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土曜日の昼下がり、外は雨。
おもちゃのカキヨの隣にある対戦スペースでは、ガンダムウォーの『GTシード権大会』が行われていた。

「ガデッサ(ヒリング機)が攻撃に出撃ッ!」

姉さんの向かい側に座った相手プレイヤーは、そう言ってユニットを出す。
緑と紫の指定国力を持つデュアルユニットだ。

「いいわ。ガデッサのテキストで1枚ずつユニットを落として間に合うとでも?」

姉さんは挑発気味に笑い、自分の場のユニットを指す。
ひとつに結ばれた後ろ髪が動きに合わせて揺れた。

トールギス3&トーラス(ノイン機)、アウトフレーム(バックホーム)、フリーダムガンダム(ハイマット)が並んだ姉さんの場。状況は圧倒的に彼女の有利。
本国の枚数から見ても、最速次のターンで勝負は決まるな。
と、観戦していたミキオは思った。
この日もミキオたち3人は大会に参加していたのだが、2回戦が終わる頃には全員が負けてしまっていたのだった。

「フフフフッ!!そんな陳腐な攻撃なんかしないさッ!ガデッサのダメージテキスト解決後、凄惨な結末をプレイ!」

相手はコマンドカードを手札から出し、姉さんの配備エリアにあるユニット3枚を指差した。
ダメージを1でも受けている敵軍ユニット全てを破壊する黒のコマンド。
ちなみに、相手の場には緑のGが3枚、黒のGが1枚、赤のGが2枚並んでいる。

「ガデッサからダメージを受けていた、そっちの全てユニットは破壊される!」
「派手な攻撃ね…でも忘れてない?フリーダムガンダム&キラの効果をさ」

姉さんはトントンと人差し指で――虹色の箔が押された――カードを小突き「G3枚をロールコスト、ハイマットの破壊は無効よ」と宣言した。
相手は了承しユニットを帰還させると、ターンを終了した。
ユニットを2枚破壊することでどうにか戦線を維持できたが、フリーダムガンダム(ハイマット)とACEの11打点、11回復によって相手は2ターン後に投了した。

「「ありがとうございました」」

2人は頭を下げる。
この勝負…決勝に勝利したことで、その日の優勝は姉さんに決まった。


第16(22)話 一方通行



大会が終わり、対戦スペースにいたプレイヤーはずいぶん減った。
雨が止む様子はなく、路面に降り注ぐ激しい雨音がガラス扉越しにも聞こえる。

ドア側のテーブルで雑談していたミキオたち3人。
タンサンは緑のACEがなぜユニオンフラッグ&グラハムなのかと持ってもいないカードに文句を言い、ナツキは電話で迎えを頼んでいるところだった。
ミキオはミキオで、タンサンに「んなの知るか」と言い返しつつ、テーブルの上に自分のデッキを広げ始める。
カードを種類ごと、名前ごとに分け、短く唸る。

「デッキ内容が気に入らないわけじゃないんだよな」
「ミキオちゃんミキオちゃん。これ入れようぜ~」
「マーメイドガンダムだ?いるかよ、んなもん」

ミキオは、差し出されたカードを一瞥し、ストレージBOXに戻す。
タンサンは「んー…だよな」と笑う。

「やっぱ、対戦回数が決定的に足りない」
「言うと思ったよミキオちゃん。おれっちも同感」

ミキオとタンサンは口々にそう言う。
新しい学校生活が始まって、大会以外でカードを触る時間が明らかに減ったのは事実だった。

「よし、じゃあ今度の連休にウチんちで合宿しようよ!」

携帯をパタンと閉じて、ナツキが小さく跳ねてテーブルに戻り、一声。
突然そんな提案をする彼女に、ミキオは「は?」と眉を上げる。

「いや、案外いんじゃない?ナッちゃんちなら広そうだし」

ナツキの提案に同意するタンサン。
射勢家には行ったことはなかったが、使用人がいることや、高級車を所有していることから予想しての発言だった。
ミキオもそれはわかったが、どうもナツキの家に泊まってもレベルアップが図れるビジョンが思い浮かばなかい。

「オーケー。わかった」
「ホント!?やった☆」

無論ナツキが喜んでいたのは「自分の家にミキオが泊まる」という部分なのだが。
ミキオはそんな彼女の考えを知ってか知らずか、「でも…」と続けた。

「強化合宿やるなら、姉さんも呼ぼうぜ?」

今度は、ミキオが泊まるということに心を躍らせていたナツキがピタリと止まる

「うがー!なんでアイツも呼ばなきゃなんないの!?」
「オレらだけでやるより収穫あるだろ?絶対」

ナツキは反論に困り、ただミキオに非難がましい視線を向ける。
また姉さんかよ!と怒った顔を作るが、ミキオに効かないのはわかってる。
案の定彼は、「やっぱりオレたち3人だけじゃ意味ないしな!」と一人頷いた。

「ちょっと聞いてくるぜ。次の連休だな?」
「…うん」

ミキオは日程をさらっと確認して、姉さんがいるほうのテーブルに歩き出す。
途端にトーンダウンするナツキ。
そんな彼女がさすがに可愛そうだと思ったのか、タンサンが「ナッちゃん?」と声をかける。

「なに?」
「ナッちゃんのおっぱいが小さいせいじゃないぜ?」
「っ…うがー!!」

彼なりに慰めたつもりだったのだが、間髪いれず殴られるタンサン。


×××


「姉さん」
「なに?」

姉さんはデニム生地のスカートにパーカーを羽織った格好で、一番奥の席に陣取って青年と喋っている。
その男性をミキオは知っている。姉さんの幼馴染、藤野武志。
中肉中背に短くそろえた黒髪の優男。といった風貌に似合わず決断力のある青年で、ミキオも一目置いていた。

「地区予選も近いんで強化合宿をやることになったんですけど、参加してくれませんか?」
「あたしが?」

ミキオは「はい」言って、姉さんに頭を下げる。

「行ってやれよ、きょ…」

姉さんの”名前”を呼びそうになった武志の口を、彼女は手で制する。
その手をどかして、「なんだよ?」と口を尖らせる武志。

「今回は『姉さん』で通してるから。そこんとこよろしく」

姉さんは人差し指をびしりと立て、得意げな表情で宣言した。
同級生に見せるこういう一面を見るたび、自分たちに対しては随分「お姉さん」として気取ってるんだな。とミキオは再確認するのであった。

「なんだそれ。意味不明だっての」
「てか、”行ってやれ”じゃないでしょ。あんたも来るの」

姉さんはそう言って「特訓なら人数は多いほうがいいわ」と続けた。
彼女の言い分を半分も聞かないうちに、武志は「俺もいいのか?栗田」とミキオに向き直る。

「もちろんっす。藤野センパイ」

ミキオは家主のナツキに伺いを立てることなく即答した。
ふと外を見ると、見たことのある車が止まっていた。運転手はもちろん、あの使用人。

「さ。夕飯の支度もあるから、そろそろ帰るわ」

姉さんは結んであった髪の毛のゴムを取り、小さく首を振った。


つづく


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txt:Y256

初出:mixi(10.04.13)
掲載日:10.04.13
更新日:10.04.14