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#66 『受験生』は禁句


「おはよ」

廊下を歩いていた詩織に教室から声をかけた。
あたしの席は教室の廊下側の一番端。この席の利点は教壇から遠いってのもあるけど、廊下の知り合いに座ったまま声をかかれらるところなんだよね。

「おはよー。どうしたの?」

こっちに気付いた詩織が駆け寄ってくるなりそう言った。

「どうしたもこうしたも…もう朝から集会でもホームルームでも『受験生ですので』『受験生らしく』『受験生だから』とか受験生連呼しすぎだっての!ブロックワードで指定しようかしら」

あたしは不機嫌面で愚痴る。

あたしたちは今年で高校3年。たしかに受験生だよ。
でもさ、そんなのわかってるんだから、わざわざ春先から言わなくたってよくない?

「しょうがないよ。3年生なんだし」
「かなあ…」

詩織は何がおかしいのかクスリと笑った。
今日も”松岡の好きな”三つ編みがバッチリ決まってる。

「詩織はいいよねー。頭いいからAOとかで一発でしょ?」
「ホラ、京ちゃんまたそうやって私のことバカにするー」

詩織は困った顔でそう言う。
えーと…
バカにはしてないと思うんだ。確実に。

「あ、そうだ。今日はミーティングだって。夏樹ちゃんが」

詩織は思い出したようにポンと手をついて言った。
ちなみに夏樹ってのはうちの部活の部長。

「ミーティング?ああ、新入生歓迎のPRまだ考えてないパターンね」
「うん。この話、春休み中ずっと先延ばしにしてたからね」

苦笑する詩織。
よっしゃ。こうなったらこの部活の参謀格(自称)であるあたしが手伝おうじゃないの!

「りょーかい。じゃ放課後に」
「うん。じゃあね」

詩織は軽く手を振って廊下の向こうに消えた。
さーて、午後の授業の準備でも…

「みつけたぞ…本田京子!やはり同じ学校だったか」

机の中から英語の教科書を探すあたしに、廊下からかけられる声。
見ると、あたしを指差して立っている男子が一人。

「あ」
「フッ」

顔を見てあたしは指を指す。
こいつ…

「…誰だっけ?」
「なんだと?」

勢い込んで来た男子は拍子抜けした顔で手を下げる。
あたしは3秒くらい考えて「あ~!」とそいつの顔を改めて指差した。

「的場剣治!」

そうだ。コイツこないだカキヨに来たじゃん。
ガクランに鉢巻だった前と違い、今回はうちの制服だったから気付かなかったんだ!

って…うちの学校の制服?

「ちょっと待って?じゃあ、あんたうちの学校だったわけ?」
「だからさっきからそう言っている」

なんだかエラそうに剣治はそう言った。
その妙にエラそうにするのが無かったらカッコいいのにね。

「え?じゃあ、あのガクランは何よ?」
「私服だ」
「…いいセンスしてるわね」

あたしは苦笑して、英語の教科書を探すのに戻る。
どうやら剣治はうちの学校の生徒だけど、家は町のほうだからカキヨの存在自体を知らなかったということらしい。
そして今日の朝の全校集会であたしを目撃したってわけ。

「ということだ。よし、リベンジだ!」

一通り経緯を話し終えた剣治は、最初からその気だったといわんばかりにデッキを出す。
は?今?

「ちょっと…もう昼休み終わるってば」
「それとリベンジに何の関係が?」


一瞬の静寂。


こいつ…バカだ。

「はいはい。また今度ね~」

あたしはニコッと笑って教室の扉を閉めてため息をついた。


×××


午後も『受験生』が耳につく授業を受け、掃除をこなす。

「京ちゃん、いい?」

放課後の教室に詩織と松岡が入ってくる。
松岡はいつも詩織の部活が終わるまで教室で時間を潰したり、他の部活の助っ人をしてたりする。

「うん、準備オッケー。いこっか」

松岡は、まだ教室にいた武志の机で話を始めた。
今日は部活の助っ人は無かったのかな??

その時、今しがた詩織たちが入ってきた扉がまた開いた。勢いよく。

「本田京子!リベンジだ!」

こいつ…
あたしは頭を抱えながら口を開く。

「ちょっと待ちなさいよ。あたしたち今から部活で」
「それは”逃げ”だな」

逃げという単語にカチンとくるが、あたしは部活の「PRについての深刻な問題」のことを考えて踏みとどまる。
詩織はなんだかよくわからずあたしたちを見守っていた。

…そうだ!対戦相手ならいるじゃない!
あたしは松岡と武志の方を振り向き大声で呼んだ。

「松岡ー!今日はあたしの助っ人してよー!」

武志と松岡はわけがわからないという風に私を見た。

「この”黒使い君”と対戦してあげてよー」
「…は?まあ、今日は詩織が部活終わるまで待つ予定だったけどよ…」

黒使いという単語に松岡は少し嬉しそう。
最近は黒の不遇具合について散々語ってたからね。

「はい、決定!ささ、剣治もどうぞあちらに~」
「そういうことなら…仕方ないな」

案外あっさり納得する剣治。
意気投合したのか、楽しそうに「ジャブ風がどう」だの「バイク」だの楽しそうに話している。

あたしは連中の気が変わらないうちに、松岡のほうを見る詩織の手を引き、教室を出た。

「ほーら、一件落着だったでしょ?まあ黒使いってもアストレアとかが好きみたいだけどね~」

体育館を過ぎたあたりであたしは詩織にニッと笑って見せた。
さすがあたしの采配!剣治が松岡と友達になれば、松岡は詩織のカレ、そして詩織はあたしの親友。この完璧な構図!リベンジの話はきっとお流れね。

「京ちゃん…今なんて?」

鼻歌交じりに歩くあたしをよそに、詩織は立ち止まってそう言った。

「いや、アストレアとかの黒片デュアルカードが好きなんだって。あいつは」
「京ちゃん。それ…すごくマズイよ!」
「?」

切羽詰った様子で言う詩織に、あたしは首をかしげる。




<一方、武志…>


京子としおりんが出ていったあとの教室。

「だよな。偽りの会談は撃つタイミングがなぁ」
「そういえばOOPのユニットはどれが好みだ?俺はなんといってもアストレアだが」
「アスト…レア?」

勇が固まる。

「お前…剣治とか言ったな」

勇は急に鋭い目でそう言った。
アストレアがどうしたよ?

「フッ…なんだ?松岡勇」

その雰囲気(どんな雰囲気だ)を読んだのか、剣治も笑うのをやめる。

「00ユニットは嫌いだぜ。連中は人の勢力に土足で踏み込む輩からだからな」

勇が言う。
まあそうだけどな。でもカッコいいからいいじゃん。
俺は内心そう思いつつ、あいつらを見守る。

「偏見だな。で、片方黒の指定を持つOOPのユニットも却下…か?」
「おうよ」
「そうかならば”古臭い”ユニットでゲームを楽しんでいるということか」

同じ黒勢力好きでさっきまであんなに楽しそうだったのに…なんだよコレ。
俺はとりあえず腰を下ろした。

「勝負…」
「だな」

バチバチと視線を交わす二人。
俺はあくびをした。


つづく


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初出:あたしのガンダムウォー
掲載日:09.04.03
更新日:10.04.14