「#57」(2010/04/14 (水) 14:43:51) の最新版変更点
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*#57 理由がここに
あたしはスコアシートを記入して、信ちゃんが待つ受け付けのテーブルに持っていく。
ふと思い出し、煉さんが対戦しているテーブルを見る。対戦相手は詩織だ。
「なかなか面白かったぞ」
煉さんはそう言って席を立つ。勝ったんだ。
対戦は終わってたから煉さんがどんなデッキかはわからないけど、黒国力を片付けるのだけは見えた。
やっぱり黒か。
「なんだ、もう勝負が付いたのか?本田」
「えぇ。あ、次あたしとですよ」
あたしは軽くトーナメント表を指差して言う。
「ふぅん、嬉しそうだな」
「そ、そうですか?」
煉さんはしげしげとあたしの顔を見てそう言った。
正直もう始めたい位だ。他の対戦が終わってないのがもどかしい。…でも、嬉しいとは違うような気がする。
「私を倒す気満々といったところか?前から思っていたが顔に出やすいキャラだな、お前」
煉さんはタバコの箱を出すが、信ちゃんがいやそうな顔をしたのを見て「はいはい」と言いながら空き家の外に出て行った。
「京ちゃん勝った?」
「まあね♪」
詩織がやっとデッキを片付けてあたしに声をかける。
「ねぇ詩織、あたしって思ってること顔に出やすいかな?」
あたしはちょっと考えてそう言った。
詩織はきょとんとしてあたしの顔を見る。
「そうかなぁ?」
「じゃあさ、今何考えてそうに見える?」
「えっと…『おなか減ったな』?」
「うーん、ハズレ」
あたしは苦笑して立ち上がる。
そうね…そんなことはどうでもいいわ。
「ちょっとゴメン」
あたしはそう言って、詩織に小さく手を振り空き家のドアに向かって歩きだす。
「寒…」
あたしはドアを開けてまず一声。
日は昇っているけど、薄いグレーの雲にさえぎられてその光は届かない。
「どうした?」
煉さんは、特にこっちを見るわけでもなく煙を吐いて言った。
あたしの口からでる息も、タバコの煙のように白い。
「いえ、あたし…煉さんを倒す気満々です」
煉さんは少しだけ驚いてこっちを見る。
「宣言?私は『打倒煉!』と言われるほど強くないぞ?」
煉さんは面白そうに言った。
何が面白いわけ?そうやって、知った風に言うとこが少しイラっと来るのよね。
「それでもいいです。あたしはあなたを越えないと前に進めない」
あたしはまっすぐ彼女のほうを見て言う。
「フフフッ…面白いぞ、本田。昔の”だれか”そっくりだ」
煉さんは声を上げて笑う。
愉快そうに笑う彼女に、あたしは黙る。
「だから…昔の”バカな”誰かそっくりだから、あたしに押し付けるわけですか?」
静かに、強く。言ってしまった。
「…押し付ける?」
タバコを足で踏み消した煉さんは、もう笑ってはいない。
あの始めて会った時の、目だ。
冷たく、死んだような目。
「えぇ、『楽しむから勝てる』とか『お前は楽しんでない』とか勝手に決め付けて、その考え方を押し付ける。そういうやり方…あたしは納得いきません!」
あたしは目を伏せ、俯き言った。
すこし語尾が強くなりすぎた。まるで叫んでるようだ。
ここまで全部言う必要なんかないのに…あたしバカだね。
「なるほど…些細な違和感の原因は”それ”か―」
煉さんがその続きを言おうとしたとき、空き家のドアが開く。
信ちゃんが少し様子を伺うように顔を出す。
「いいかな?」
「あぁ、かまわん」
1回戦の全ての試合が終わり、もうすぐ2回戦を始めるという趣旨を説明して信ちゃんは顔を引っ込める。
煉さんもそれに続いて空き家に戻る。
「あー」
あたしは今しがたの自分の言動に後悔しつつも、ドアに手をかける。
でも、試合中にグダグダ考えてやるのはもっとダメだ。結果オーライで前に進むしかない。
「さぁ…決戦よ」
あたしは両手で頬をぺちんと叩き、空き家のドアを開ける。
すでに外の空気すら寒くは感じなかった。
「2回戦を始めてください」
信ちゃんが時計を合わせながら言った。
「「お願いします」」
あたしと煉さんは互いに頭を下げる。
つづく
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txt:Y256
初出:あたしのガンダムウォー
掲載日:
更新日:10.04.14
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*#57 理由がここに
あたしはスコアシートを記入して、信ちゃんが待つ受け付けのテーブルに持っていく。
ふと思い出し、煉さんが対戦しているテーブルを見る。対戦相手は詩織だ。
「なかなか面白かったぞ」
煉さんはそう言って席を立つ。勝ったんだ。
対戦は終わってたから煉さんがどんなデッキかはわからないけど、黒国力を片付けるのだけは見えた。
やっぱり黒か。
「なんだ、もう勝負が付いたのか?本田」
「えぇ。あ、次あたしとですよ」
あたしは軽くトーナメント表を指差して言う。
「ふぅん、嬉しそうだな」
「そ、そうですか?」
煉さんはしげしげとあたしの顔を見てそう言った。
正直もう始めたい位だ。他の対戦が終わってないのがもどかしい。…でも、嬉しいとは違うような気がする。
「私を倒す気満々といったところか?前から思っていたが顔に出やすいキャラだな、お前」
煉さんはタバコの箱を出すが、信ちゃんがいやそうな顔をしたのを見て「はいはい」と言いながら空き家の外に出て行った。
「京ちゃん勝った?」
「まあね♪」
詩織がやっとデッキを片付けてあたしに声をかける。
「ねぇ詩織、あたしって思ってること顔に出やすいかな?」
あたしはちょっと考えてそう言った。
詩織はきょとんとしてあたしの顔を見る。
「そうかなぁ?」
「じゃあさ、今何考えてそうに見える?」
「えっと…『おなか減ったな』?」
「うーん、ハズレ」
あたしは苦笑して立ち上がる。
そうね…そんなことはどうでもいいわ。
「ちょっとゴメン」
あたしはそう言って、詩織に小さく手を振り空き家のドアに向かって歩きだす。
「寒…」
あたしはドアを開けてまず一声。
日は昇っているけど、薄いグレーの雲にさえぎられてその光は届かない。
「どうした?」
煉さんは、特にこっちを見るわけでもなく煙を吐いて言った。
あたしの口からでる息も、タバコの煙のように白い。
「いえ、あたし…煉さんを倒す気満々です」
煉さんは少しだけ驚いてこっちを見る。
「宣言?私は『打倒煉!』と言われるほど強くないぞ?」
煉さんは面白そうに言った。
何が面白いわけ?そうやって、知った風に言うとこが少しイラっと来るのよね。
「それでもいいです。あたしはあなたを越えないと前に進めない」
あたしはまっすぐ彼女のほうを見て言う。
「フフフッ…面白いぞ、本田。昔の”だれか”そっくりだ」
煉さんは声を上げて笑う。
愉快そうに笑う彼女に、あたしは黙る。
「だから…昔の”バカな”誰かそっくりだから、あたしに押し付けるわけですか?」
静かに、強く。言ってしまった。
「…押し付ける?」
タバコを足で踏み消した煉さんは、もう笑ってはいない。
あの始めて会った時の、目だ。
冷たく、死んだような目。
「えぇ、『楽しむから勝てる』とか『お前は楽しんでない』とか勝手に決め付けて、その考え方を押し付ける。そういうやり方…あたしは納得いきません!」
あたしは目を伏せ、俯き言った。
すこし語尾が強くなりすぎた。まるで叫んでるようだ。
ここまで全部言う必要なんかないのに…あたしバカだね。
「なるほど…些細な違和感の原因は”それ”か―」
煉さんがその続きを言おうとしたとき、空き家のドアが開く。
信ちゃんが少し様子を伺うように顔を出す。
「いいかな?」
「あぁ、かまわん」
1回戦の全ての試合が終わり、もうすぐ2回戦を始めるという趣旨を説明して信ちゃんは顔を引っ込める。
煉さんもそれに続いて空き家に戻る。
「あー」
あたしは今しがたの自分の言動に後悔しつつも、ドアに手をかける。
でも、試合中にグダグダ考えてやるのはもっとダメだ。結果オーライで前に進むしかない。
「さぁ…決戦よ」
あたしは両手で頬をぺちんと叩き、空き家のドアを開ける。
すでに外の空気すら寒くは感じなかった。
「2回戦を始めてください」
信ちゃんが時計を合わせながら言った。
「「お願いします」」
あたしと煉さんは互いに頭を下げる。
つづく
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初出:あたしのガンダムウォー
掲載日:08.12.08
更新日:10.04.14
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