「M23」(2010/04/16 (金) 16:08:19) の最新版変更点
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傾きかけた太陽。
時計の針は16時10分を指していた。
「仕方ないだろ?授業が長引いたんだからよぉ」
鳥居の前で時間を潰していたミキオたちは、声がしたほうを見る。
自転車を押した武志と、スーパーの袋を下げた姉さんの姿が道の向こうから現れた。
誰もナツキの家の場所を知らなかったため、府釜神社に集合し、ナツキの案内で彼女の家に行くことになっていたのだ。
「土曜日に授業あること自体聞いてないんですけど」
とため息をつく姉さん。
武志はこの春から地元の大学に通っていた。
「遅ーい!!」
2人が”射程内”に入ったことを確認したナツキが、「10分遅れ!」と頬を膨らました。
隣にいたミキオとタンサンが「急に時間に厳しいキャラになるなよ」と飽きれる。
「ゴメンゴメン。俺のせいだ」
と、頭をかきながら弁解する武志。
遅れたぶん買出しを手早く済ませればよかったのだが、姉さんが野菜にこだわって結局遅れた。ということは伏せた。
彼はそういう男だった。
「鈍臭いわねー」
「手厳しいね。ナツキちゃん」
「…あ。でも、青のデッキパーツは助かってるよ☆」
ナツキは、自分のデッキを動かす原動力となっている基礎カードが”誰から貰った物だったのか”を思い出し、口調を緩める。
「正確には勝手に持ってかれたんだけどな、こいつに」と姉さんを小突く武志の台詞を聞かないまま、ナツキは自分の家へと続く道を歩き出した。
「姉さん、持ちます」
と姉さんの両手を塞いでいたスーパーの袋を指したのはミキオ。
中身は、夕飯…バーベキューの材料だ。
「合宿をするなら」と姉さんが進言したもので、ちょうどナツキの家にバーべキューセットがあるということで決定となった。
ナツキの後を続く4人。
神社の前を通る道路を少しいったところにある十字路を右に曲がり、トンネルを抜けてしばらく行ったところで、ナツキは門をくぐった。
石で作られた門にかけられた表札には、白い字で『射勢』と掘り込んである。目的地に間違いなかった。
「でか!」
門の向こうは広大な敷地が広がり、正面に大きい母屋、右手奥に蔵があった。
金持ちという単語からミキオはなぜかヨーロッパ風の建物を連想していたが、母屋は木造建築で瓦の載った立派な屋敷だった。
*第17(23)話 野菜切るから
玄関を空けた直後、廊下から犬が飛び出してきた。
ナツキの腰くらいはあるゴールデンレトリバーで、彼女は「ネッシー!」と呼んでごしごしを頭を撫でた。
「おかえりなさいませ。姫様」
犬に続いて出迎えたのは、使用人の来栖真理。
一度彼女と会っているミキオとタンサンは会釈する程度だったが、姉さんと武志は深く頭を下げた。
4人はリビングにいたナツキの両親に挨拶をした後、客間に通される。
立派な木の柱に白い壁紙、庭に面した大きな掃き出し窓はまるで外とつながっているかのようだった。
ミキオたちは部屋の入り口付近で、立ち尽くした。
「では、支度をしてまいります」
真理はミキオから袋を受け取り、中をさらっと確認するとそう告げた。
その言葉で我に返ったのか、ミキオとタンサンは部屋の中央のテーブルに荷物を置き、ナツキがそれに続く。
「あたしも手伝うわ」
ドアを閉めようとする真理を、立ったままだった姉さんが呼び止めた。
「大丈夫です。客人にそのようなことをさせるわけには」
「いいのいいの。人数いたほうがはかどるっしょ?」
姉さんはちっちっと指をふって、荷物からエプロンを出す。
真理はそれを見て「なんだ、この子は」と言わんばかりに目をパチパチさせた。
「では、お言葉に甘えて」
「よし、決まりね♪」
立ち上がってエプロンを広げた姉さんは、ナツキに振り返る。
「ほら、ナツキちゃんもいくよ?」
唐突に話をふられたナツキは、思わず「なんでウチが?」という顔をした。
真理も同感らしく「いえ、姫様は…」と姉さんを止めに入る。
「花嫁修業だと思ってさ。ね?」
「野菜切るだけでミキオのお嫁さんになれるなら苦労ないわよ」
といいながらも、ナツキは立ち上がって腕まくりをする。
どうやら乗り気になったらしい。
「じゃあ、男子はバーベキューセット出してきてね☆」
「え?」
去り際にナツキは蔵の方向を指差してウインクした。
客間の残された男子3人は指差された方向を見て、「どこにあるんだよ…」と声を合わせた。
×××
なんとかバーベキューセットを見つけ出したミキオたちは、窓から見える場所にそれをセットした。
武志が手際よく組み立て、ミキオとタンサンはそれを手伝うかたちだったが。
「よし、終了ー」
ミキオはジャケットを腰に巻き、開け放った窓に腰掛けて背伸びをする。
タンサンと武志はすでに部屋に入っており、タンサンが「腹減ったぜ~」とあくびをしながら言った。
まだ野菜は切り終わらないらしく、さきほどナツキたちが閉めたドアは一向に開く気配はない。
「時間もあるし、おれっちがこの合宿の”特訓一番乗り”だな!」
「俺と?…まぁ、いいか」
出し抜けに対戦を申し込むタンサンに、武志も快く受け入れて荷物を漁りだす。
実際に武志とは戦ったことはなかったが、カキヨの大会の様子や、姉さんと同じ時期に始めたプレイヤーであるということを考慮しても、彼は特訓するほうの人間だ。
とタンサンもミキオもそう思っている。
「あ、テメェ。抜け駆けかよ」
先を越されたかたちになってしまったミキオは、悪態をつきながらも靴を脱ぎ捨てて部屋に入った。
つづく
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Txt:Y256 初出:mixi(4月16日掲載分)
傾きかけた太陽。
時計の針は16時10分を指していた。
「仕方ないだろ?授業が長引いたんだからよぉ」
鳥居の前で時間を潰していたミキオたちは、声がしたほうを見る。
自転車を押した武志と、スーパーの袋を下げた姉さんの姿が道の向こうから現れた。
誰もナツキの家の場所を知らなかったため、府釜神社に集合し、ナツキの案内で彼女の家に行くことになっていたのだ。
「土曜日に授業あること自体聞いてないんですけど」
とため息をつく姉さん。
武志はこの春から地元の大学に通っていた。
「遅ーい!!」
2人が”射程内”に入ったことを確認したナツキが、「10分遅れ!」と頬を膨らました。
隣にいたミキオとタンサンが「急に時間に厳しいキャラになるなよ」と飽きれる。
「ゴメンゴメン。俺のせいだ」
と、頭をかきながら弁解する武志。
遅れたぶん買出しを手早く済ませればよかったのだが、姉さんが野菜にこだわって結局遅れた。ということは伏せた。
彼はそういう男だった。
「鈍臭いわねー」
「手厳しいね。ナツキちゃん」
「…あ。でも、青のデッキパーツは助かってるよ☆」
ナツキは、自分のデッキを動かす原動力となっている基礎カードが”誰から貰った物だったのか”を思い出し、口調を緩める。
「正確には勝手に持ってかれたんだけどな、こいつに」と姉さんを小突く武志の台詞を聞かないまま、ナツキは自分の家へと続く道を歩き出した。
「姉さん、持ちます」
と姉さんの両手を塞いでいたスーパーの袋を指したのはミキオ。
中身は、夕飯…バーベキューの材料だ。
「合宿をするなら」と姉さんが進言したもので、ちょうどナツキの家にバーべキューセットがあるということで決定となった。
ナツキの後を続く4人。
神社の前を通る道路を少しいったところにある十字路を右に曲がり、トンネルを抜けてしばらく行ったところで、ナツキは門をくぐった。
石で作られた門にかけられた表札には、白い字で『射勢』と掘り込んである。目的地に間違いなかった。
「でか!」
門の向こうは広大な敷地が広がり、正面に大きい母屋、右手奥に蔵があった。
金持ちという単語からミキオはなぜかヨーロッパ風の建物を連想していたが、母屋は木造建築で瓦の載った立派な屋敷だった。
*第17(23)話 野菜切るから
玄関を空けた直後、廊下から犬が飛び出してきた。
ナツキの腰くらいはあるゴールデンレトリバーで、彼女は「ネッシー!」と呼んでごしごしを頭を撫でた。
「おかえりなさいませ。姫様」
犬に続いて出迎えたのは、使用人の来栖真理。
一度彼女と会っているミキオとタンサンは会釈する程度だったが、姉さんと武志は深く頭を下げた。
4人はリビングにいたナツキの両親に挨拶をした後、客間に通される。
立派な木の柱に白い壁紙、庭に面した大きな掃き出し窓はまるで外とつながっているかのようだった。
ミキオたちは部屋の入り口付近で、立ち尽くした。
「では、支度をしてまいります」
真理はミキオから袋を受け取り、中をさらっと確認するとそう告げた。
その言葉で我に返ったのか、ミキオとタンサンは部屋の中央のテーブルに荷物を置き、ナツキがそれに続く。
「あたしも手伝うわ」
ドアを閉めようとする真理を、立ったままだった姉さんが呼び止めた。
「大丈夫です。客人にそのようなことをさせるわけには」
「いいのいいの。人数いたほうがはかどるっしょ?」
姉さんはちっちっと指をふって、荷物からエプロンを出す。
真理はそれを見て「なんだ、この子は」と言わんばかりに目をパチパチさせた。
「では、お言葉に甘えて」
「よし、決まりね♪」
立ち上がってエプロンを広げた姉さんは、ナツキに振り返る。
「ほら、ナツキちゃんもいくよ?」
唐突に話をふられたナツキは、思わず「なんでウチが?」という顔をした。
真理も同感らしく「いえ、姫様は…」と姉さんを止めに入る。
「花嫁修業だと思ってさ。ね?」
「野菜切るだけでミキオのお嫁さんになれるなら苦労ないわよ」
といいながらも、ナツキは立ち上がって腕まくりをする。
どうやら乗り気になったらしい。
「じゃあ、男子はバーベキューセット出してきてね☆」
「え?」
去り際にナツキは蔵の方向を指差してウインクした。
客間の残された男子3人は指差された方向を見て、「どこにあるんだよ…」と声を合わせた。
×××
なんとかバーベキューセットを見つけ出したミキオたちは、窓から見える場所にそれをセットした。
武志が手際よく組み立て、ミキオとタンサンはそれを手伝うかたちだったが。
「よし、終了ー」
ミキオはジャケットを腰に巻き、開け放った窓に腰掛けて背伸びをする。
タンサンと武志はすでに部屋に入っており、タンサンが「腹減ったぜ~」とあくびをしながら言った。
まだ野菜は切り終わらないらしく、さきほどナツキたちが閉めたドアは一向に開く気配はない。
「時間もあるし、おれっちがこの合宿の”特訓一番乗り”だな!」
「俺と?…まぁ、いいか」
出し抜けに対戦を申し込むタンサンに、武志も快く受け入れて荷物を漁りだす。
実際に武志とは戦ったことはなかったが、カキヨの大会の様子や、姉さんと同じ時期に始めたプレイヤーであるということを考慮しても、彼は特訓するほうの人間だ。
とタンサンもミキオもそう思っている。
「あ、テメェ。抜け駆けかよ」
先を越されたかたちになってしまったミキオは、悪態をつきながらも靴を脱ぎ捨てて部屋に入った。
つづく
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txt:Y256
初出:mixi(10.04.16)
掲載日:10.04.16
更新日:10.04.16
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