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#100 続くあたしの日々


「ターン終了よ」

あたしはユニットを帰還させてそう宣言した。

このターン、救国の英雄でアフリカを破壊して国力を復旧させたあたしは、ハイマットとバックホームで反撃を開始した。
完全なロックを成功させたと思い油断していたのか、剣治側の守りは前のターンの毒牙のプレイで発生した守備隊コイン1枚。
3点の回復に成功したあたしの本国は目算で半分程度。さぁ、ここから反撃よ!

「ドロー…ここで失速するわけにはいかないな」

剣治はそう言って、手札のユニットを出す。
アストレアタイプF、こっちのサイズを小さくするユニットだ。

「さらに、サダルスードFにこのカードをセット、フォン・スパーク」
「オーケー。カットインはないわ」

あたしは軽い感じで許可を出す。自動Dのコングロが起動し、守備隊コインを1枚出した。
あのキャラは確か、乗り換えと移動テキストだったわね?

「戦闘フェイズに入る。サダルスードF、守備隊コインを宇宙に出撃させる」
「…ハンガーのこのカードが見えないの?防御ステップ、デュエルガンダム《21》をプレイするわ!」

サダルスードFの本国操作能力を使って「上」と宣言する剣治に、あたしは威勢よく宣言する。
さっきのターンにバックホームの効果でハンガーに移ったデュエルだ。あ、ちなみに、もう1枚は白基本Gね。

「いいや、忘れてはいない。防御規定後、フォンのテキストでサダルスードFは射撃にまわらせて貰おう」
「いいわ。じゃあ先頭になったコイン討ち取りね」

良いように逃げられたけど、本国に6ダメージ受けるよりはマシだ。

「ターン終了だ」
「よーし、あたしのターン!」

ミーティアが欲しいケド、ドローはこれ…か。
しかたない。あっちだってチャンプブロックしかできなさそうだし、ここは攻撃あるのみね。

「配備フェイズ、ハンガーの白Gを配備。んで、もっかいデュエルガンダム!」
「では俺も同じく配備フェイズに、フォンをテキストでサダルスードFからアストレアFに移す」
「ん?いいわよ」

剣治の行動を確認した後、あたしは戦闘フェイズを宣言する。
今防御に出られるのは、フォンがセットされたアストレアFとリロール状態の守備隊コイン1枚。
フォンのテキストでマイナス修正を与えるアストレアFがロールで飛んできても、討ち取れる部隊なら問題ないわね。

「宇宙にハイマット、地球にデュエルとバックホームを出撃させるわ」
「甘いぜ。本田京子。”場”だけでは不利なのは、俺とて百も承知。だからこそ、フォンのアストレアへの移動の意味を考えるべきだったな…アストレア&プルトーネ!このカードを換装でアストレアFと置き換える!」
「コンビ…カード?」

ハンガーに移った白Gと中東国の支援をきちんと確認する暇もなく、剣治が出したカードに目がいく。
アドバンスヘイズルみたいなテキストで、手札からプレイしたデュアルコマンドがハンガーに行くようになるコンビユニット…やっぱり使ってたのね。

「防御規定でアストレア&プルトーネを宇宙に移す」
「…いいわ。受けて立とうじゃないの」

剣治は「フッ」といつもの鼻笑いでユニットを移動させる。
デュアルコマンドを握ってそうね…そうじゃなきゃ換装して早々に相打ちコースだし。

「ダメージ判定ステップ規定前までいいか?」
「いいわよ」
「では、行かせてもらう。宇宙エリアのフォンのテキストを使用して、アストレア&プルトーネを地球エリアに」

戦闘フェイズ中のBFだから、ダメージ判定ステップ規定前に使えば両面の攻撃を防げるんだ。
3国力であの戦闘値とテキスト…デメリットはどこにいったのよー!

「そして、アストレア&プルトーネが介入することで交戦中になったバックホームに、裁きを下すもので4ダメージだ」
「ダメージカードね。特殊シールドは…」

宣言しても、1減殺で3ダメージ。
ちょうど破壊か…ここは仕方ないわね。

「いいわ。バックホームは破壊っと」
「解決された裁きを下すものはハンガーに…そしてコングロが守備隊コインを発生する」

裁きを下すものはハンガーに移ったけど、これ以上撃つ意味はないはず。
他の2枚のユニットが持つ特殊シールドは3だから、ダメージは1点しか通らないしね。

「特殊シールドさえなければ、守備隊コインも防御に出撃して全滅できたのにな。…たいした硬さだ」
「えへへ♪でしょ?」

あたしは自分が褒められたかのように照れ笑いしながら、ターン終了を宣言した。
攻撃は全部防がれ、デュアルコマンドがハンガーに移った程度で貴重なユニットが2枚も破壊…状況自体は笑えないけどね。

「配備フェイズ、タシロの賭けをプレイ」

剣治は、ドローしたカードをすぐに場に出す。
規定ドローが無くなる代わりに、ターン終了時にドローができるオペレーション…サダルスードFで見た本国のカードを、終了時に手札に加えられるってことね。

「フォンをサダルスードFに移し、戦闘フェイズに入る」
「了解。…厳しいわね」

一掃しないかぎりチャンプブロックとサーチを続けられるこの状況に、あたしの口から思わず弱音がでる。

「サダルスードFを宇宙、守備隊コインを地球だ」
「サダルスードFの5点とコインの2点ね。…通しよ」

あたしは本国のカードを捨て山に送る。
さっきのターンに迷わずデュエルを再プレイしたことから、手札にユニットがないのはバレバレってわけね。
いや、フォンがいるから片面ブロック程度じゃ5点が確実に本国に通る仕掛けか。

「この突破力と防御力…どう攻略する?ターン終了だ」

剣治はニヤリとしてそう言う。
終了時に起動するタシロの賭けでは、唯一の手札――さっき換装で手札に戻ったアストレアF――を廃棄して2ドローを選択した。
サダルスードFが出撃したときに本国をコントロールしてから、予定通りの2枚が手札に舞い込んだことになるわね。あー嫌だ。

「その程度のキャラなんて、すぐ片付けるわ!」

根拠のない言葉で規定のドロー。
続いて、ハンガーの白基本Gと中東国の支援をプレイ。これで手札は一気に6枚に膨れ上がる。

「プラント最高評議会をプレイ」
「了解だ」

少し遅い。

「んで、ハイマットにこのキャラをセット…シン・アスカ《DS5》!」
「…破壊的なほうのか」

剣治はテキストを思い出すようにカードを見る。
ええ、まあ。破壊的ってなんか嫌な響きだけど、そうね。

「このカードは、防御ステップに交戦中の敵ユニットを無理矢理にでも破壊可能なテキストを持つわ。規定前にしか移動できないフォンを倒すには十分よ!」
「フッ…BFが初めて足枷になったな」

妙に納得する剣治に、あたしはターン終了を告げる。
ここで変に攻撃するよりは、次の最高評議会での手札入れ替えを待ったほうが得策。

「配備フェイズ。ハンガーの裁きを下すものをヴァリアブル」
「いいわ」

ここで…か。
赤指定2が必要なカードが来たって言っているようなもんでしょうが…それともブラフ?

「戦闘フェイズに入る。サダルスードFを宇宙、アストレア&プルトーネと守備隊コインを地球に出撃だ。サダルスードFのサーチは並び替え後、上を宣言」
「ここで迷わず来る…?」
「ああ…奇襲性の薄いそのキャラクター程度にひるむデッキスペックではないからな…異なる時を刻む物語!」

ッ…!
剣治のデッキが格上のユニットと勝負するときの定番カードだ。

「いいわ。ハイマットは手札に、攻撃は受けるしかないわね」
「…やはり、奇襲ユニットはプラント待ちか」
「そうよ♪」

あたしはターンをもらい、最高評議会で手札を入れ替えた後に規定のドロー。そして手札の一番左のカードをすぐに表にする。

「ウイングゼロ《22》!このカードなら、あんたのターンまで待たずにフォンの機体を破壊可能よ!」

あたしはビシッとそのユニット出す。
サイズ、エリア問わずのこの破壊力はさすがウイングゼロ。これであの面倒なフォン・スパークを一発で落とせる!

「戦闘フェイズ行くわ!」
「いや、待て。配備フェイズ中に裁きで赤1を発生して、このカードをプレイだ」

あたしは手を止める。
指定2を2つ持つデュアルカード…?

「介入行動。このターンの戦闘フェイズは俺が貰い受ける!」
「…!」

あたしは苦い顔をする。
これじゃフォンに届かないばかりか、本国が余計に薄くなる。

「今発生した守備隊コインを両面に出撃だ」
「いいわ。4点通しね」

この攻撃は、あたしの本国を一撃で沈める薄さにするための前座。こんなのをウイングゼロで守ってたら、次の攻撃…本命の一撃を受けるハメになる。
ハンガーにある異なる時を刻む物語を撃ってこなかったことからも明白。

「残り本国を確認させてくれ、本田京子」

剣治はそんなことを言いながら、ユニットをリロールさせる。

「手に取って数えるまでもないわ、10枚よ」

本国をスライドさせてみせるあたし。
それを見た剣治は静かに頷いた。

「戦闘フェイズに入る。出撃前に再度ハンガーから異なる時を刻む物語」
「了解よ。ウイングゼロは手札に戻るわ」
「そうだ…それでいい」

剣治は勝ちを確信した顔でそうつぶやいた後、ユニットに手をかける。

「攻撃規定…宇宙にサダルスードF、地球に守備隊コイン4枚を出撃させる!サダルスードFのサーチは並び替え後、下を宣言」
「いいわ。防御ステップ規定前ウイングゼロを再びプレイ」

双方のエリアの部隊戦闘力は5…フォン側を守る意味はない。
となると、地球ね。

「これで終わりだ。ウイングの再プレイで本国は残り8枚、この攻撃が通り残りは3枚。ドロー後にユニットをプレイできる本国は残らない!」
「ユニットのプレイは1枚しかできないからね…でも、それが”あたしを負かす理由”にはならないわ!」

あたしは防御規定で、ウイングゼロを守備隊コイン4枚が待つ地球エリアに出撃させる。

「そして…これがあたしの最後の一手!ガンダムデスサイズヘル《23》をサダルスードF側に出すわ!」
「それは…!」

デスサイズヘルは、敵軍ユニットが2枚以上いれば、防御ステップに戦闘エリアに出る効果を持つ新弾のユニット。
ユニットのプレイが1枚しかできなくても、このカードは出すことが出来るのよ!

「デスサイズヘルが戦闘エリアに移動したから、交戦中のサダルスードFはロール。フォン・スパーク…捉えたわ!」
「自動BとDの連続起動でサダスルスードFのテキストが割り込む暇すらないとは…」

剣治は難しい顔でそう言った。

「ダメージ判定ステップ規定前、地球のウイングゼロが範囲兵器でエリアの敵を一掃するわ。さあ地球に来るならどうぞ?」
「フッ…資源の無駄だ。サダルスードFは大人しく落ちる」

剣治はその言葉通りサダルスードFを廃棄して、タシロの賭けの1ドロー宣言でターンを終えた。
残った戦力は、リロールのアストレア&プルトーネ1枚。

「あたしのターン…配備フェイズに、ハイマットとシンをもう一回」
「あぁ…この攻撃が通って、本国差が致命的になり。俺が投了だ」

剣治は「さっきのターンでこっちが勝ちきれなかった時点で、こちらの負けは決まっていたが」と言って肩をすくめた。
あたしは微笑んで頭を下げた。

「「ありがとうございました」」



×××



その後も大会は続いて、決勝で未来のガデッサをなんとか封じ込めたあたしが優勝。
金色の箔が押された白のカードを貰っちゃった♪

「おーい、京子ー。フレプレしようぜ~」

大会が終わり、人が少なくなった空き家。
武志がテーブルにデッキを広げながら誘う。

「いいわよ。でもちょっと待って」

あたしは武志の向かい側の席にデッキケースと賞品のカードを置き、ガラス戸の向こうで話していた剣治に目を向けた。
意図を察してか、詩織が目で「頑張れ」と言っていた。

あたしは意を決して歩き出す。
一歩一歩足を進めるたびに早くなる鼓動を極力無視して、空き家のガラス戸を押し開ける。

「剣治、ちょっといい?」
「本田京子か。優勝、さすがだ」

あたしは「駐車場に来て」とだけ言って、早足でその場を離れる。
ちょっと急な誘い方だけど、それ以上舌が回らなかった。

剣治が「先に行ってください」と金田さんたちに言ったのが聞こえ、彼は小走りであたしを追ってきた。
まだ夕方には早い時間だけど、風は思ったより涼しい。

「…ねえ」

駐車場の縁石の上に立ち、風に暴れる後ろ髪を除けながら、あたしは口を開く。
これから自分が言わんとすることを想像して息が上がる。

昨日の決意はどうしたのよ?
自問してみるけど、返ってくるのは世界新記録を出せそうな早さで脈打つ鼓動だけだ。

「どうした?」

そんなあたしを尻目に、剣治は空を見て眉をひそめた。
あたしも緊張に汗ばんだ指を解いて、空を見る。

「あ…あたしね」
「ふむ」
「あたし、剣治のこと……好き」

剣治はパッとあたしに向き直り、目を見開いた。
もしかして、まったく予期してなかった?
女の子が呼び出したんだから、少しは予想くらいするのが普通ってもんでしょうが。

「…」
「…」

あたしたちは黙って目を合わせ続けた。
けど、そろそろ辛い。心臓が口から出そうだ。

「本田京子…」
「うん」

剣治がやっと口を開いた。
その声はいつもと変わらず、妙にあたしの頭に響いてくる。

「俺は…君の期待に応えられない」
「うん…そっか」

以外と素っ気ない声を出せた。
まるで、朝食に何を食べたかを話すときみたいに自然な声音。

「そうかなって思った。あたし…ガサツだもんね」
「いや、そういうんじゃない」

剣治は慌ててそう口にする。
なによ?

「武志があたしを好きだから?」

ほっとくと今にも慰めの言葉を口に出しそうな剣治に、あたしは少しヤケになって続ける。

「剣治になら抱かれたっていいって思ってるんだよ?」

少し早口でまくし立てる。

あたしに駄目なところがあったら直すよ?
だから…。

「本田京子は俺にとって、ライバル…なんだ。だから」

上がった息を整えるあたしに、剣治はそう言った。

友達としてなら、ライバルとしてなら、見れる。
1年前にあたしが武志に言ったのと似てる。
でも、それは「君は恋愛対象じゃないって」言ってるのと同じ。

そこまで考えて、あたしは目を逸らした。
少し困ったような、慰めるような彼の顔をもう見ていられない。
剣治、こういう表情もするんだ。あたし、今まで何見てきたんだろう。

「じゃあ…これからも…友達、ううん、ライバルでいてくれる?」
「あぁ…もちろんだ」

小さくつぶやいたあたしに、剣治はそう返す。
うつむいたあたしからは、彼の顔は見えない。

「ありがと。ゴメンね、急に呼び出したりして。もう…大丈夫」
「いや、こちらこそすまない」
「…謝らないでよ」

あたしは苦笑して剣治の肩を力ない手で押した。「行って」の合図。
もう涙を堪えられそうにないから。



彼の後ろ姿が見えなくなるのとほぼ同時に、あたしはその場にしゃがみこんだ。
駐車場に人影はなく、黒い空があたしに遅れて泣き出した。

あたしの頬を雨粒が打ち、濡れた前髪が視界を塞ぐ。
だから?もう見たい人は目の前にいないよ。

白いTシャツが濡れて肌に張り付く感触。きっとブラが透けてる。
だから?もう見て欲しい人は目の前にいないよ。

「…京子?」

武志の声。
強くなる雨に負けないくらいの大きい声。

「どうしたんだよ。びしょ濡れだぜ?」
「うん」

あたしの頬を打つ雨粒が急に止む。
傘…だね。

「剣治となんかあったのかよ」
「うん」

その質問にはしばしの静寂。
少しだけ明るい声を作れるように息を整える。

「あたし、剣治にフられちゃった」
「…はぁ!?お前、剣治のこと好きだったのかよ?」
「まぁね。…気づいてなかった?」

あたしは――泣き疲れた顔だったと思うけど――クスリと笑う。
口に出したら、ほんの少しだけ気分が楽になった。

「京子」
「ん?」

あたしは顔を上げて、濡れた前髪を指で除ける。
一つ傘の下なんだから当たり前だけど、思ったより近くに武志の顔。

「俺、やっぱお前のこと好きだよ」

あたしはポカンとして武志の顔を凝視する。
相変わらず突拍子のないこいつに、少し腹が立ってきた。

「ダメ。パス。あのねぇ…普通こういうタイミングで言わなくない?それに…」

なんにでも”キッカケ”はあると思うんだ。
今までなんでもないと思ってたものが、急に違って見える瞬間、その理由。

あたしにとってのガンダムウォーで言えば、常連さんがくれた1枚の中東国であり、ここまで一緒に来てくれたあんたや松岡なんだよ?
そして、あたしにとってはあの日の剣治は大切な”キッカケ”。

だから許して欲しい…あんたとは”キッカケ”が無かった。
あんたとじゃダメなんだよ。

あたしは剣治の顔を思い出して息が詰まる。

「それに?」
「フられたからって、あたしまだ剣治のこと好きよ」
「そっか。…いいんじゃね?俺だってお前のことまだ好きだし」

そっけなく言う武志に、「あっそ」とあたしはつっぱねる。

もしも、もしもの話だけど、今まで近すぎて見えなかった”キッカケ”がどこかにあるとしたら…あってもいいかな。
あたしはそんなことを考えている自分に少し驚きつつ、手を差し出す。

「がんばりましょ。お互い」

武志の手をつかみ、それを支えにあたしは立ち上がった。

「お、透けてるぜ?」
「ばか」



あたしたちは歩き出す。

冗談ばっかり言うし。

寄り道もするかもしれない。

でも、それでいいじゃない。

人生、山あり谷あり。

先は長いんだからさ。


おわり




txt:Y256

初出:あたしのガンダムウォー
掲載日:09.08.29
更新日:10.04.14