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#78 突然の暴力に


「惜しかったね、最後の」

あたしはそう言いながら、鞄を右肩にかけた。
大会は4回戦で終わり、剣治は最終的に4位。あたしの順位?聞かないでよ。

「いや、10枚見てプトレマイオスだけではさすがに俺の引きが悪い」

剣治はさらっと言って歩き出した。
なによ。さっきまで「黒勲章だ」だの「プルトーネ」だの喜んでたくせに。
こいつのこういうところがよくわからない。テンションの起伏っていうの?

「あ、時刻表持ってないわよ?」
「来るときも聞いた」

そんなことを言いながらあたしたちは路地を歩く。
ぶっちゃけこの町、伊達と違ってあんまり都会って雰囲気じゃないね…。一本外れた路地ってだけで、人は少ないわ街灯はまばらだわ。
でも、今日はいい刺激になった。地区予選では大暴れしてやるんだから。

「よーし、攻撃あるのみだー!」

あたしはグッと右手を上げた。
数歩先を歩いていた剣治が「は?」という顔であたしのほうを振り返る。
異変はその直後に起きた。


不意に剣治が倒れる…いや、殴り倒された。
あたしは数瞬遅れて、小さく悲鳴を上げ剣治に駆け寄る。

殴ったのはさっきの…赤髪の男。建物の陰に隠れてたんだ。
殴られた剣治の頬は赤く擦り切れていた。

「待ってたんだぜ~ガキィ!」

赤髪は怒りの火を爛々と灯した目で剣治を見下す。
対する剣治は…無表情、いや「呆れた」という顔で溜息をついた。

「ッへェ~こいつがァ?」
「なんでぇ、ただのガキじゃん」

赤髪の後ろから二人の人影が現れる。
金や銀の装飾品と派手な頭髪。青髪と黄髪の男たちだった。

いつものあたしなら「信号みたいね」と笑い飛ばすんだけど、今回ばかりはマジな喧嘩の雰囲気に冗談が出てこない。

そうだ…矢田部さんにまた仲裁してもらおう。

あたしは剣治の肩から手を離し、もと来た方向に向かう。
その角を曲がればすぐさっきのショップだ!

「何?何?矢田部サン呼ぶ気ィ?」

赤髪が合図して、青髪が軽く跳躍したかと思うと、あたしの左手首を力任せに引き寄せた。
痛さよりもショックで唖然とする。

 悲鳴をあげろ京子!

 何で黙ってんのよ!

心臓がバクバク音を立てて鳴る。
頭では警鐘を鳴らすけど、声が出ない。

「止めろ。彼女は関係ないだろ」

そこで剣治が立ち上がりながらそう言った。
臆してなどいない声。

「い~や~だ~ねェ~。お前が反抗的な態度ばっかすっからだよォ。あの子は連れてくぜェ?んでお前は、そうだな…」

そう言って、赤髪はおもむろに内ポケットから銀色に反射するナイフを取り出す。
弱く光る街灯の光に反射したそれは、不気味な光を放っていた。

「利ィ~こいつ脱がしてもいいか~」
「バーカァ、車まで待てっての」

あたしを抑えてる青髪が愉快そうにそう言った。
あたしは反射的に肩をびくっと震わせる。

 何か言え京子!

 クソ野郎って言ってやれ!

心臓がバクバク音を立てて鳴る。
なおも警鐘を鳴らす頭の中の”強くあろうとする自分”。

「…あ」

やっと搾り出せたのは、消えそうなくらいの声。
逆に怯え丸出しの反応に、青髪は面白がって顔を近づける。

「安心しろって”優しくしてやる”からよォ」

青髪があたしの耳元でそう言った。
悪寒。
そこでなんとかあたしは――内心は今にも泣き出しそうだったけれど――睨み返した。

「もう一度言うぞ。止めろ。最初は油断したが、次はないぞ」

剣治が挑発とも警告とも取れるようなことを口にした。
そこで赤髪がキレた。

「んだとコラァァ!スカしてんじゃねェーぞ!」

赤髪がナイフを持って跳躍する。

あたしはやっと悲鳴を上げた。
自分でもびっくりするくらいの。


夕暮れの暗い路地に鈍い金属音が反響する。


あたしは固く閉じた目蓋をゆっくり開けた。
まず目に入ったのは、目立った怪我もなくさっきと同じ場所に立っている剣治だった。
逆に赤髪のほうは、地面に蹲ってお腹を押さえている。

「なんだっ…テメェ…!」

赤髪は剣治を見上げるのも苦しそうで、そのまま地面に俯いたまま悪態をついた。

「止めろと言ったハズだ」

剣治はそう言うと、すばやくあたしと青髪のほうを見る。
青髪は「ああんっ?調子に乗ってんじゃねーぞっコラァ!」だのと言ってあたしを放し、赤髪に駆け寄る。
口では牽制しているが、剣治を警戒しているのが見て取れた。

「大丈夫か?」

それと入れ違いになる形で剣治があたしのそばに来る。
地面にへたり込んだあたしに、後ろを少し警戒しながら手を差し出した。

「いくぞ」
「う…うん」

あたしたちは早足でその場を去った。
後ろから連中の罵声が聞こえたが、負って来る気配はなかった。






「…正直、そろそろ痛いんだが」

駅を眼前にして、それまで黙っていた剣治が口を開いた。
そう言われて初めて、あたしが彼の腕を力一杯握っていたのに気付く。

「あ、ゴメン」

あたしは苦笑して手を離した。
まだ心臓はバクバク鳴ってたけど、もう大丈夫。

「もしかして、あんた強いの?見かけによらず」
「フッ…基本的な護身術だ。それと、”見かけによらず”は余計だ」

そこであたしは大笑いした。


×××


結局、あたしは府釜駅まで送ってもらった。

あたしは家に帰るなり親父に「疲れたから少し寝るね」と言って部屋に入る。
鞄を机のほうに投げ、倒れこむようにしてベッドに突っ伏す。

まだ心臓は高鳴っている。
どんだけビビリなんだよ自分。

「あ」

違う。違う。
こりゃバクバクっていうよりは…ドキドキしてる感じだ。今まで緊張で気付かなかったんだ。
そこまで思考してあたしは飛び起きた。

このキモチをなんていうかは知ってる。

でも、なんていうか…意外。

あたしはもう一度突っ伏して足をバタつかせた。



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初出:あたしのガンダムウォー
掲載日:09.06.05
更新日:10.04.14