景:店内,立ち絵:MEIKO>


重ねられた手、重なった手と手。

【MEIKO】
「や、やっぱり、あのちゃんとした調律師の方にまかせたほうが」
【主人公】
「ああ、そうだな」

頭の中がぼんやりする。
手、つながれた手。
赤い手と手。

【MEIKO】
「…あの」
【主人公】
「ん?」
【MEIKO】
「だいじょうぶですか?」

…なんか俺、心配されるようなことしたっけ?

【主人公】
「…なにが?」
【MEIKO】
「あの、ちょっと、なにか…その…お辛そうです」
【主人公】
「つらそう?」
【MEIKO】
「はい…。どうしました?
その、わたし…なにか、また失敗しちゃいました?」
【主人公】
「…そういうわけじゃ、なくて…ただちょっと」
【MEIKO】
「…ちょっと?」
【主人公】
「むかしのこと、思い出しただけだから」
【MEIKO】
「…そう、なんですか?」
【主人公】
「ああ、だから、気にしなくていい」
【MEIKO】
「…そうですか」
【主人公】
「あぁ」


そう、昔のこと。
あの手と手。もう忘れるつもりだった。
…忘れたいことほど忘れられない。



    ;<暗転>
    ;<背景:黒,独白モード>





重なった手をみて思い出したのは
父さんの左手だった。

昔ウチにあった車は、オートマじゃなくてミッションで
ギアをぐりぐり動かしていたのを覚えてる。

楽しそうに見えて、一度こっそり触ってみた。
動かなかった。
クラッチとかそういうのわからなかったから。

ただ、父さんはすごいって思ってた。

    ;<背景:CG04(重なった手②)>


三人で出かけるときはいつも、
父さんの左手は母さんの右手とつながっていた。
俺は、彼らの空いている方の手か、服の裾をそっと握っていた。
そうしないと、たちまち置いていかれてしまうから。

そういうものだって思ってた。
彼らは二人で完結していたし。俺は付属品みたいなものだった。

食事のとき、自分は箸置きで、二人がお箸なんだなと子供心に思った。
いただきますしたら、忘れられる、要らなくなる…そんな自分。

自分はそういうものなんだってあきらめてた。

でも、幼稚園だったか、親子遠足の昼食のとき
周りの親子が一つのシートに腰を下ろしているのを見て
少し羨ましかったのを覚えてる。

嫌われていたんじゃないと思う。
ただ、興味を持ってもらえなかった。
それだけのこと。

二人が死んだのは、大学三年の冬。
久しぶりに帰省して三人で出かけたとき。
出かけた理由は…忘れた。

覚えているのは
二人が昔と変わらず、ずっと手をつないでいたこと。

トラックが目の前を通り過ぎたこと。


目の前にいた二人がいなくなったこと。

    ;<背景:CG04(重なった手③)>


十数メートルはなれたところで見つかった
二人の手が赤く染まっていたこと。

それでも、二人の手がつながれたままだったこと。

いつか、間に入れるんじゃないかって
父さんの左手が俺の右手に
母さんの右手が俺の左手に
つながれるときが来るんじゃないかって思っていたのかもしれない。

もう一生そんなことはないんだって、
自分は一人のままなんだって思い知った。



    ;<ウィンドウモード>
    ;<背景:店内,立ち絵:MEIKO>





【MEIKO】
「せんぱい?」
【主人公】
「あ、ああ」

…また、ぼぉっとしていたらしい。
どうしたんだ今日の俺。

【MEIKO】
「…えと」
【主人公】
「そうだな業者に頼もう…参ったなぁ…
あれ、弦って一本いくらくらいするっけ?」

…忘れてしまおう。それが一番いい。
あいつらのことなんか…忘れて…ひとりで


【MEIKO】
「…さみしい、ですか?……かなしい、ですか?」
【主人公】
「………なんで」
【MEIKO】
「そう、見えます」
【主人公】
「………」
【MEIKO】
「ちょっと、いいですか?」
【主人公】
「え」

    ;<背景:CG04(重ねられた手①)>


手を重ねられていた。
少し冷たい手が、なぜか暖かく感じられる。

見透かされていた。
…恥ずかしいさに似た感情がこみあげる。

【MEIKO】
「…ひとりは、さみしいですよね」
【主人公】
「………」
【MEIKO】
「だいじょうぶですよ。わたしもオーナーさんもいます」
【主人公】
「…ああ」
【MEIKO】
「もう…ひとりじゃありません。わたしたち」
【主人公】
「…そう、だな」
【MEIKO】
「はい」

    ;<暗転>


さみしかった、んだろうか。ずっと。俺は。
…ちがう。さみしくなんかない。
………さみしいはずがない。

ずっとひとりだったんだから、さみしさなんてない。
でも、彼女の手をいつまでも振りほどけなかったのは
嬉しかったから。

恥ずかしいよりも…嬉しかった。たぶん。
自分が否定したい感情さえも理解してもらえて。
…嬉しかったんだ、俺は。



    ;<背景:店内,立ち絵:MEIKO、オーナー>






【オーナー】
「なに乳くり合ってんのよ?」
【MEIKO】
「ちちっ?!」
【主人公】
「…いつから見てました?」
【オーナー】
「………調律おわったの?」
【主人公】
「えっとですね。我々の力では無理っぽいので業者さんに頼もうかと…
あの、それで…いつからそこに」
【オーナー】
「そう…それじゃ、あんた業者に連絡しなさい…今すぐ」
【主人公】
「え?」
【オーナー】
「………メーコちゃん、今から厨房の模様替えするから」
【MEIKO】
「えぇっ?!」
【主人公】
「模様替えって、あんた…」
【オーナー】
「なに?なにか文句あるわけ?」
【主人公】
「…ありませんっ!」
【MEIKO】
「…ないですっ!」

連絡してすぐ調律師さんがやってきて、ピアノはその日のうちに調律を終えた。
一方、厨房では謎の模様替えがおこなわれていたようで…
その間、なぜかオーナーは機嫌が悪かった。



        ;<暗転>




………

その日の晩

    ;<背景:店内,立ち絵:MEIKO>




【MEIKO】
「…よ…っと」
【佐々木】
「おー泡ぴったり1センチ…メイコちゃんビール注ぐのうまいねぇ」
【MEIKO】
「はい。オーナーさんに鍛えてもらいました」
【佐々木】
「おー確かに嬢ちゃんも上手かったなぁ…んぐんぐっ………ぷはぁっ…
やっぱ若い娘に注いでもらうとビールも味が違うなぁ」
【MEIKO】
「そ、そうですか?えへへ…あ、お注ぎしますね」
【佐々木】
「え?ああ…んぐんぐっ…………ぷはぁ」


    ;<暗転?もしくは横方向にスライドするような?>
    ;<背景:店内,立ち絵:オーナー>


【主人公】
「へぇ…」
【オーナー】
「どう?上手くなったでしょ?
最近、お客さんの評判もいいわよ。
私の特訓のたまものね~」

きっと地獄のような特訓があったんだろうなぁ…

        ;<暗転>





自分のほろ苦い経験を思い出す…
あれは…まだそう店に来て間もない頃

    ;<セピアっぽくなる>
    ;<背景:店内,立ち絵:オーナー>






【主人公】
「あ、あのオーナー、ピアノの位置…」
【オーナー】
「…なに?聞こえない?」

…何を言ってるのかわからないが、耳に手を当ててるし
たぶん声が小さかったのかも?

【主人公】
「オーナー!!ピアノの!!」
【オーナー】
「うるさいっ!!」

ゴス
    ;<画面振動>


【主人公】
「な?」

カカトで思い切り蹴られる。
当時の俺は聞こえなくなったばかりで、唇が読めるはずもなく…

【オーナー】
「もうちょっとボリューム調節しなさいっ!」
【主人公】
「は?」
【オーナー】
「くぅっ!…」



“声の大きさ ちょうせつ うるさい!!”

オーナーとの会話も筆談でおこなっていた。

【主人公】
「いや、できるわけないだろっ…耳聞こえないんだしっ」
【オーナー】
「できるできないじゃないっ!するのよっ!」
【主人公】
「何言ってんのかわかんねー!!」
【オーナー】
「だから、うるさいっ!!」

ゴス

    ;<画面振動>



【主人公】
「ふぐぅ…」

        ;<暗転>


声が大きい、小さいと言われては蹴られて…

………

また、あるとき…

    ;<背景:店内,立ち絵:オーナー>




【オーナー】
「うちのオーナーは美人」
【主人公】
「………?」
【オーナー】
「うちの、おーなーは、びじん」
【主人公】
「うりの?ろーたーは?びぎん?」
【オーナー】
「………」
【主人公】
「瓜のローター?」
【オーナー】
「…う!ち!の!…お!お!な!あ!は!」
【主人公】
「…くにお?ころなぁら?」
【オーナー】
「~~~っ!!」

ゴス

    ;<画面振動>



【主人公】
「ふぐぅ…なにを…」
【オーナー】
「あんたマジメにやりなさいよねっ!」
【主人公】
「は?」
【オーナー】
「唇くらいさくっと読めなくてどーするのっ!!
そんなんでウチのウェイターが務まると」
【主人公】
「いや、何言ってるか…わからん」
【オーナー】
「ていうか、敬語使いなさいよねっ!


あんた従業員のくせに何様のつもりよっ!!


敬意を払いなさいっ!!敬意を!!」


    ;<画面振動×3>
        ;<暗転>

読唇術の勉強を始めてすぐに、いきなり実践できなくて蹴られ…
………



    ;<セピア終わり>
    ;<背景:店内,立ち絵:オーナー>





いろんなことがあったなぁ…ていうか蹴られてばっかじゃん、俺…

【オーナー】
「どしたの?」
【主人公】
「いいえ。
ちょっと昔の…ここに来たばっかりの頃を思い出しただけです」
【オーナー】
「あ~懐かしいわね~。あの頃って、二人ともまだ仕事に慣れてなくって」
【主人公】
「…そうですね」
【オーナー】
「あの頃、あんたナマイキで人の料理にケチつけてくるし」
【主人公】
「…砂糖と塩が大量に違ってたら、何か言いたくもなります」
【オーナー】
「………今でもナマイキね。ていうか、あんたがまともに働けるのって
私のおかげよ?全部。読唇術覚えるのも付き合ってあげたし
ウェイターのやり方教えてあげたし。感謝足りてないんじゃない?」

たしかにオーナーのおかげだろう…たしかに…感謝もしてる…
しかし、双方の主観的な歴史には大きな隔たりがあって…

【主人公】
「…そうですね」
【オーナー】
「なに?その微妙な表情」

…これ以上話を続けても悲劇的な結果を迎えそうだったので
話題を転換させよう。

【主人公】
「皿洗いさせとくのがもったいないですね…あいつ」
【オーナー】
「……そうね。…売上も上がるんじゃないかしら、ほら」
【主人公】
「え?」

        ;<暗転?もしくは横方向にスライドするような?>


    ;<背景:店内,立ち絵:MEIKO>




【佐々木】
「んぐっ…んぐ………ぐ………ぷはぁ…はぁ…はぁっ…」
【MEIKO】
「おつぎしますねー」
【佐々木】
「まって…まって…あと五分…休憩…」
【MEIKO】
「わかりましたー。5分後にまた来ますねー」


        ;<暗転?もしくは横方向にスライドするような?>
    ;<背景:店内,立ち絵:オーナー>




【主人公】
「………」
【オーナー】
「ね?」
【主人公】
「いや…佐々木さん…なんかもう顔青いですよ?まっさおですよ?」
【オーナー】
「………まぁ、そういうこともあるわよ」
【主人公】
「………」

今夜、珍しくも佐々木さんは早々と帰っていった…。
ちょっと気の毒だった。

        ;<暗転>




オーナーから料理を受け取って、フロアを眺めると
MEIKOが今度は酔っ払いに絡まれていた。
髪が異様に長い…この店では珍しい女の客だ。



    ;<背景:店内,立ち絵:MEIKO>




【MEIKO】
「あ、あの、お客さん」
【酔っ払い客】
「いいんです…どーせ…私にはむいてないんです」
【MEIKO】
「そんなこと…」
【酔っ払い客】
「…どーせ私にはもともとDTMの才能なんてなかったんですよ…最初から
…ああいうの、やっぱり、生まれつきの才能なんですよ…」
【MEIKO】
「で、でも」
【酔っ払い客】
「すいません…あのアルコール…なんでもいいから酔えるの、下さい」
【MEIKO】
「の、飲みすぎは」
【主人公】
「おい、そろそろ始めるぞ」
【MEIKO】
「あ、はい………あ、あの…元気だして下さいね」



【主人公】
「…ああいう酔っ払いは、相手にしなくていいぞ」
【MEIKO】
「でも」
【主人公】
「ただ構ってほしい、慰めてほしいだけなんだから」
【MEIKO】
「でも、それで、あの人が、私がかまったりすることで、
このお店にきてよかったって思ってくれるなら…」
【主人公】
「はぁ…、お前な」
【MEIKO】
「あ、あの…今日は一曲目、あの人のために歌いたいんですけど」
【主人公】
「…好きにしろ」

…誰かのために歌う。それに何の意味があるのか。
わからない。




    ;<独白モード>
    ;<背景CG03(歌うMEIKO)or 背景:店内,立ち絵:MEIKO,オーナー>




いつものように鍵盤を叩く。

視線は彼女の表情に。…楽しそうだ。
ピアノが奏でる音を、彼女が響かせる声を想像しながら、鍵盤に指を落とす。

先ほどの酔っ払い客もグラスを傾けながら歌を聴いている。
やさぐれていた目は、どこか安らいで、表情も柔らかいものになっている。

安らぎ、癒し…彼女の歌声にはそういった印象があるらしい。
そういう感想は常連客がよく口にするし
実際、来店した客のほとんどが、安らいだ表情で店を出て行く。

満たされていた。
彼女とつながっていられるような気がして。
その声が聞こえなくても…それでもよかった。

ピアノを弾き続けた。


そして、今日も閉店時間ギリギリまで、演奏を続けた。
………

    ;<暗転>






    ;<ウィンドウモード>
閉店間際、片づけをしていると
店から出て行く客の流れに逆らって、入ってくる男がいた。

    ;<背景:店内,立ち絵:マツダ>



【主人公】
「…すいません。そろそろ閉店」
【??】
「いや、構わないよ。探し物しに来ただけだからね。
まぁ、ちょっとした噂を聞いてきただけだから。
…ああ、迷惑なら、ワインの一本でも頼むけど」
【主人公】
「…は、はぁ」

妙な…怪しい客だった。
変な客が集まる店ではあるが…その中でも群を抜いておかしい客だった。
どこかでタイムマシンでも作っているような、漫画や映画に出てきそうな
そう、マッドサイエンティスト的な雰囲気が漂っていた…

    ;<立ち絵:MEIKO>
【MEIKO】
「せんぱいっ、さっきの………!?」
【??】
「…MEIKO、探したよ。本当に可聴域の音が出せるようになったんだね」
【MEIKO】
「………」
【主人公】
「え?」

    ;<立ち絵:オーナー>
【オーナー】
「おーい、従業員どもーサボってないで…って、お客さん?」
【??】
「…貴女は………ふむ、ここに来たのも偶然ではないのかもしれないな。
…それも含めて、今後の計画立案が必要か…やはり、例のプログラムか」

なにを言ってるんだ、こいつは…。

【主人公】
「…あの」
【??】
「ああ、悪いね。
MEIKO、回収して帰りたいのもやまやまなんだが、
まだ受け入れが困難な状況にあってね。まぁ…明日にでも、また来るよ」
【オーナー】
「えっと、どちらさん?」
【??】
「…失礼。
申しおくれました…僕、アルゴン社研究部第二研究室長のマツダといいます。
あ、名刺もってないんです」
【オーナー】
「…はぁ」
【マツダ】
「それでは、やるべきことがありますので」

    ;<マツダ去る>
今のはMEIKOの…?
オーナーのことも知ってたみたいだし…

【主人公】
「………オーナー」
【オーナー】
「なに?」
【主人公】
「お知り合いですか?」
【オーナー】
「うーん…どうだろ?どっかで会ったことがあるような気もしないような?」
【主人公】
「…どうなんです、それ」
【オーナー】
「いや、あんな個性的なやつ忘れないと思うんだけど…あれ?」
【主人公】
「ま、オーナーの記憶力に…」
【オーナー】
「ていうか、聞くならメーコちゃんに聞きなさいよ」
【主人公】
「………」
【MEIKO】
「…えと、あの人は、その、わたしが前いたところの、研究所の人で」
【主人公】
「研究所?」
【MEIKO】
「はい…。歌えなくなっちゃったから、その、出てきちゃったんですけど」
【主人公】
「…歌えるようになって、連れ戻しに来た?」
【MEIKO】
「はい…たぶん」
【主人公】
「…そう、か………じゃあ戻るのか?その研究所に」
【MEIKO】
「…わかりません」
【主人公】
「わからないって…」
【MEIKO】
「………わかり、ません」
【オーナー】
「…メーコちゃんは、どうしたいの?」
【MEIKO】
「え?」
【オーナー】
「帰りたいの?」
【MEIKO】
「………」
【オーナー】
「…それとも、ここにいてくれる?」
【主人公】
「………」
【MEIKO】
「………命令があったら、その、帰らなくちゃいけません。
…わたしは、ボーカロイドなので」
【オーナー】
「…そう」
【主人公】
「………」

    ;<暗転>
MEIKOがいなくなる。

大したことじゃない。

また、オーナーと二人で店をやっていけばいいだけ。

彼女の歌声がなくなってしまえば、客は減ってしまうかもしれない。
まぁ、でも、それも元に…一ヶ月くらい前に戻るだけ。

全然、大したことじゃない。
………
そして夜が明けて
あのうさん臭い男…マツダがやってきた。

    ;<背景:店内,立ち絵:マツダ>
【マツダ】
「昨日言ったとおり、迎えにきたんだけど…不在?」
【主人公】
「帰ってくれ」
【マツダ】
「は?」
【主人公】
「あいつは渡せない」
【マツダ】
「渡せないって、君…ていうか、あれの持ち主は僕なんだけどなぁ。
理由がなにかあるのかな?」

渡せない。だって、あいつは…


    ;<選択肢:A…なんでだろう?>

【主人公】
「………」
【マツダ】
「…まぁいいけど」
【主人公】
「と、とにかく渡せないっ」

;<選択肢:B,店に必要だから?>

【主人公】
「………店に必要だからだ」
【マツダ】
「…店にねぇ」
【主人公】
「…そうだ」



【マツダ】
「ふぅん…そうか。ちょっと話をしようか?」
【主人公】
「なっ」
【マツダ】
「まぁ、いいからいいから、長くなるから座りなよ」
【主人公】
「………」

ここは、あんたの店じゃないんだが…いや、俺のものでもないけどさ。

【マツダ】
「フランツって心理学者がドイツにいてさ、彼が1932年に出した論文で
“不可聴域音の精神作用”というものがあってね、それによると…」
【主人公】
「フカチョーイキオン?」
【マツダ】
「…ああ、可聴域というのは20Hz~20kHz程度の周波数帯のことで
光に可視光と赤外線のような目に見えない波長の光が存在するように」
【主人公】
「は、はぁ…」

いきなり、何の話を…

【マツダ】
「………まぁ、簡単に言うとだ…聞こえない高さの音が人間の精神に
なんらかの影響を与えるかもしれないという内容なんだわ」
【主人公】
「それがなんの…」
【マツダ】
「まぁ、それ以降、この手の研究は心理学のやつらが実験なんかも
やっちゃってくれてるからおそらく確実なんだけどね」
【マツダ】
「ほら、ヒトラーが演説の際、重低音をながしていたり、洗脳の際に
17Hzくらいの音を聞かせたりしてたのは有名でしょ」
【主人公】
「有名…?」
【マツダ】
「で、だ。周波数を選んで特定の音をだせば、ある程度、人間の感情とかが
コントロールできるんじゃないかなっていう研究をしてるわけだ…僕らは」
【主人公】
「へぇ…」
【マツダ】
「まぁ…実際、どの周波数のどんな音を流したら、人がどう反応するかという
共通性のある結果が出てないんだ。個人差があるんだな」
【マツダ】
「そこでだ、個人差があるのなら個人をモニタリングをしながら、
出力する音の周波数などなどetcを変えていけば…」
【主人公】
「………?」
【マツダ】
「つまりだね、対象者の心音、脳波、体温、発汗量などを観測しつつ、
それによって精神状態を推測し、その状況に見合った音を出力するわけだ」
【主人公】
「つまり?」
【マツダ】
「…つまり、落ち込んでるときには、楽しくさせる音を
怒ってるときには、穏やかにさせる音を聞かせちゃおうという…
まぁ、その作用がある音自体は人間には聞こえないんだけどね」
【主人公】
「それが、あいつとなんの関係が」
【マツダ】
「…あれ?わかんない?…あれはね、
今言った機能を取り付けたボーカロイドなんだよ。
人間の精神状態を把握し、状況に適切な音を出力する実験機、ってとこかな」

…精神状態を把握?音を出力する実験機?
そう、あいつは機械。でもあいつは、俺の…
………精神状態を、把握?

    ;<独白モードというか、画面の中央に文字を表示。文字背景は透過した黒?>
『…ひとりは、さみしいですよね』


    ;<ウィンドウモードに戻る>
【マツダ】
「まぁ、そんなこんなを組み込んだら、気がつけば、不可聴域の音しか
出力できなくなっていてね。いや、これは完全に僕のミスでさぁ。
それを解決しようとしてたら、あれ、外に飛び出しちゃってさ」
【主人公】
「………」
【マツダ】
「まぁ、おかげで、何故だか、可聴域の音も出力できるようになってるし、
結果オーライかな、と。
…なぜ可能になったかっていう報告書、書かなきゃなんだけどねぇ」
【主人公】
「…精神状態を把握って?」
【マツダ】
「うん、MEIKOは、対象者のさまざまなデータから、人間の心理や感情…
まぁ、楽しいとか悲しいとかね、そういうのを理解するようにできてる」
【主人公】
「…できてる」
【マツダ】
「そう、そのために、MEIKOには限りなく人間に近づくように人格
…といっていいほどのプログラムが組み込まれてる。
まぁ…これは僕のつくったものじゃないんだけどね」
【主人公】
「………」
【マツダ】
「気づかないことは無かったと思うよ?
あれ、機械のくせに人間の表情や感情に敏感だったりしただろう?」

    ;<画面中央に文字を表示>
『はい。こんな歌かなって…。せんりつはおだやかだけど。
ちょっとさみしいかんじ』
『…さみしい、ですか?…かなしい、ですか?』

『…ひとりは、さみしいですよね』


    ;<ウィンドウモードに戻る>
【マツダ】
「それに、店の客達はあれの歌を“癒される歌”だとか言ってなかったかい?
君は…ああ、そうだったね。
…しかし、不可聴域なら聞こえてるかもしれないな、癒されたりしたかい?」

    ;<背景:(CG03,歌うMEIKO)(セピア色とかになったりしませんか?)>
【主人公】
「………」

    ;<背景:店内,立ち絵:マツダ>
【マツダ】
「まぁ、そういうこと。
君があれのどこに惹かれたのかは知らないが、そういう風につくってあるんだから」
【主人公】
「…つくってある」
【マツダ】
「そうだよ。実際、僕が床を舐めろって言えば、あれは忠実にその通りに動くよ?」
【マツダ】
「まぁ、ピグマリオンコンプレクスって言ってね…人形に恋しちゃうっていうのは、
古い時代からあるもんだから、そう悲観すべきでもないんだけどね」
【主人公】
「………」

    ;<立ち絵:MEIKO>
【MEIKO】
「…せんぱい?………マスター?」
【マツダ】
「まだ、あれが必要かい?
…悪いけど、この機能はこんな酒場で浪費していいもんじゃないんだ」
【主人公】
「………」
【MEIKO】
「せんぱい?」
【マツダ】
「帰るよ、MEIKO」
【MEIKO】
「…せんぱいっ」
【マツダ】
「ふぅっ…命令だ、って言わなきゃわかんないのかなぁ…」
【MEIKO】
「…はい、了解しました。マスター」
【主人公】
「………あ」
【マツダ】
「そうそう、君さ、聞いてたけど、耳聞こえないわりに、それなりの演奏できてて、
まぁ、執念と努力が感じられたよ」
【マツダ】
「難聴のピアニストとして、デビューしてみるのもいいんじゃないかな?
現代のベートーヴェン…いいかもねぇ…うちの会社の支援も入れようか?
あ、彼も君も正確には中途失聴者に分類されるのかな?」
【MEIKO】
「…せんぱい」
【主人公】
「………」
【マツダ】
「…じゃあ、失礼するよ」

    ;<マツダ MEIKO去る>
   
【主人公】
「………」

    ;<暗転>



桜が咲き始めて、春らしくなってきたころ
MEIKOは連れて行かれた。
俺は、それを黙って見ていた。…見ているだけだった。








//################################################
//################################################
**終章A


    ;<背景:黒,独白モード>
彼がピアノを弾かなくなって2週間が経つ。

…彼女が連れて行かれて2週間。

彼の表情に懐かしいものを感じる。
思えば、彼女が店に来て、彼は変わっていたんだろう。

今の彼は、出会った頃の彼を思い出させる。

彼と出会った頃
一人になってしまった頃

…あの頃の自分を思い出させる。



A Fairy Tale in the Small Bar
終章『―Requiem―』


    ;<ウィンドウモード>
    ;<背景:店内>

いつもどおりの店内。混むこともなく。暇でもなく。
…なにも変わらない。

【佐々木】
「兄ちゃん」
【主人公】
「注文ですか?しばらくお待ちくだ」
【佐々木】
「あ、いや、そうじゃなく」
【主人公】
「えっと…お会計?まだ来たばっかり」
【佐々木】
「…最近、ピアノひかねぇな」
【主人公】
「………」

ピアノか…

【佐々木】
「ちょっと聞きたくなってな。
なぁに、メイコちゃんがいなくても、兄ちゃんのピアノだけで」

    ;<立ち絵:オーナー>


【オーナー】
「あ、ごめんね~。今、ピアノちょっと壊れてるのよ~」
【主人公】
「オーナー?」
【佐々木】
「あ、あぁ、そうなんかい」
【オーナー】
「そうなの。オンボロだしね。
修理代が厳しくてね~」
【佐々木】
「…いや、俺はてっきりメイコちゃんに逃げられて…あ」
【オーナー】
「佐々木さんっ………修理代がないのよね~」
【佐々木】
「いや、あのな」
【オーナー】
「…このお酒なんてどう?地酒なんだけど」
【佐々木】
「…あ、いやな、って、高っ!?」
【オーナー】
「………まだ閉店まで結構あるわよ~?」


    ;<暗転>


弾けなかった。
あいつが連れて行かれてから、ピアノを見ることさえイヤになった。

………

閉店後、片付けの前に、オーナーにさっきのことを聞きたかった。

    ;<背景:店内,立ち絵:オーナー>



【主人公】
「オーナー」
【オーナー】
「なに?片付け終わったの?」
【主人公】
「いや、まだですけど」
【オーナー】
「じゃ、とっとと終わらせなさい。こっちだって、まだ洗い物がっ
…くっそぉ…しつこい油汚れめ…」
【主人公】
「…ピアノ、壊れてません」

壊れてないどころか調律したばかり。
…調律してから1度しか弾いてない。

【オーナー】
「…だから?」
【主人公】
「なんで、あんなこと」
【オーナー】
「なにか問題が?」
【主人公】
「………あいつのこと…なんで、なんで責めないんですか?
俺、あいつを行かせた…止めなかったのに」
【オーナー】
「…あのねぇ、従業員」
【主人公】
「は?」
【オーナー】
「私には経営者としての判断があるの。
あんたは黙ってそれに従いなさい」
【主人公】
「…でもっ」
【オーナー】
「従いなさいっ!」
【主人公】
「………オーナーだって、あいつのこと」
【オーナー】
「いいから従えってんだろうがっ」
【主人公】
「…はい」
【オーナー】
「よし、じゃあ、次の店休日は動物園ねっ」
【主人公】
「…はい………って、なんで?しかも店休日って、明日じゃないですか!?」
【オーナー】
「そうよっ、だからとっとと片づけを終わらせなさいっ!明日の朝は早いわよ~」
【主人公】
「いや、オーナー、あんた」
【オーナー】
「ぐだぐだ言ってると、あんた昼ゴハン抜きよ?」

    ;<暗転>


横暴なオーナー。
あいつが来る前のいつも。二人の日常。
それに癒される自分がいた。

…あいつのことを忘れようとしている自分がいた。

………



    ;<背景:黒,独白モード>




メーコちゃんがいなくなったと聞いたとき、
あのときと同じ痛みが、胸に走った。

覚えてる。
あの冬の日のこと。
忘れたい日のこと。

祖父が死んだあの日…ひとりになった日のこと。

周りからいなくなる親しい人たち。置いていかれる自分。さみしい。
独りは嫌。一人はイヤ。ひとりは…いや。さみしいのは…いや。

でも、ひとりでいれば…もうひとりになることはない。
だから一人でいたのに。

なのに…なんで、あいつを店に誘ったりしたんだろう。
なんであの子を店に誘ったりしたんだろう。
罪悪感?あわれみ?同情?

…さみしかったから?

あの子がいなくなって、ひさしぶりに感じた…さみしさ。欠けた感じ。

彼だけは。あいつだけは、そばに。

言えなかった。
責められなかった。
だって、彼がいなくなるかもしれないから。

連れ戻せなんて言えなかった。
大事な子だったのに。好きだったのに。
でも、それで、彼までいなくなってしまうのなら――
………




    ;<ウィンドウモード>
    ;<背景:動物園(檻前),立ち絵:オーナー>





【オーナー】
「ふぅ…やっぱり、動物園はキリンよね」
【主人公】
「…そうですか」
【オーナー】
「早く来た甲斐があったわ。ベストポジションよ」
【主人公】
「…よかったですね」

開園1時間前から並んでいた客はさすがに俺たちだけだった。
もちろん、そのために今日は3時間も寝ていない。
…俺が起きたとき、弁当を完成させていたこの人は、いったいいつ寝たのだろう。

【オーナー】
「…ノリが悪いわね~」
【主人公】
「いや、眠いだけです」
【オーナー】
「あの長い首を見なさいっ」
【主人公】
「…ながいっすね」
【オーナー】
「興奮しない?どきどきしない?目、覚めない?」
【主人公】
「俺…ノーマルな趣味しかないです」
【オーナー】
「知ってる?キリンの首の骨って、あんなに長いのに
人間の首の骨の数と一緒なのよ?すごくない?」
【主人公】
「…すごいっすね」
【オーナー】
「ほんとよね~。生命の進化って、すごいと思うの。例えば、古典的なところで
ガラパゴスの」


このパターンは良くない。
動物園マニアのこの人は、こうやって動物まめ知識を延々と語り続ける。
…逃げないと。

【主人公】
「あの、トイレ」
【オーナー】
「うるさい、聞け」
【主人公】
「で、でも、漏れ」
【オーナー】
「いいから、こっからがいい話なんだからっ!我慢なさい!!」
【主人公】
「………」

…オーナーの講義は1時間を越えた。
途中、本気で尿意を催したが言える雰囲気ではない。

【オーナー】
「でね、思うの。ここみたいに、まず人気の動物の配置を…」

    ;<暗転>


…まだ続くのか。

………

    ;<背景:動物園,立ち絵:オーナー>



【オーナー】
「ふぅ~たんのうした~」
【主人公】
「そうでしょうね…そうでしょうとも」

キリンの檻の前で、3時間も足を止めていたのは、もちろん俺たちだけだった。

【オーナー】
「あ、観覧車」
【主人公】
「………」
【オーナー】
「知ってる?ここの観覧車にのったカップルは永遠に結ばれるか、
1ヶ月持たないんだって」
【主人公】
「…そう、なんですね」
【オーナー】
「ま~私の高校のころ流行った噂だけどね~。ジンクスってヤツ?」
【主人公】
「………」


    ;<背景:CG02(MEIKO観覧車,セピアな感じ)>



観覧車に乗ったカップル…俺たちも当てはまるんだろうか…

    ;<背景:動物園,立ち絵:オーナー>



【オーナー】
「おい」
【主人公】
「なっ、なんでしょう」
【オーナー】
「あ、いや、なんでそんな悲しそうな…じゃない
………あんた、いま私の話聞いてなかったでしょっ?」
【主人公】
「へ?あ、すいません…」
【オーナー】
「あんたね、謝るくらいなら…ていうか、声聞こえないの知ってるんだから、
私の顔見てなかったら聞いてないのバレバレなのよ」
【主人公】
「…ま、まぁ、そうですね」

確かに、唇や表情を見つめていないと
なにを言っているのかわからない。




【オーナー】
「だから」
【主人公】
「はい」
【オーナー】
「………あんたは、私の顔だけみてればいいのよ」
【主人公】
「はい…ってそれじゃ、俺、動物園に来ても動物見れないじゃないですか?!」
【オーナー】
「いいでしょ?そのへんのサルとかキジとかの顔より、私の顔を見なさいっ!」
【主人公】
「そんなひどいっ!!」
【オーナー】
「うるさいっ!!従業員は素直に経営者に尽くせっ!!」
【主人公】
「いや、あんた、そんなこと言ってると、こっちだってストライキとかっ」

急にオーナーの表情が緩む。

【オーナー】
「………元気、でた?」
【主人公】
「…すいません。気ぃ使わせちゃって」

そっか…オーナー、俺のために…

【オーナー】
「ま、従業員のケアも経営者の…義務みたいなもんよ」
【主人公】
「…ありがとうございます。わざわざ、こんなところまで」
【オーナー】
「…うんうん、感謝しろよ………こんなとこ?」
【主人公】
「え、いや、わざわざ、動物園まで来て励ましてもらって」
【オーナー】
「あ、ここに来たのは別にあんたのためじゃないわよ?」
【主人公】
「…へ?」
【オーナー】
「私が動物園が好きだから」
【主人公】
「…そんなとこだろうと思ってました」
【オーナー】
「うん。ま、励まそうかなーという考えもないことはなかったけど」
【主人公】
「そうですね…オーナーが、そんな…そうですよね、ありえないですね」
【オーナー】
「…なんか、すごく失礼なこと伏せてない?」
【主人公】
「そんなことないです。オーナーは繊細で優しい素敵な女性です」
【オーナー】
「そ、そうかな?」
【主人公】
「………」

皮肉で、喜ばれても…罪悪感が芽生えるじゃないですか…

【オーナー】
「…私ね、動物園好きなのよ」
【主人公】
「さっき聞きました」
【オーナー】
「ほら、動物園に来るとさ…
楽しかった家族との思い出とか思い出せそうな気がするじゃない?」

楽しかった家族との思い出か…。
そんなもの、俺にはない。

【主人公】
「…そうですか」
【オーナー】
「…あははっ、まぁ、そんなの無いんだけどね」
【主人公】
「え?」
【オーナー】
「どうしたの?マメにハト鉄砲当てられたような顔して?」
【主人公】
「…それ、セクハラのつもりですか?
…じゃなくて、えっと…動物園好きなんじゃ」
【オーナー】
「好きよ~?…たいてい、一人で来てたけどね」
【主人公】
「………」
【オーナー】
「なに?あんたも似たようなもんでしょ?」
【主人公】
「…そうですね」

ああ、一緒なんだ。
この人も、ずっとひとりなんだ。

【オーナー】
「誰かが…親しい誰かがいなくなるのはイヤじゃない?
私はどうしてもイヤ…周りから一人いなくなるたびに、すっごい喪失感があるわ」
【主人公】
「はい…」
【オーナー】
「ずっと一人でいれば、一人でいることができれば
そういうの味わわなくてすむけど…やっぱり一人って、さみしいから」
【主人公】
「…俺みたいなの引き込んじゃう?」
【オーナー】
「そ、ね。…ねぇ、メーコちゃんがいなくなってどう?」
【主人公】
「…俺も、オーナーと一緒です」
【オーナー】
「…そう」

    ;<暗転>



あのときのマツダの問い
「なぜMEIKOを渡せないのか?」
…今ならわかる。

嫌だったんだ。
誰かが自分の前から居なくなるのは
親しい人であればあるほど

機能なんて、人間かどうかなんて関係なかった。
ただ、あいつが連れて行かれるのを止めたかったんだ。

………



日が落ちてきた。
時計を見るとそろそろ閉園の時間…。昼が長くなっているのを感じる。

    ;<背景:動物園,立ち絵:オーナー>



【オーナー】
「さぁて、そろそろ帰ろっか?」
【主人公】
「オーナー」
【オーナー】
「ん?」
【主人公】
「明日、お休みもらえますか?」
【オーナー】
「………メーコちゃん?」
【主人公】
「はい、もう一度、会ってみようって…」
【オーナー】
「…そっか。仕方ないわねぇ」
【主人公】
「…まぁ、昼間に行くので、たぶん、開店には間に合うと思うんですけど」
【オーナー】
「いいわよ、行っといで」
【主人公】
「すいません」
【オーナー】
「………行っちゃえ、ばか」
【主人公】
「…すいません」
………


マツダの研究所にむかい、受付で呼び出す。

    ;<背景:研究所,立ち絵:マツダ>


【マツダ】
「あ、ああ、誰かと思えば…えーっとーあーそうそう、あの店のピアノの」
【主人公】
「どうも」
【マツダ】
「で、なにしに?
悪いんだけどさ…僕も忙しいからつまんないことで呼び出さないで欲しいんだけど」

…歓迎を期待してたわけじゃないが、こいつ本当に社会人か?

【主人公】
「あいつ…MEIKOに会いに」
【マツダ】
「ないけど?」
【主人公】
「いないって、じゃあどこに」
【マツダ】
「ちがうちがう。“いない”じゃなくて“無い”んだって、もう」

………


【主人公】
「かい、たい?」

わけがわからない

【マツダ】
「うん。解体済み。確認もしてある」
【主人公】
「なんで?」
【マツダ】
「必要なくなったからね。特に他に用途なかったし。
無駄なスペース無いんだよね、ウチ」
【マツダ】
「もちろん観測データとプログラムだけは保存してあるけど。
記憶領域は躯体についてるものだったし」
【マツダ】
「まぁ、新しい躯体でなんとか上手くいきそうだしね。
今のところ、特に問題は起きてないし」
【マツダ】
「今度こそ、いい結果だせるんじゃないかってね、みんなハリキってるところ」

なにをいってるんだ?こいつは?
MEIKOに会えない?
もう、いない?

【主人公】
「ほんとに、もう?」
【マツダ】
「…もうちょっと早く来たら、解体前に見せてあげるくらいできたのに」


    ;<暗転>

もうちょっと早く…?
俺が、もっと早く…

………



    ;<背景:店内,立ち絵:オーナー>




【オーナー】
「…おかえり」
【主人公】
「………あれ?今日」
【オーナー】
「残念ながら、お客あんまり来ないから、今日は休業」

…待っててくれたんだろうな、きっと。
俺と…MEIKOを。

【主人公】
「…すいません。無理でした」
【オーナー】
「そっか」
【主人公】
「………はい、すいません」
【オーナー】
「…飲むわよ?」


【主人公】
「え」
【オーナー】
「いいじゃない、たまには。
いっつも飲んでる連中の相手ばっかで、私ら飲んでないんだし」
【主人公】
「そりゃ…そういう商売」
【オーナー】
「たまには、いいじゃん?ね?…たまには、さ」
【主人公】
「………そうですね」

飲むのもいいかな…たまには酔っ払ってみるのもいいか…

………

【オーナー】
「そっか…もう」
【主人公】
「はい…」

研究所であったことを…
間に合わなかったことを話した。

【オーナー】
「………残念だったわね」
【主人公】
「すいません、俺がもっと早く…」
【オーナー】
「ん…そうね」
【主人公】
「すいません…」
【オーナー】
「ね?」
【主人公】
「え?」

襟元をつかまれ、ひきよせられる。




【オーナー】
「目を、つむれ」
【主人公】
「…え、あの」
【オーナー】
「いいからっ」

    ;<暗転>


目を閉じる。
殴られる?
…でも、そうされても仕方ない、か。

さらに身を引き寄せられる…投げか、サブミッションか…
ほのかに柑橘系の香りを感じる。オーナーの香水か…

肩に手をかけられる。



…唇に暖かいやわらかい感触。

目を開ける。

    ;<背景:店内,立ち絵:オーナー>



【オーナー】
「…誰が、目あけていいって言った?」
【主人公】
「………あんた、なにを」
【オーナー】
「…うるさい、ばか。黙って目閉じてろ…ばか」

彼女の顔が迫る。
思わず、目を閉じる。

    ;<暗転>



…やわらかくて、しめった何かが、口に押し付けられる。

    ;<背景:店内,立ち絵:オーナー>



【主人公】
「…あの」
【オーナー】
「…ね、いいじゃない、二人でもさ。一人よりはアレだし」
【主人公】
「………」
【オーナー】
「二人でもいい、よね?」
【主人公】
「………はい」
【オーナー】
「ひとりってさ、さみしいじゃない」
【主人公】
「…そうですね」
【オーナー】
「…それって、ひとりになんないとわかんないし、
ずっとみんなでいると忘れちゃいそうになるけど」
【主人公】
「はい」
【オーナー】
「やっぱり、ひとりはさみしい」
【主人公】
「…はい」

さみしい…どんなに否定しても、どんなに自分を騙しても
…ひとりはさみしい。

【オーナー】
「おじいちゃんがね、いたの」
【主人公】
「…前のオーナー?」
【オーナー】
「うん。大好きだった。でも、死んじゃったんだ。事故で、トラックにはねられて」
【主人公】
「………」

トラック…
事故…

【オーナー】
「おじいちゃん、厨房でコックでさ、店の中では店長って呼ばないと怒られて」
【オーナー】
「買出しから帰ったら、いなくなってて、電話があって」
【オーナー】
「死んだって、言われて」
【オーナー】
「つづけていこうって思ったの。ここはおじいちゃんの店だし。
…思い出もたくさんあるし」
【オーナー】
「で、コック募集して、アルバイト雇って」
【オーナー】
「なんとか、続けてようと思ったんだ………でもね」
【オーナー】
「オーダーをね、厨房に持っていったとき、愕然としたわ。
いなかったの、そこには」
【オーナー】
「やさしく微笑みかけてくれるおじいちゃん」
【オーナー】
「…ひとりだって、気づいた」
【オーナー】
「自分はひとりになったんだって。誰もそばにはいてくれないんだって」
【オーナー】
「親とか他の家族なんて最初からいないようなものだったし」
【オーナー】
「おじいちゃんだけが、家族だった」
【オーナー】
「だからね、あの日…あんたが、私を助けてくれた日
…ホントは死ぬつもりだったんだ」
【主人公】
「…え?」

あの日、俺が音を失った日。
あのときの…?

【オーナー】
「おじいちゃんと同じとこで、同じように死んだら…もしかしたらって」
【オーナー】
「気づかなかったでしょ?
あんたが、命かけて、助けた女って、ホントは生きたくなかったの」
【オーナー】
「ごめんね…ずっと言えなかった。あんたの耳、私のせいなのに」
【オーナー】
「ごめん、なさい」

    ;<暗転>


オーナーが頭を下げる。
…ちがう。オーナーが悪いんじゃない。
だってあれは…


【主人公】
「オーナーを助けたのは俺のワガママですから」

    ;<背景立ち絵戻す>



【オーナー】
「………え?」
【主人公】
「あそこで、誰かが死ぬの見るのがイヤだったんです」
【主人公】
「自分が、見たくなくて、それで」
【主人公】
「体が動いて」
【主人公】
「すいません」
【オーナー】
「そっか…」
【主人公】
「…すいません」
【オーナー】
「………じゃあ、おあいこってことで」
【主人公】
「いいんですか?」
【オーナー】
「いいよ、私は」
【主人公】
「だったら、いいんじゃないですか」
【オーナー】
「…そうね。
ねぇ…あんたは、どこにも行かない?」
【主人公】
「そばにいます」
【オーナー】
「ずっと?」
【主人公】
「はい」
【オーナー】
「それって、プロポーズ?」
【主人公】
「…そうですね、それもいいかもしれません」
【オーナー】
「そう、だね」

    ;<暗転>



その日は夜遅くまで、言葉もなく杯を傾けつづけた。


【オーナー】
「ね、いっしょにさ?」
【主人公】
「いいですね…それも。家族、俺も欲しいです」



………

    ;<背景:店内,立ち絵:オーナー>



Bgm bgm3001.ogg

【主人公】
「あっ、ま、また、そんな重いものっ」
【オーナー】
「…なに?あんた、私にマドラーより重いもの持たせないつもり?」
【主人公】
「で、でも、おなかのっ」
【オーナー】
「いいのよ。少しくらい運動した方が…お客さん、待ってるわよ。
さっさと弾いてきなさいっ」

    ;<暗転>


………

あいつがいなくなって、だいぶ経った。

もう、思い出すこともあまりなくなったけれど
きっと忘れることはないと思う。


    ;<背景:店内>


【佐々木】
「おう、兄ちゃんっ」
【主人公】
「佐々木さん」
【佐々木】
「今日も楽しみにしてるぜっ」
【主人公】
「…お世辞でも嬉しいです」
【佐々木】
「バッカおめぇ、男にんなことすっかよ」
【主人公】
「………そうですね」
【佐々木】
「ほんと、最近、めちゃくちゃ良くなったぜ?
メイコちゃんが来る前は聞いても聞かなくてもよかったけど
今じゃ聞かずには…って………すまん」
【主人公】
「あ、気にしないで下さい」
【佐々木】
「ま、まぁ、マジで最近の兄ちゃんのピアノはいいよ。
ほら、他の客だって静かにしてるだろ?」
【主人公】
「…佐々木さん、何かリクエストありますか?」
【佐々木】
「お、なんでぇ、新しいサービスかい?」
【主人公】
「まぁ…そんなとこです。」
【佐々木】
「じゃ、あれ聞かせてくれよ、あの、メイコちゃんがいたときよく弾いてた…」



    ;<背景:CG03(歌うMEIKO,顔見えない?ぼんやりしてる。)>



【主人公】
「………」
【佐々木】
「…兄ちゃん?」

    ;<背景:店内>


【主人公】
「あ、すいません…えっと、あの曲、もう忘れちゃって、昔自分で作って
即興で弾いてたようなもんだから」
【佐々木】
「…あ、え?そうなんかい」
【主人公】
「そうですねぇ…シューベルトとかどうです?」
【佐々木】
「ん?いや、まぁ…よくわかんねぇけど」
【主人公】
「…シューベルトの、そうですね…セレナードなんか、いいかもしれません
こんな夜ですし…」
【佐々木】
「兄ちゃん」
【主人公】
「なんです?」
【佐々木】
「…わりぃ」
【主人公】
「………じゃ、ちょっと弾いてみます」
【佐々木】
「あぁ」


    ;<暗転>


さっきから姿が見えないけど、どうしたんだろ…

彼女は、大丈夫だろうか…
無理をしていなければいいけれど。


………






    ;<背景:店の外,独白モード>



さて、そろそろ、看板をなおさないと

彼の演奏は続いている。
聞いたことがない曲。今日、はじめての曲かな?

もしかしたら、彼が、また作曲したのかもしれない。
…あの日から、彼女が帰ってこないことがわかってから
彼はまたピアノを弾き始めた。

ただ、彼女とともに奏でた曲だけは弾かない。決して。
あのころ弾いていたオリジナルの曲は弾かなくなって
映画やドラマで聞いたことがあるような曲ばかり弾くようになった

でも、曲の優しさは変わらない…そんな気がする。

よいしょ…っと

彼は優しい。
私のそばにいてくれる。私を心配してくれる。
それだけで幸せだった。

あれ?

ふと、通りを見渡すと、少女が立っていた。

肌が白い。長い髪を頭の両側で結んでいる。かわいらしい女の子。
…どこか彼女を思わせる。そんな女の子。

近づいてくる。ウチに用かしら?お酒、飲むような歳に見えないけれど。
差し出される紙片。

“お水を1はいください”

どこか懐かしい文字…
女の子は目をふせがちでおどおどしていて、やっぱりあの子と似たふいんき…
言葉が話せないのだろうか?

店の中からは、まだピアノの音が響いている。

「ごめんなさいね。もう閉店なの」

気づけば、そう口が動いた。
少女は肩を落として、暗い路地に消えていった。



ピアノの音が消えている。
彼が心配する前に、戻らないと。
看板を片付ける。

もう一度、少女の消えた先を見る。

いない。

よかった…。

知ってる。彼はまだあの子を忘れてない。
閉店後、誰もいなくなった店であの曲をひいてる。
きっとあれは、あの子のための曲。

いなくなったあの子に捧げる曲。

だから、彼にあの子を近づけたくない。

もう、他に誰もいらない。
彼はここにいる。どこにも行かない。どこにも行かせない。


ずっと、ずっと二人で。


Fine





//################################################
//################################################
**終章B

    ;<背景:黒,独白モード>

くらいへや

うたえない

うたえなくなった…また

だれかがなにかいう

きこえない

きこえなくなった

せんぱいにおしえてもらったらよかった、くちびる…よみかた

せんぱい

きいてほしい

ききたい

せんぱい、きょく

ききた――


A Fairy Tale in the Small Bar
終章『―Serenade―』





    ;<ウィンドウモード>
    ;<背景:店内, 立ち絵:オーナー>

あれから1週間が過ぎた。

【オーナー】
「カルボナーラ上がったわよ~」
【主人公】
「はいっ!2番のオーダー置いときます」
【オーナー】
「りょーかーい」

    ;<立ち絵消える>


オーナーは俺を責めなかった。
責められても仕方ないのに。
あいつを止めることさえしなかったのに。

ただ、大丈夫かと聞かれただけだった。

【佐々木】
「兄ちゃん、奥で客が呼んでるぜっ」
【主人公】
「え?あ、すいませんっ」

    ;<暗転>

ピアノを見るのがイヤになった。
ほとんど無意識に視界から外した。
結果として、店の奥の客に気づきにくくなっている。

仕事に支障が出るのはダメだよなぁ…。

あいつがいなくなったあとで客が減ってるから
なんとか店が回ってるけど
前みたいに働けていない。

………

    ;<背景:店内,立ち絵:オーナー>

【オーナー】
「はい、ジンジャエール。あっちのカウンターのお客さん」
【主人公】
「はい」

    ;<立ち絵消える>
………

    ;<立ち絵:MEIKO(私服;ぼやけてたり?)>

【主人公】
「っ!?」

    ;<立ち絵消える>

【客】
「どうかしました?」
【主人公】
「…いえ、なんでもありません。こちらジンジャエールです」
【客】
「どもー」

気のせいだった。
ダメだな…集中しないと…。

【佐々木】
「兄ちゃん」
【主人公】
「さっきは、ありがとうございました」
【佐々木】
「いやまぁ、それはいいんだけどよ。ここ何日かピアノ弾いてねぇだろ?」
【主人公】
「あ…あぁ、ちょろっと指、ケガしちゃって」
【佐々木】
「…そうかい」
【主人公】
「はい」

ケガをした。それがホントだった。
あいつがいなくなったあと、ちょっとしたことで指を切った。

でも、昔だったら、ヤケドしようが、突き指だろうが
ピアノを弾いていた。
それしかなかったから。

こんなに長い時間ピアノに触れてないのは、あのとき以来だ。

【佐々木】
「もうケガ治ってんだろ?」
【主人公】
「…まぁ」
【佐々木】
「じゃさ、一曲頼むわ。いつものやつ」
【主人公】
「それは…」
【佐々木】
「いや、聞きてぇんだって。他の簡単なやつでもいいからよぉ。
兄ちゃんのピアノがないと、なんかしっくり来ねぇっつーか」
【主人公】
「…わかりました」

    ;<背景:店内(ピアノ?)>


ピアノの前に座る。
ただ弾くだけ。失望されてもかまわない。
鍵盤に指を落としていけばいいだけ。

簡単だ…いつもどおり…

いつもどおり…

    ;<背景:CG03(歌うMEIKO,ぼやけてる?霞がかかったような?)>


え…

まさか…

【主人公】
「めいっ」

    ;<背景:店内>


客が一斉に驚いてこっちを向いていた。
…自分のした事に気づく。
演奏中に立ち上がって、鍵盤に指を叩きつけていたらしい…しかも思いっきり。

【佐々木】
「大丈夫か?兄ちゃんっ」
【主人公】
「え?あ…すいません。なんでもありません。続けます」
【佐々木】
「あ、いや、いーよ。ほんきで調子わりぃみたいだし」
【主人公】
「…すいません」

    ;<暗転>


幻は消えていた。

幻でもいいから、見ていたかった。

………

【オーナー】
「ちょっと買い出し行ってきてくんない?」

    ;<背景:商店街>


昨晩の粗相のペナルティとして、オーナー命令で
米(10キロ)…なかなか腰にクる重量だ。
ふふっ…店までの距離がこんなに遠いとは…

そういえば、あいつと最初に会ったのって

    ;<暗転>
    ;<以下セピアな感じ>
    ;<背景:商店街,立ち絵:MEIKO(私服)>




【主人公】
「わっ!」
【MEIKO】
「…!」

【主人公】
「…すいません」
【MEIKO】
「………」
【主人公】
「大丈夫ですか?」
【MEIKO】
「………」
【主人公】
「ケガとか」
【MEIKO】
「………」

    ;<暗転>



最初は愛想のない女とか思ってたけど…

    ;<背景:商店街,立ち絵:MEIKO(私服)>




【MEIKO】
『あのあのっ!』
【主人公】
「だから、別にいいってっ!」
【MEIKO】
『えっと…すいません…その…お店………通り過ぎてて
あのごめんなさい…違うお店でもいいかもなんですけど
オーナーさんのメモによると』
【主人公】
「…悪い」
【MEIKO】
『い、いえ、こちらこそっ』
【主人公】
「…で、どこの店だって?」
【MEIKO】
『そこの“ランジェリー☆キムラ”だそうです』
【主人公】
「………一人で入れ」
【MEIKO】
『えぇっ!?ムリですっ!!お買い物なんて、ほとんどしたことないのにっ!!』
【主人公】
「うるさいっ!!そんなとこ男が入れるかっ!!」

    ;<暗転>


人見知りで…
遠慮がちで…
気が小さくて…

    ;<背景:商店街,立ち絵:MEIKO(私服)>




【主人公】
「…お前はヤギかと」
【MEIKO】
『だって、知らなかったんですもん…』
【主人公】
「いや、周りの人間を見て、だれが紙ごとハンバーガー食ってたよ…」
【MEIKO】
『は、初めてだったんですよぉ!』

    ;<暗転>


常識がなくて…

でも…


    ;<文字を画面中央に表示>
    ;<背景:CG(膝枕MEIKO)(セピアっぽくなったりしませんか?)>




『あ、起きちゃいました?うるさかったですか?
…って、そんなわけないですよね』



『きっと、ていうか、おそらくというか、好きだったと、思うんですっ!
昔の、その、感情とかなかったころの自分も』



『…せんぱいも好きですよね?ピアノ』



    ;<文字表示、通常に(ウィンドウモード)>


わかってくれた
俺の曲
俺の想い

変なヤツだけど

笑顔がやさしくて
傍にいると満たされて

あぁ…そうか

…あいつが必要だったのは
店じゃなくて…

あいつを必要としてたのは


    ;<暗転>
    ;<以下、普通のウィンドウモードに戻る>


………

    ;<背景:店内,立ち絵:オーナー>



【主人公】
「お米、買って来ました」
【オーナー】
「さんきゅ~。そのまま倉庫に~」
【主人公】
「はい」

    ;<立ち絵消える>


………

    ;<立ち絵:オーナー>

【主人公】
「あ、あのオーナーお願いがあるんですけど」
【オーナー】
「…なに?改まって」
【主人公】
「今日お休みもらってもいいですか?」
【オーナー】
「………」
【主人公】
「えっとですね…」
【オーナー】
「メーコちゃん?」
【主人公】
「…はい」
【オーナー】
「ふぅっ………そっかぁ…そうよね。あんたってそーゆーヤツ」
【主人公】
「…って?」
【オーナー】
「ね、ちょっと、かがんで…」
【主人公】
「え?」
【オーナー】
「その…びみょーに届かないからさ」
【主人公】
「………?…こうですか?」

な、なに?この状況…
って、あんたなんで俺の肩に手を置く

【オーナー】
「…そのまま目つむって」
【主人公】
「…そ、それって」
【オーナー】
「いいから、つむれ」

    ;<暗転>


【主人公】
「はっはい」
【オーナー】
「じゃ………行くわよっ…このっ!!」

肩から手を離されると同時に

アゴに衝撃

    ;<画面ゆれ>


【主人公】
「ぶふっ」

そのまま倒れる…
目を開くとそこには

    ;<背景:CG05(踏まれる主人公)>


    ;<画面ゆれ>


【オーナー】
「おっそいのよっ!!」
【主人公】
「な、なにをっ」
【オーナー】
「てぇいっ!!」

    ;<画面ゆれ>

【オーナー】
「あんたがっ!別にっ!私はっ!!」

    ;<画面ゆれ×3,セリフに合わせて?>

さらに三連打…
…もちろん痛い…むちゃくちゃ痛い………いたいよぅ…

【主人公】
「………」
【オーナー】
「はぁっ…はぁっ…」

店を休むということで蹴られるカクゴはしていたが、ここまでとは…
ていうか、本気でやってないかこの人…手加減が感じられなかったぞ?

【オーナー】
「………いくわよ」
【主人公】
「え?」
【オーナー】
「連れ戻すんでしょ?メーコちゃん」
【主人公】
「あ、ええ、まぁ…でも、オーナー」
【オーナー】
「今日は、臨時休業っ!さ、とっとと行くわよっ」  

    ;<暗転>

………





    ;<背景:黒,立ち絵:オーナー>

【主人公】
「あ、あの、オーナー?」
【オーナー】
「なに?」
【主人公】
「なんで、こんなところから…正面から入れば」
【オーナー】
「バカねー正面から行っても捕まるだけよ?」
【主人公】
「いや、ここふつーの企業だし」
【オーナー】
「こういう場合は、違うのよっ…そう、メーコちゃんまでたどり着くために
たくさんワナとかそういうのがあったり、仲間のシカバネをこえていったり」
【主人公】
「…ちなみに、その場合の屍は」
【オーナー】
「あんたに決まってるでしょ」
【主人公】
「ですよね…」
【オーナー】
「いいから、入るわよっ」

フェンスを越えて、鍵の開いていた窓からこっそり入る。
えっと…こういうのって不法侵入?…けいさつざた?
…3年以下の懲役または10万円以下の罰金??

………

    ;<背景:研究所,立ち絵:オーナー>



どこまでも白い壁がつづく廊下をずかずか歩いていく。

【オーナー】
「うるさいわねー」
【主人公】
「…何も言ってないですけど」
【オーナー】
「ちがうわよっ…なんか英語で、放送が繰り返してキカイ声で」
【主人公】
「…なんて言ってます?」
【オーナー】
「いんとるーだーらーと?みたいな?あと、うーうー言ってる」
【主人公】
「なんですか、それ。…オーナー英語の成績悪かったでしょ?」
【オーナー】
「…うるさいわねー」
【主人公】
「そんな、機械に文句言うのやめましょうよ」
【オーナー】
「今のは、あんたに言ったのよ」
【主人公】
「…よく考えなくてもそれって、警報のたぐいじゃないんですか?」
【オーナー】
「そうみたいね…」
【警備員】
「止まれっ!!貴様らっ!!」

    ;<暗転>


あっさり、御用。
捕まってしまった。
どうやら、侵入の時点でカメラに捕らえられていたらしい。

最近の警備システムはすごいなぁ…
………

    ;<背景:研究所,立ち絵:オーナー,マツダ>



【マツダ】
「…なんなんです、いったい」
【オーナー】
「悪いわね~」

住所と名前を控えられ、警備員のオジさんたちに説教された後
警察に連絡されそうになる前に、マツダの名前を出して、開放してもらった。

【マツダ】
「普通に正面から入ってきてもらえれば対応しましたよ。普通に」
【オーナー】
「いや、なんとなくね?ほら」
【主人公】
「あのっ…あいつはっ」
【マツダ】
「あいつ?」
【オーナー】
「メーコちゃんよ」
【マツダ】
「………なるほど。まだ君は諦められない…と。
来たまえ、そうだね…“会わせて”あげよう」

    ;<暗転>


………

【主人公】
「ここって」

連れてこられた先は、うす暗い部屋。
かすかにコンピューターの画面の光が見える。

【主人公】
「え?」
【オーナー】
「あれ…?」

暗さに目が慣れる。

部屋の中央に椅子が一つ。
あいつは座っていた。

    ;<背景:CG06(壊れたMEIKO)>


ただ、その表情は笑顔なんかじゃなくて
うつむいて、半分だけ開いた目には何もうつってない。

背中からは無数のコードが伸びている。

【オーナー】
「メーコちゃん…?」
【主人公】
「おいっ!」

呼びかけにも応えない。

【マツダ】
「あー無駄だよ」
【オーナー】
「ムダって…」
【主人公】
「あんた、どういう」
【マツダ】
「…これは機能停止して、外部にほとんどのメモリーやレコードを移植した状態にあるからね」
【オーナー】
「は?」
【マツダ】
「連れて帰って次の日にまた声が出せなくなった。
数日後には、出力全般そして入力も不全…という状態になってね。
まぁ…僕らとしても結果を出さなきゃだから、躯体を変えるかなという話になった」
【主人公】
「…躯体?」
【マツダ】
「そう、今使ってるのはMEIKOという躯体だが、新しい躯体が手に入りそうでね。
そちらを僕の実験用に使おうかと」
【オーナー】
「なんで…」
【マツダ】
「もちろん、この躯体を使って続けられるならそうしたいけどね。
この実験にとって感情を理解できる機能は必要不可欠だから」
【主人公】
「は?」
【マツダ】
「あーだからさぁ、自分の持ってないものを理解するのは難しいだろう?
だからね、MEIKOには擬似感情プログラムといえるものを積んである
まぁ…このプログラムの基幹部は僕のじゃないんだけどね」
【主人公】
「それがなんの…」
【マツダ】
「その人…僕の恩師でね、バー経営しながら大学で講義・研究してた変な人でさ。
その人が最後に書いたプログラムが、MEIKOの感情の元になってる。
まぁ余談だけどね」
【オーナー】
「それって…」
【マツダ】
「…でもね、そのプログラムわけのわからない文字列が数千行あってね。
削除すると上手く動かない。…でまぁ、仕方なくそのままにしていた。
するとほとんど人間と変わらない反応を示すようにはなった…が」
【マツダ】
「時間の経過とともに出力値がどんどん下がる。
原因不明さ。その数千行以外にプログラムに
問題はなかった。…そこで躯体を変えるという案が出た。これの回収前にね」
【マツダ】
「だってそうだろ?プログラム…電子的な問題がないのだとすれば、
あとはまぁ、物理的…躯体に問題があるかもしれないと考えるのが普通だ」
【オーナー】
「…それで、メーコちゃんはどうなるの?」
【マツダ】
「とりあえず破棄する予定になっています。この研究所無駄なスペースないし」

    ;<暗転>


頭が真っ白になっている。
プログラム?躯体?…破棄?
どういうことだ?こいつは?なんで?

【マツダ】
「さ、もう満足だろ?そろそろ、帰ったら?お店もあるんでしょ?」
【主人公】
「………おい、起きろよ」

つかみかかる。起こそうとする。起きない。
…なんの反応もない。

    ;<背景:黒,立ち絵:オーナー,マツダ>




【マツダ】
「君も相当、諦めが悪いね」
【オーナー】
「ね、提案があるんだけど」
【マツダ】
「…なんでしょう?」
【オーナー】
「ピアノ、借りてもいい?こいつに弾かせたいんだけど」
【主人公】
「え?オーナー?」
【マツダ】
「ふぅん…まるで、レクイエムですねぇ。
まぁ、これに鎮めるべき魂なんてないけど。
…グランドピアノはさすがに無理ですが、よろしいですか?」
【オーナー】
「ええ」
【マツダ】
「では、手配してきます」
【主人公】
「…オーナー」
【オーナー】
「なに情けない顔してんのよっ!」
【主人公】
「でも」
【オーナー】
「…もう一度、歌わせてあげなさい」
【主人公】
「え?」
【オーナー】
「一度は、歌えないあの子を歌わせてあげたんでしょ?」
【主人公】
「………」
【オーナー】
「…もう一度、ね?」


………


    ;<独白モード>


運ばれてきたのは、アップライトピアノ

椅子に腰掛ける

ピアノ…見たくもなかった
触れたくもなかった
この一週間ずっと遠ざけてた

どうしてだろう

弾きたい

弾きたかった

いつもの曲
ずっと弾いていたあの曲

あいつのそばで

あいつのために曲を奏でたかった

また笑って欲しい
また歌って欲しい
またそばにいて欲しい

もういちど





歌う彼女。

    ;<背景:店内,立ち絵:MEIKO(歌唱)(セピアっぽい)>



笑う彼女。

    ;<背景:店内,立ち絵:MEIKO(笑い)(セピアっぽい)>



いろいろな彼女。

    ;<背景:店内,立ち絵:MEIKO(いろいろな表情)(セピアっぽい)>











思い出。

    ;<背景:CG03(歌うMEIKO,セピアっぽい)>
    ;<背景:CG01(膝枕MEIKO,セピアっぽい)>





想い。

    ;<背景:CG02(観覧車MEIKO,セピアっぽい)>



全てを込めて音にのせて、曲を編む。


    ;<暗転>
    ;<ウィンドウモード>

【オーナー】
「え?…これって」

【マツダ】
「…バカな」

…歌が聞こえた。鼓膜をとおしてではなく
…なんだろう、直接、頭に響くような
やわらかい…でも響き渡るアルト

ああ、彼女はこんな歌声だったんだ………


………

    ;<背景:店内,立ち絵:オーナー>



【客】
「すいませーんっ」
【オーナー】
「はいはーい」

………

【客】
「すいませーん」
【オーナー】
「はいはいはいっ」

………

【佐々木】
「嬢ちゃんっ!日本酒おかわりっ」
【オーナー】
「…あんたらいい加減にしなさいよ」
【佐々木】
「だ、だってよぅ…今のうちに注文しとかないと頼みづらいだろ」
【オーナー】
「…まぁ、いいけどね…そろそろ、始まるか」
【佐々木】
「そ、それで」
【オーナー】
「一升瓶で持ってきてあげるわっ」
【佐々木】
「ちょ、嬢ちゃんっ」

………

    ;<立ち絵:マツダ>


【マツダ】
「繁盛してますねぇ…」
【オーナー】
「おかげさまで」
【マツダ】
「…そうですか」
【オーナー】
「いや皮肉じゃなくて。ホントに感謝してるわよ。
私もあいつもメーコちゃんも」
【マツダ】
「まぁ…廃棄予定の躯体をお譲りしただけですし…
こうやってたまにデータとらせてもらってますし…
社の不利益になるわけでもないですしね………ふぅ…」
【オーナー】
「なに?暗いわねぇ…
先週はメーコちゃんのプログラム移した子がうまくいきそうだーって
はしゃいでたくせに…って、もしかして」
【マツダ】
「…また、またなんです。MEIKOと同じ状態になりつつあります…。
今度こそうまくいくと…」
【オーナー】
「あ~やっぱり」
【マツダ】
「わざわざプロのピアニストやバイオリニストを雇って、演奏させても全然で…」
【オーナー】
「ふ~ん」
【マツダ】
「…しかも、今日うっかりこの店の話をしたら、彼女ぜひ行きたいって言いだして」
【オーナー】
「連れてきたらいいじゃない」
【マツダ】
「…さすがにこれ以上躯体の横流しは」
【オーナー】
「メーコちゃんの妹みたいなもんだしね~」
【マツダ】
「………いっそのこと、ここに研究機材一式運び込んでもいいですか?」
【オーナー】
「ダメよ。ただでさえ狭いんだから」
【マツダ】
「…そうですか」
【オーナー】
「そうよ。まぁ、手遅れにならないうちに、連れてきなさい。
その子ももしかしたらあんな風に歌えるかもよ?」
【マツダ】
「………」
【オーナー】
「ね?」
【マツダ】
「…逆に彼、お借りできませんか?」
【オーナー】
「…ん~、私は別にいいけど。メーコちゃんがいいって言うかな?」
【マツダ】
「駄目でしょうか?」
【オーナー】
「ダメかもね~。…最近あいつら、バカップルっぷりが雪だるま式にうざくなってるから」
【マツダ】
「…そうですか」
【オーナー】
「ええ、見なさいよ。あの二人の楽しそうなこと…
くっそぉ~…店終わったら飲むわよっ!!付き合いなさいっ!!」
【マツダ】
「えぇっ?!ぼ、僕明日しごと…」
【オーナー】
「うるさいわねー。いま相談に乗ってあげたでしょうが。
あなた、おじいちゃんの弟子なんだから、素直に私に従いなさいっ」
【マツダ】
「…うぅっ…おてやわらかに…おねがいします…」
【オーナー】
「よっし。今日の片づけはバカップルどもにまかせて飲みまくるぞー」

    ;<暗転>


………



    ;<独白モード>



鍵盤の上で指をおどらせる。
いつもの曲。弾きなれた旋律。
楽譜なんてないし、必要もない。

視線はつねに…彼女に。

歌う彼女。

いまでもその歌声は聞こえないけれど。
その“歌”は俺にも響く。

ただ彼女を想い、指を動かす。
彼女のために、音を奏でる。

彼女がそばで歌ってくれている。

それだけで、俺は満たされて幸せになれる。

これからもずっと…
MEIKOとともに
みんなといっしょに

かなでていこう

ずっとずっとみんなで


Fine