「M56」(2010/08/08 (日) 22:27:26) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
梅雨が明け、カレンダーが捲れるころにはすっかり季節は夏に変わっていた。
猛暑というより酷暑という天気が続き、テレビ番組でも熱中症の話題が取り上げられる日々。
その日もそんな揚期だった。
「む~ぅ」
射勢ナツキはガンダムウォーの大会に出るため『おもちゃのカキヨ』の隣にある空き家、通称”対戦スペース”にむかって歩いている。
いつもなら使用人である来栖真理の車で送ってもらうのだが、今日は「寝覚めが良かったから歩いてみよう」と思い、送迎を断ったのだった。
しかし、道半ばにしてその思いつきをひどく後悔することとなった。なんといっても、暑い。
熱中症にならないようにと真理が渡した帽子を被って、耳にはお気に入りの白いヘッドホン。
曲は西野カナの「Dear…」―。
重い足取りで、彼女はなんとか対戦スペースにたどり着く。スペースの入り口、ガラス戸の向こうには1人の少年が見える。
早めに家を出発したため随分早く着いてしまったらしいが、その少年の姿を見咎めた途端ナツキにとって”それ”はどうでもいいことに変わる。
彼女は嬉々としてガラス戸に手をかけた。年季の入ったガラスの引き戸は滑りが悪いが、初めて来た時よりは上手に開けられるようになっていた。
「おっはー☆」
ガラス戸を開け、手を振るナツキ。
対戦スペースの中には、今来たのだろう栗田ミキオが一人で立っていた。
「なんだ、ナツキか」
対戦スペース内は空調が効いており、外とは別の世界のようだった。
空調が生み出した涼しい空気を頬に受けながら「生き返るぅー」とナツキは伸びる。
少し日焼けした肌に水色ワンピースが映える。
「大袈裟だな…」
「そんなことないよぅ。ほら~!サンダルの底焦げてるし!」
「ウソつけ!」
サンダルを脱いで裏側を見せる彼女を一瞥し、ミキオは一番手前のテーブルに荷物を置く。
ナツキもそれに習うようにガラス戸を閉めて中に入った。
*第50(56)話 夏の日
ミキオはガラス戸の向かい側に陣取った。ここが彼の定位置。
誰かが奪い取るわけでもないのだが、よくミキオは一番乗りでこの席を取っている。
「タンサンは?」
カバンを開けるミキオを覗き込みながら、彼女はそう聞いた。
カバンのサイドポケット部分に自分があげたコンコルドが付けられているのを発見して頬が緩む。
聞かれたミキオは生返事をしながら、ストレージボックスからカードの束を取り出す。
「わかんね。今日は一緒じゃねーし」
彼は手にしたカードの束から茶色のカードをテーブルに出していく。
新しいデッキでも作るのかなと眺めていたナツキは、ストレージボックスから覗く1枚のカードを発見して声を上げた。
「ミキオ。それは?」
そのカードは、マスラオ(トランザムモード)の箔押しバージョン。
地方予選大会で3勝以上のプレイヤーに配られるプロモーションカードだ。
「あぁ、地方予選の時のか。そういやまだタンサンに渡してなかったな」
そのカードを取り出し、思い出すように言うミキオ。
緑系のデッキを使うタンサンにあげる約束をしていたが、当の彼はマスラオを使ったタイプにあまり興味が無く、催促することもなく2人とも忘れていたのだった。
「もう半月も前かぁ~」
感慨深げに天井を見上げて、もう一度伸びるナツキ。
首に降ろしたヘッドホンがガチャリとプラスチック音を響かせた。
ミキオは相槌を打ちながら、今日は忘れずにタンサンに渡そうとそのカードをテーブルの端に並べる。
脳裏には伊達地方予選大会の最後の対戦―的場常冶との勝負が思い出された。その最後のターンが。
×××
「諦めはしない。俺の…ガンダムジエル!!」
ガンダムラジエルと報道された戦争のパワーから常冶の一方的勝利になるかと思われた序盤。
しかし、中盤にはミキオが”自ら選んだカード”の組み合わせで巻き返すことに成功する。
そして攻防が続き、互いにあと一撃で無くなるほどに磨り減った本国。終盤…最後のターンを迎えた。
「あぁ…勝負だッ!!」
ミキオ側にはシャイニングガンダム《16》が防御に残っているが、常冶には5回まで使うことが出来る最後の照準があった。
この状況。ミキオがシャイニングガンダムを残した時点で、常冶はある可能性に感づいた。
ミキオも感づかれることを承知でそうする他に選択の余地は無いのだ。
互いにギリギリの状況。
先に表になったのは…常冶の1枚だった。
「異なる時を刻む物語!」
4以上の合計国力を持つユニットを手札に戻すコマンドカード。
黒指定の00ユニットが登場し始めた頃に配布されたプロモーションカードであり、合計国力3以下が多い同ユニットたちを見越したデザインだ。
常冶は眉をひそめ、ミキオの様子を覗う。
ほんの数秒の出来事だったが、この勝負の決着がその数秒に凝縮されていた。
ミキオは静かに首を振ってシャイニングガンダムを手に取る。このカードの防御が無ければ、彼の本国は…。
「っそー…オレの負けだ」
ミキオは手に取ったシャイニングガンダムを手札に戻すことなく、そう宣言した。
手札から見せたのは、ゴッドガンダムのカード。
防御に出撃したシャイニングガンダムを最後の照準で破壊するしかない相手は、破壊状態のシャイニングガンダムから効果で場に出るゴッドガンダムは破壊できない計算だった。
「そっちで助かった。明鏡止水なら負けていたのは俺だ」
「でも、そうはならなかった。…お前もテンプレ最強とか言っておいて、”そうじゃないカード”も入ってるじゃねーか」
自分のカードを纏めながらそう口を開いた。
負けはしたが何か面白いことを発見したように、ミキオはニヤリとしてみせる。
彼は常冶のスコアシートに「○」を記入する。
「…これはあれだ。兄さんが入れろって言うから仕方なく」
言われた常冶は少しどもった後にそう返した。
彼は、兄の考え方は嫌いだった。が、ずっと兄の背中を見てプレイしてきたのだ、兄自身のことは邪険にしない。
「じゃあ今度はよォ」
「ん」
「自分の50枚で勝負しにこいよ」
「考えておく」と息をついた常冶はミキオのスコアシートに結果を書き込んだ手を、そのまま彼に差し出す。
ミキオは肩をすくめてそれに応じる。
2人は握手で対戦を締めた。
×××
「9位入賞はすごいよっ」
ナツキの声で脳裏で再生されていた半月前の記憶が途切れる。
彼女はぴょんぴょんと小さく飛んだあと「さすがウチのミキオ~」と彼の金色の髪を撫ぜる。
何度も聞いてきたクセのある台詞、それでいて嫌味の無い響きだ。
「やめろって、髪崩れる」
「いーじゃんいーじゃん☆」
ナツキはえへへと笑ってミキオの隣の椅子に座る。
彼の近くに座りたかったのだろう。
「今度は全国大会で暴れてやるぜ」
得意になって言うミキオ。ナツキは嬉しそうに頷く。
地方予選はその名の通り全国大会を見据えた予選大会であり、各ブロック10位までが東京で行なわれる全国大会への出場権を得ることが出来るのだ。
ギリギリとはいえ、ミキオもその権利を手にしていた。
「もっと腕を磨かなきゃな」
とミキオはデッキを広げ始めた。
新しく加わったカードもあり、動きを把握しなければいけない。
対戦スペース内は、空調機の音とミキオが並べるカードの音だけが響いていた。
ナツキはミキオの横顔を見て短く思案した後、下唇を噛む。
話をしようと思った。
いつもミキオへの熱烈な好意を隠さない彼女だが、キチンと伝えたかと聞かれれば否。
それを言うには、彼女にだって心の準備がいる。
「ミキオ、」
「ん?」
椅子を引き、ミキオに向き直った彼女。衣擦れの音がカードの音を掻き消した。
ナツキが次の言葉を口にすべく息を吸った直後、対戦スペースの扉が鈍い音を立てて開いた。
「い゛」
扉を開けたのは羽鳥タンサン。
ギョッとして彼を見るナツキとは対照的に、ミキオはマスラオ(トランザムモード)のことを即座に思い出した。
「大変だよ、ミキオちゃ…」
タンサンが苦笑いでそう言うも、喋り終わる前に男子2人が対戦スペースに乗り込んでくる。
ひとりは耳に被るくらいに伸ばした黒髪が特徴的な、ミキオより小さな少年。
もうひとりはミキオよりも長身で『常勝』の鉢巻をつけた少年だ。
「ボクがリベンジしに来たんだから断るなんて無いよね?」
先に口を開いたのはKING―諏訪部睦月だ。
伊達地方予選まではミキオが彼を打倒するために励んだが、今度は睦月がリベンジを申し込む立場になったようだ。
背の小さい彼の後ろには茶色の髪をおかっぱに切り揃えた女子が見え隠れする。睦月と同じショップをホームに持つ版十赤音だ。
彼女は「1人で行かせるなって谷本さんが言うから…」と、なぜか小声でタンサンに弁解していた。
「今度は”自分の50枚”を持って来た。勝負だ、栗田ミキオ!」
と言ったのは的場常冶だ。
地方予選での対戦後に、ミキオが話していた『おもちゃのカキヨ』を調べて出向いてきたらしい。
今度は自分のデッキを作って。
「~!」
ナツキは唇を震わせて、今にも叫びだしそうだ。
空気を読め、空気を。という視線でタンサンを睨んでみるも、彼のせいではない。
ミキオの戦いは続くのだろう。話はまた今度かなぁ…。と肩を落とした。
そんなナツキの横では、乱入してきた対戦者たちの言葉にミキオが「面白れぇ」と笑って立ち上がる。
突き出した右腕、手首にはシリコンリングが巻かれている。そして人差し指でまっすぐ対戦者たちを指した。
そう。彼の戦い、ミキオのガンダムウォーは続く。
「よっしゃ!全員まとめてオレが相手してやるぜッ!!」
おわり
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Write&Txt
Y256
Project
少年漫画のごとくガンダムウォーをしてみよう
イザッカ氏
CAST
Mikio Kurita:himself
Tansan Hatori:himself
Nathuki Ise:herself
Mari Kurusu:herself
Takeshi huzino:himself
Soya Tanimoto:himself
Muthki"king"Suwabe:himself
Akane Hunt:himself
Jun Thukagi:himself
Mr.HATADO:Hazime Kohata
Mikio's first round Duellist:Haruki Saki
Mikio's fifth round Duellist:Jogi Matoba
Tansan's fifth round Duellist:Dutch The Hut
Nathuki's fifth round Duellist:Ine"D4C"Valent
Mikio's mother:Sethuko Kurita
Mikio's brother:Seiya Kurita
Koko maneki:herself
Yoshiki Saito:himself
and HUGAMA high school student...
Ne-San:Kyoko Honda
Support
MIKIO~自称中級決闘者伝~
Y256のSS置き場
あたガンとかの掲示板
ATAGUN Wiki
切り開く力ver2.1
Reference
GUNDAM WAR OFFICIAL WEB
GUNDAM WAR Wiki
and 数え切れないほどのオマージュ元...
Special Thanks
パノラマ☆みかん氏
ロリー氏
仲田氏
ヨハン・エリクソン氏(ナイスガイ)
クリスティナ・シエラ氏(女神)
Team塩諸兄
読んでくれた皆様
Y256
2010.08
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[[前へ>M55]] / [[第2期TOP>MIKIO2]]
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txt:Y256
初出:mixi(10.08.08)
掲載日:10.08.08
更新日:10.08.08
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梅雨が明け、カレンダーが捲れるころにはすっかり季節は夏に変わっていた。
猛暑というより酷暑という天気が続き、テレビ番組でも熱中症の話題が取り上げられる日々。
その日もそんな揚期だった。
「む~ぅ」
射勢ナツキはガンダムウォーの大会に出るため『おもちゃのカキヨ』の隣にある空き家、通称”対戦スペース”にむかって歩いている。
いつもなら使用人である来栖真理の車で送ってもらうのだが、今日は「寝覚めが良かったから歩いてみよう」と思い、送迎を断ったのだった。
しかし、道半ばにしてその思いつきをひどく後悔することとなった。なんといっても、暑い。
熱中症にならないようにと真理が渡した帽子を被って、耳にはお気に入りの白いヘッドホン。
曲は西野カナの「Dear…」―。
重い足取りで、彼女はなんとか対戦スペースにたどり着く。スペースの入り口、ガラス戸の向こうには1人の少年が見える。
早めに家を出発したため随分早く着いてしまったらしいが、その少年の姿を見咎めた途端ナツキにとって”それ”はどうでもいいことに変わる。
彼女は嬉々としてガラス戸に手をかけた。年季の入ったガラスの引き戸は滑りが悪いが、初めて来た時よりは上手に開けられるようになっていた。
「おっはー☆」
ガラス戸を開け、手を振るナツキ。
対戦スペースの中には、今来たのだろう栗田ミキオが一人で立っていた。
「なんだ、ナツキか」
対戦スペース内は空調が効いており、外とは別の世界のようだった。
空調が生み出した涼しい空気を頬に受けながら「生き返るぅー」とナツキは伸びる。
少し日焼けした肌に水色ワンピースが映える。
「大袈裟だな…」
「そんなことないよぅ。ほら~!サンダルの底焦げてるし!」
「ウソつけ!」
サンダルを脱いで裏側を見せる彼女を一瞥し、ミキオは一番手前のテーブルに荷物を置く。
ナツキもそれに習うようにガラス戸を閉めて中に入った。
*第50(56)話 夏の日
ミキオはガラス戸の向かい側に陣取った。ここが彼の定位置。
誰かが奪い取るわけでもないのだが、よくミキオは一番乗りでこの席を取っている。
「タンサンは?」
カバンを開けるミキオを覗き込みながら、彼女はそう聞いた。
カバンのサイドポケット部分に自分があげたコンコルドが付けられているのを発見して頬が緩む。
聞かれたミキオは生返事をしながら、ストレージボックスからカードの束を取り出す。
「わかんね。今日は一緒じゃねーし」
彼は手にしたカードの束から茶色のカードをテーブルに出していく。
新しいデッキでも作るのかなと眺めていたナツキは、ストレージボックスから覗く1枚のカードを発見して声を上げた。
「ミキオ。それは?」
そのカードは、マスラオ(トランザムモード)の箔押しバージョン。
地方予選大会で3勝以上のプレイヤーに配られるプロモーションカードだ。
「あぁ、地方予選の時のか。そういやまだタンサンに渡してなかったな」
そのカードを取り出し、思い出すように言うミキオ。
緑系のデッキを使うタンサンにあげる約束をしていたが、当の彼はマスラオを使ったタイプにあまり興味が無く、催促することもなく2人とも忘れていたのだった。
「もう半月も前かぁ~」
感慨深げに天井を見上げて、もう一度伸びるナツキ。
首に降ろしたヘッドホンがガチャリとプラスチック音を響かせた。
ミキオは相槌を打ちながら、今日は忘れずにタンサンに渡そうとそのカードをテーブルの端に並べる。
脳裏には伊達地方予選大会の最後の対戦―的場常冶との勝負が思い出された。その最後のターンが。
×××
「諦めはしない。俺の…ガンダムジエル!!」
ガンダムラジエルと報道された戦争のパワーから常冶の一方的勝利になるかと思われた序盤。
しかし、中盤にはミキオが”自ら選んだカード”の組み合わせで巻き返すことに成功する。
そして攻防が続き、互いにあと一撃で無くなるほどに磨り減った本国。終盤…最後のターンを迎えた。
「あぁ…勝負だッ!!」
ミキオ側にはシャイニングガンダム《16》が防御に残っているが、常冶には5回まで使うことが出来る最後の照準があった。
この状況。ミキオがシャイニングガンダムを残した時点で、常冶はある可能性に感づいた。
ミキオも感づかれることを承知でそうする他に選択の余地は無いのだ。
互いにギリギリの状況。
先に表になったのは…常冶の1枚だった。
「異なる時を刻む物語!」
4以上の合計国力を持つユニットを手札に戻すコマンドカード。
黒指定の00ユニットが登場し始めた頃に配布されたプロモーションカードであり、合計国力3以下が多い同ユニットたちを見越したデザインだ。
常冶は眉をひそめ、ミキオの様子を覗う。
ほんの数秒の出来事だったが、この勝負の決着がその数秒に凝縮されていた。
ミキオは静かに首を振ってシャイニングガンダムを手に取る。このカードの防御が無ければ、彼の本国は…。
「っそー…オレの負けだ」
ミキオは手に取ったシャイニングガンダムを手札に戻すことなく、そう宣言した。
手札から見せたのは、ゴッドガンダムのカード。
防御に出撃したシャイニングガンダムを最後の照準で破壊するしかない相手は、破壊状態のシャイニングガンダムから効果で場に出るゴッドガンダムは破壊できない計算だった。
「そっちで助かった。明鏡止水なら負けていたのは俺だ」
「でも、そうはならなかった。…お前もテンプレ最強とか言っておいて、”そうじゃないカード”も入ってるじゃねーか」
自分のカードを纏めながらそう口を開いた。
負けはしたが何か面白いことを発見したように、ミキオはニヤリとしてみせる。
彼は常冶のスコアシートに「○」を記入する。
「…これはあれだ。兄さんが入れろって言うから仕方なく」
言われた常冶は少しどもった後にそう返した。
彼は、兄の考え方は嫌いだった。が、ずっと兄の背中を見てプレイしてきたのだ、兄自身のことは邪険にしない。
「じゃあ今度はよォ」
「ん」
「自分の50枚で勝負しにこいよ」
「考えておく」と息をついた常冶はミキオのスコアシートに結果を書き込んだ手を、そのまま彼に差し出す。
ミキオは肩をすくめてそれに応じる。
2人は握手で対戦を締めた。
×××
「9位入賞はすごいよっ」
ナツキの声で脳裏で再生されていた半月前の記憶が途切れる。
彼女はぴょんぴょんと小さく飛んだあと「さすがウチのミキオ~」と彼の金色の髪を撫ぜる。
何度も聞いてきたクセのある台詞、それでいて嫌味の無い響きだ。
「やめろって、髪崩れる」
「いーじゃんいーじゃん☆」
ナツキはえへへと笑ってミキオの隣の椅子に座る。
彼の近くに座りたかったのだろう。
「今度は全国大会で暴れてやるぜ」
得意になって言うミキオ。ナツキは嬉しそうに頷く。
地方予選はその名の通り全国大会を見据えた予選大会であり、各ブロック10位までが東京で行なわれる全国大会への出場権を得ることが出来るのだ。
ギリギリとはいえ、ミキオもその権利を手にしていた。
「もっと腕を磨かなきゃな」
とミキオはデッキを広げ始めた。
新しく加わったカードもあり、動きを把握しなければいけない。
対戦スペース内は、空調機の音とミキオが並べるカードの音だけが響いていた。
ナツキはミキオの横顔を見て短く思案した後、下唇を噛む。
話をしようと思った。
いつもミキオへの熱烈な好意を隠さない彼女だが、キチンと伝えたかと聞かれれば否。
それを言うには、彼女にだって心の準備がいる。
「ミキオ、」
「ん?」
椅子を引き、ミキオに向き直った彼女。衣擦れの音がカードの音を掻き消した。
ナツキが次の言葉を口にすべく息を吸った直後、対戦スペースの扉が鈍い音を立てて開いた。
「い゛」
扉を開けたのは羽鳥タンサン。
ギョッとして彼を見るナツキとは対照的に、ミキオはマスラオ(トランザムモード)のことを即座に思い出した。
「大変だよ、ミキオちゃ…」
タンサンが苦笑いでそう言うも、喋り終わる前に男子2人が対戦スペースに乗り込んでくる。
ひとりは耳に被るくらいに伸ばした黒髪が特徴的な、ミキオより小さな少年。
もうひとりはミキオよりも長身で『常勝』の鉢巻をつけた少年だ。
「ボクがリベンジしに来たんだから断るなんて無いよね?」
先に口を開いたのはKING―諏訪部睦月だ。
伊達地方予選まではミキオが彼を打倒するために励んだが、今度は睦月がリベンジを申し込む立場になったようだ。
背の小さい彼の後ろには茶色の髪をおかっぱに切り揃えた女子が見え隠れする。睦月と同じショップをホームに持つ版十赤音だ。
彼女は「1人で行かせるなって谷本さんが言うから…」と、なぜか小声でタンサンに弁解していた。
「今度は”自分の50枚”を持って来た。勝負だ、栗田ミキオ!」
と言ったのは的場常冶だ。
地方予選での対戦後に、ミキオが話していた『おもちゃのカキヨ』を調べて出向いてきたらしい。
今度は自分のデッキを作って。
「~!」
ナツキは唇を震わせて、今にも叫びだしそうだ。
空気を読め、空気を。という視線でタンサンを睨んでみるも、彼のせいではない。
ミキオの戦いは続くのだろう。話はまた今度かなぁ…。と肩を落とした。
そんなナツキの横では、乱入してきた対戦者たちの言葉にミキオが「面白れぇ」と笑って立ち上がる。
突き出した右腕、手首にはシリコンリングが巻かれている。そして人差し指でまっすぐ対戦者たちを指した。
そう。彼の戦い、ミキオのガンダムウォーは続く。
「よっしゃ!全員まとめてオレが相手してやるぜッ!!」
おわり
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Write&Txt
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少年漫画のごとくガンダムウォーをしてみよう
イザッカ氏
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Mikio Kurita:himself
Tansan Hatori:himself
Nathuki Ise:herself
Mari Kurusu:herself
Takeshi huzino:himself
Soya Tanimoto:himself
Muthki"king"Suwabe:himself
Akane Hunt:himself
Jun Thukagi:himself
Mr.HATADO:Hazime Kohata
Mikio's first round Duellist:Haruki Saki
Mikio's fifth round Duellist:Jogi Matoba
Tansan's fifth round Duellist:Dutch The Hut
Nathuki's fifth round Duellist:Ine"D4C"Valent
Mikio's mother:Sethuko Kurita
Mikio's brother:Seiya Kurita
Koko maneki:herself
Yoshiki Saito:himself
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Ne-San:Kyoko Honda
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